Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
「兄じゃ、わらわのも見てくれてはくれぬか?」
蛍が製作したであろう巫女装束がとてもよく似合った観月が、陽太郎の袖を引っ張る。
「ん? どれどれ――」
妹たち相手だと、少し言葉使いを合わせてしまう。
「これじゃ!」
観月は勢いよく紙を陽太郎の前へと突きつける。
しかし、それは白紙であった。
陽太郎は首を傾げた。まさか、観月は姉妹の中でとりわけ霊感が強いというから、これもその類のやつなのだろうか……。
陽太郎は、白紙の紙を突き付けてくる観月のその意図になにか深い理由があるのでは――考えた。
そして、思考を巡らせながら、言葉を紡いだ。
「観月はどんなお願いをしたんだ?」
「うむ。よくぞきいてくれたぞ!」
得意げな顔をした観月の表情をみて、陽太郎はほっと胸を撫で下ろす。
「これはみなの欲がいっせいに、この家に集まるからわらわが唯一の逃げ道を作ってあげたのじゃ!」
「に、逃げ道?」
嬉しそうにそう話す観月とは裏腹に、陽太郎の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
「そうじゃ!」
「なら、観月のお願いは無いってこと?」
「いいや、わらわとて人の子。欲にまみれよう時もある――」
「そ、そうなんだ」
「そうじゃ。だから、これは兄じゃにだけ教えるのだが――」
観月の表情は一瞬にして、しおらしくなった。
「本当は、もう一つだけお願い事をしたのじゃ……」
観月は周りをきょろきょろしたあとに、陽太郎にだけ聞こえる小さな声で告げた。
「それは家内安全じゃ。けれど、これが公になってしまえば、わらわが作った逃げ道が意味を成さなくなってしまう。だから――――このことは他言無用で頼むぞ、兄者」
ほくそ笑む観月をみて陽太郎は、観月がなにをしていようと、しっかりと自分の願い事があった、という事実につい頬が緩んだのであった。
*
「ちょっと、お兄ちゃん。よろしくて?」
観月と話を終えた陽太郎の背後から声を掛けたのは、真璃だった。
「ん? あぁ、なんか――」
用でも? と言い切る前に、陽太郎は何故、自分が呼ばれたのかを悟った。
流石に何回も経験すれば分かる。
だから、陽太郎は訊かれる前に、先に言葉を紡ぐ。
「真璃はどんなお願い事をしたんだ?」
「ふふっ――フェルゼンったら、せっかちさんなんだからもう――」
真璃は上機嫌にそう答えた。
どうやらこれは俺の読み通りだった。と陽太郎は心の中で軽くガッツポーズをする。
「そうね、でも、フェルゼンになら見せてあげてもいいわよ」
そう言うと、真璃は懐から一枚の紙を取り出した。
「これよ」
差し出された紙を覗き込むとそこには――。
『お城』とだけ書かれていた。
「真璃はお城に住みたいの?」
「うんっ! そうよ。だってそうすれば、家族みーんな一緒にずっと暮らせるもの!」
「この家もだいぶでかい気がするけど……」
「まったく、フェルゼンは女心が分かってないわね」
十歳近く年下の妹から言われてしまった。
「女の子は誰だって、お城に住みたいと思っているものなのよ!」
「そ、そうものなのか……な?」
「そうよっ! だから、フェルゼンはマリーだけじゃなくて、家族みんなをまもる騎士になるのよ?」
不敵な笑みを浮かべた真璃は、年の差感じさせないほど、大人びた雰囲気をしていた。
遅くなりました。