Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~   作:明棲木親池

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第6話

センサーが反応すると、左右の扉がスライドして開く。

その光景をぼけーっと見つめていると――、

「ちょっと、バカ下僕早くしなさい!」

向かいから来る氷柱は、両手いっぱいにビニール袋を持っていた。

「分かってってば――」

陽太郎は有無を言わずに、氷柱からパンパンに膨れ上がったビニール袋を受け取る。

こんなに何買ったんだろ――。

隙間から中を覗くと、そこには小麦粉や卵などのケーキでも作るような材料と――あんこ?

「ん? これ――」

陽太郎が言葉を漏らすと、

「あぁ、それは霙姉様によ」

と、氷柱が答えた。

「そっか」

簡素に答えた陽太郎に、氷柱は

「ちょ、ちょっと――」

機嫌を悪くしたのか――と陽太郎は内心思い、氷柱の方を振り向く。

「重くない?」

だが、氷柱の口から出た言葉は陽太郎を心配してのものだった。

「いや、大丈夫だよ」

「そ、そう……なら――いいけど」

ボソッと呟いた氷柱の声に陽太郎は笑顔で返す。

「な、なに笑ってるのよ――」

「い、いや――――氷柱も俺の事心配してくれるんだなってさ」

「ば、バッカじゃないの! 貴方がどんくさいから私は――」

ヒートアップしていく氷柱の反論に、陽太郎は笑顔を浮かべる。

「――って、貴方、人の話聞いてるの!?」

寒空のもと、陽太郎と氷柱の雰囲気はどこか暖かくほんわかとしていた。

すると、そんな二人の背後から声が聞こえた。

「あれ、氷柱と――陽太郎じゃないか」

それは二女の霙だった。

高校三年生で生徒会の仕事を終えた霙は、春風、ヒカル、陽太郎と同じ学校に関わらず、帰宅が少し遅れていた。

「み、霙姉様!」

氷柱は声を荒げ、反応する。

「なんだ――私をお化けが出たみたいな反応をして――――」

霙が言うと、途端に氷柱はまた顔を真っ赤にする。

「べ、別にそんなつもりは――」

言葉に詰まる氷柱に陽太郎は救いの手を差し伸べる。

「ところで、霙――姉さんは今帰り?」

「あぁ、生徒会の仕事があってな――まぁ、なんだあんこを食べる事に比べたら些細な事だ」

ぎくり。どうやらビニールの隙間から見えていたらしい――。

まぁ、バレても大丈夫だと思うけど、と陽太郎はほっと胸を下ろす。

「そうだ――ちょうどいい。氷柱――少しの間こいつを借りてもいいか?」

「えっ――」

霙の急な提案に氷柱は声を漏らす。

「お前も――いいか?」

ぐっと身を乗り出した霙は、小悪魔の様な笑みを浮かべ、陽太郎に尋ねる。

「い、いや――俺は――」

陽太郎が言う間も無く。

 

「……嫌なら嫌ってハッキリ言いなさいよ」

 

陽太郎に聞こえない様にボソッと言った。直後。

氷柱はパンパンに詰まったビニール袋を陽太郎から取り上げ、眉を吊り上げながら言い放った。

「どうぞ、霙姉様――こんな下僕さっさと連れて行って」

陽太郎は氷柱が何で怒っているのか、分からなかった。

けれど、そんな氷柱がどこか放っておけなくて――、

「ちょっと、待って氷柱――」

一旦、自分の首に巻いていた真っ赤なマフラーを外すと、次に氷柱の首へと回した。

「ちょ、ちょっと――」

突然の事に焦る氷柱だったが、

「帰りは涼てもふさがって寒いから――一応、これぐらいはさせてくれ」

今度は陽太郎が少し強引にそのマフラーを氷柱に巻いた。

 

      *

 

全く――あのバカ下僕は……。女の子にこんな重い荷物を持たせていくなんて――。

霙、陽太郎と別れた帰り道。氷柱は心の中で愚痴をこぼしながら、パンパンに詰まったビニール袋を持っていた。

霙姉様も姉様よ――急に現れて、下僕をよこどりしていくんだから――。

あぁーもうっ! 考えれば考えるほど、イライラする!

もう、下僕のやつ――帰ってきたら容赦しないんだから!!

 

「バカ」

 

首に巻いてあるマフラーを口元まで上げた氷柱は口ごもる様にして、呟く。

ほのかに香る柔軟剤の香りともう一つの違う香り。

氷柱の顔は家に着くまで、終始マフラーと同じ色をしていた。

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