Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
天使家(あまつかけ)のリビングの空気は、外気の寒さとは裏腹に暖かく――ほんわかとしていた。
時刻は一時を回って、ちょっとの時間。
いつもならまだ、学生組は午後の授業を行っている時間。けれど、今日は終業式のため早く帰宅することが出来た。
リビングには、三女の春風と五女の蛍がクリスマス・イブだから――と言って料理を作っている。
そして、七女の立夏を筆頭にした中、小学生組――八女の小雨、九女の麗、十女の星花、十一女の夕凪はリビングと吹き抜けで隣にある十畳ほどの部屋でなにやら作戦会議をしていた。
そして、もう一人。その妹たちを眺めながら、小さい溜息を何回も吐き、椅子の背にもたれ掛かる陽太郎であった。
――はぁ。
また一つため息が出る。
今日はどうせならヒカルと一緒に帰ればよかったのに――。
そのため息に含まれていたのは、自らの情けなさと後悔の念であった。
ヒカルはいつも「気にするな」っていうけど、やっぱり――。
陽太郎がヒカルに対し、まっすぐに向き合えない理由。それは自分が気軽に話しかけなんかしたら、ヒカルに迷惑が掛かってしまう――という懸念だった。
学校には、俺を何故か目の敵にする〝ファンズ〟って言う存在もいるし……。
考えれば、考えるほど陽太郎は答えから遠ざかっている様な気がしていた。
そもそも答えなど、あるのだろうか?
ふと、思い浮かんだのはヒカルの顔。
とてもじゃないが、ヒカルが何か考えている様には思えなかった。
その時――。
「ただいま」
扉越しの――玄関からヒカルの声が聞こえた。
ぴくり。陽太郎の体が反応した。と、同時に少し緊張が走った。
とりあえず――。
と、思い椅子から離れ、立ち上がる。
しかし、そんな陽太郎の元に来たのは――、
「いやぁん、王子様――春風、大事なことを忘れていました」
エプロン姿が良く似合う春風だった。
陽太郎の正面に来た春風は、ぐっと身を乗り出すと陽太郎の急接近する。
「ちょ、ちょっと――――」
有無を言わせない春風の姿。陽太郎の視線は春風の顔と、奥の扉を行き来していた。
こんな所――ヒカルに見られたら……。
陽太郎は焦ったあまり忘れてしまう。自分たちが家族だという事に――。
このままではマズい――。
自分の直感を信じ、陽太郎は春風の肩に手をあて、距離を取る。すると、その時。
春風の長く綺麗な茶髪が陽太郎の鼻をかすめる。
「はくしょん!」
間髪入れず、大きなくしゃみが出る。
その時――がちゃりと奥の扉が開くのを陽太郎は薄めで感じた。