Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
妹たちの願いを聞いていると、別の部屋から可愛い可愛い鳴き声たちの報せが届く。
あ、もうこんな時間か……。
陽太郎はそこでようやく時計を見る。
おチビちゃんたちが昼寝から起きて来たのだ――。
「えへへ、そらもやる――っ!」
寝起きだというのに、元気にはしゃいで廊下を走るのは、十八女の青空。
「さ、さくらも~~」
「にじもおねがいするー!」
その後を十七女の虹子が、そして最後に十六女のさくらが追いかける。
まるでかけっこ競争のように。そして、みんなのゴールはもちろん――
「ち、ちょっと――危ないって!」
――大好きなお兄ちゃん。
「そらがいっちばーん!」
青空は、ぱっと明るい笑顔を陽太郎の足元にくっつける。
すると、その後ろで。
「にじね、ちゃーんとお昼ねして待ってたのだから――なでなでしてー」
虹子が小さな手を上げて陽太郎を見上げていた。
「さ、さくらもお兄ちゃんといっしょがいい――」
最後に、空いているもう片方の足にさくらがしがみつく。
陽太郎は疲弊の色一つ見せずに、虹子を抱きかかえると、リビングの隣、先ほどまで妹たちの願い事を聞いていた部屋へとなんとか移動して、腰を下ろした。
今度の妹たちは紙に書くことも、陽太郎が訊ねることもなく、口々に自分の願い事を唱える。
「そらはね、男の子になりたいの!」
青空は姉妹一と言って良いほどに活発な子。お人形遊びよりも虫取りが大好きなのだ。
陽太郎はどう言えばいいのか……と言葉を詰まらせていたのだが――
「それでね、お兄ちゃんといっぱい虫とりするんだ!」
――青空の欲張りすぎる願いでつい頬がほころんだ。
「そっか。なら、今度一緒に虫とりしに行こうね」
「うんっ! ありがとお兄ちゃん――♡」
えへへ――と青空もまた笑顔になった。
青空とは二才上のお姉さんであるさくらは、ちょっぴり内気な性格だった。
でも、いつも握りしめているぬいぐるみの代わりに、お兄ちゃんをぎゅっと掴めばなんだか元気と――そして温かさが貰えた。
「あ、あのね、お兄ちゃん。さくら――いーっつもおそくてのろまさんなの。でもね、お兄ちゃんとずーっといっしょにいたいから、おねがいごとしたんだ。さくらがどんなにおそくても、お兄ちゃんといっしょにいられますようにって――――」
「そっか、でも大丈夫だよ――」
陽太郎はさくらの頭に手を乗せると、笑顔で言った。
「みんながちゃんといるかどうかを確認するのは、お兄ちゃんの役割だからね――」
「うん♡ ありがとうお兄ちゃん――」
姉妹一かもしれない――おしゃれさんでおませさんな虹子は、抱きかかえてくれているお兄ちゃんを見上げる。
「にじね、もっとも――っとおしゃれさんになりたいの!」
「虹子はもうおしゃれさんじゃないか?」
陽太郎がそう言うと、
「ううん――だってまだまだおにいちゃんをゆうわくできてないもん!」
「えぇ――!?」
そんな言葉どこで――と陽太郎が驚いていると、視界の端ではしゃでいる立夏を捉えた。
恐らく妹たちにこんな言葉を吹き込んだのは――。
はぁ……と隠していた疲れが陽太郎の口から姿を現した。
「だいじょうぶお兄ちゃん?」
先ほどの表情とは一変、虹子は心配そうに陽太郎を見上げた。
「あ、うん。大丈夫だよ」
「ほんとに――? おなやみがあるならにじがきいてあげる♡」
「あははっ――ありがとね」
いつしか陽太郎の表情に笑顔が戻ってくる。
「あっ――! お兄ちゃんわらった! もしかして――にじにゆうわくされちゃった?」