Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
――――ガチャ。
奥の扉が開いた。
陽太郎はそれを横目ながらにしっかりと視認する。
さっき見られた状況をヒカルは誤解しているかもしれない。
だったら、最初に自分に近づいてきた春風からの要件を聞けば、ヒカルは気づいてくれるかもしれない。
憶測に次ぐ希望的観測。
陽太郎の考えは全て根拠のないものだった。
ゆっくりと開く扉。
いつの間にか陽太郎の視線は、扉だけを見ている様になった。
春風はそれに釣られ、一緒になり、扉の方に目を向ける。
そして、そこから現れたのは――――、
「ふぅ~なんとか、ちびっこ達を寝かせ付けてきました、春風姉様――って、何見てんのよ! 下僕のくせに!」
名は体を表すのごとく、クールな印象を与える銀髪をサイドテールにし、ややつり目の鋭い眼光を陽太郎に向けるのは――六女の氷柱だった。
「あら、氷柱ちゃん――ご苦労さま」
春風はそう言うと、
「ごめんさない、王子様。春風――そろそろお料理のほうに戻らなきゃいけませんの」
「あーいや、こっちも大した用じゃないんだ――」
「では、春風――王子様に喜んでもらうために丹精込めて頑張りますね」
――きゅん、と胸の前で可愛らし仕草をすると、春風はキッチンへと戻っていった。
呆然と立ち尽くす陽太郎はそこで――、
あれ……よくよく考えれば用があるのは――春風の方なんじゃ……。
という事に気が付いた。
しかし、その思考を
「ちょっと、何ぼけーっと突っ立ってるのよ、下僕!」
氷柱の言葉が遮った。
「えっ――俺?」
「当たり前じゃない。ほら――ぼさっとしない!」
氷柱は陽太郎の手を引くと、部屋を出た。
「ちょ、ちょっと――一体どこに――」
「はぁあ? 買い出しに決まってるでしょ! 何でそんな事も分からないのよ、この下僕は!」
いや、そんな事言われたって――。
陽太郎の有無を言わせぬ、氷柱。
彼女の食ってかかっても、どうせ行く羽目になるのだ。
だったら、最初から抵抗しない方が賢明だ。
それは陽太郎がこの家に来てから覚えた手段の一つだった。
「分かったよ――」
陽太郎は引っ張られた手をほどくと、自分の足で玄関へと向かった。
「ちょっと、下僕――」
今度は何だ――。
ややイラつきを覚えながら、陽太郎は氷柱の声に振り向く。
「――もう、外は寒いんだから……ちゃんと暖かくしなさい、よね」
暖房のせいか、頬を染めた氷柱が、陽太郎の首に手を回す。
「ほ、ほら――あの子たちはどうやら、残念な事に貴方に懐いているみたいだから――」
首元に暖かみを感じる。
「勘違いしないでよ、これは貴方が風邪を引くと、あの子達が困るってだけ――なんだから……」
陽太郎の首に巻かれたのは、真っ赤な毛糸のマフラーだった。
「これって――」
手編み? と、言おうとした瞬間、
「それじゃあ、行くわよ……下僕」
氷柱がそれを制した。けれど、陽太郎の首に巻かれたマフラーと同じ――いや、それ以上に顔を真っ赤にした氷柱の顔を見て、陽太郎はその事がどうでもよくなっていた。
「……ありがとう、氷柱」
「っな!? う、うるさいっ! バカ下僕! もう行くから――――」
慌てて玄関を飛び出す氷柱に陽太郎は、いつもは生意気だけどどこか憎めない愛らしさを感じた。