・・・あれから何時間、こうしていただろうか。
最早町の光もぽつぽつと消えていき、一部の店しか営業していない。
住宅街は勿論暗闇に包まれており、俺の居る小高い山の山頂からは全てが見渡せた。
そして、だからこそ俺は理解する。
ああ、ここは俺の居た町なんだと。
大きく白い病院が向こうの方にそびえ立っている。恐らくそこの窓際の一室に隔は眠っているだろう。
動かない足、動かせない体。
妖夢は恐らく死んだ。
霊夢と魔理沙は俺が力不足だった所為で今も意識が無い。
咲夜さんやレミリア様、フランやパチュリー、美鈴さんにもたくさん迷惑を掛けた。
爛漸苦にも勝てず、紫も倒せず。
・・・暁も、隔も助けることが出来なかった。
何も出来ない。力があっても、何も出来ない。
全ての行動で多くの人に迷惑を掛け、それでも俺は皆を助けられなかった。
・・・・もういっそ、死んでしまえば楽に成れるんじゃ無いか?
迷惑しかかけない邪魔が居ても、無駄なだけだ。
気づけば、俺の右手は桜ノ蕾を握っていた。
立ち上がり、光の消えた町を望む。
暗い街は、俺の内側を表している様で。
シャラアアン…
鈴を鳴らすような綺麗な音と共に、鋭利な冷たい白刃が空気に触れる。
もう、終わりにしよう。
何もかも、全て投げ捨てよう。
・・・・俺には、何も出来ないのだから。
一息、大きく息を吐く。
右手に携えた刀を上に持ち上げ、首に押し付けた。
何時もなら頼もしい冷気が、今は体を切り裂くかのように恐ろしい。
目を閉じ、一度息を吐きーーー俺は腕に力を込めた。
冷たい刃が更に押し付けられ、肌を裂く・・・
「何勝手に死のうとしてんですか?斬りますよ?」
事は無く、寧ろ腕が動かなかった。
死ねなかった。それよりも、掛けられた声に、俺は驚愕する。
俺の右手を片手で抑え、優しい笑みを浮かべている少女は。
「妖、夢・・・!?」
「はい、妖夢です。」
・・・さっき、俺が辿り着くことが出来なかった少女だった。
服は確かに破けており、頬には絆創膏等が貼ってある。
何時もの愛刀を腰と肩に付け、黒いカチューシャは風に揺れていた。
「何で・・・!?妖夢は、爛漸苦にボロボロにされたって・・・!!」
「ええ、まあされましたね。妖怪にも暴行されかけましたし。」
「どうやって!?あいつが動ける状態のまま放置するとは思えない。」
「赤いマフラーを付けた少女・・・暁さんが助けて下さいました。」
「暁が・・・!?」
桜ノ蕾を手から取られ、腰に付けてある鞘に納められる。
そこまでした妖夢は俺の肩を掴み、呟いた。
「とりあえず、お仕置きです。えいっ」
「お仕置きふぐおおおおおっっ!!!」
ゴヂンッ!!!
妖夢の頭が俺の頭に当たり、余りの痛みに思わず呻く。
額を抑えながら妖夢を見ると、妖夢は平然とした様子で俺を睨んでいた。
「まだやるべき事はあるはずです。・・・そんな簡単に、命を放り投げていいと思ってるんですか?」
「・・・俺が居なくなれば、俺が迷惑を掛ける事は無くなる。だから、俺なんて居ない方が良いんだよ。」
「逆に貴方しか助けることの出来ない人が死んで行くんですよ?・・・それに、真さんふざけてますか?たかが迷惑かけてる如きで命を投げ捨てる?そっちの方が迷惑です!真さんが今まで助けた人の中に、貴方が迷惑だと言った人が居ましたか?本心から、言われたことがありますか!?無いですよね?居ない方が良い?そうやって逃げてんじゃないですよ!!居なきゃ困るぐらいの人間にならないでどうするんですか!?貴方の言ってる事は、今までの全てを否定する言葉です!・・・暁さんも。隔さんも。どうだって良いんですね!?」
「そんな・・・訳、無いだろ!でも・・・幻夢も、陽炎も居ないんじゃ、俺は何も出来ないんだよ!!」
「少しは周りの人間に頼れって言ってんですよ!!!」
俺が否定した瞬間、妖夢は大きく叫んだ。
鋭い視線にはいつしか涙が浮かび、それでも妖夢は止まらない。
「一人で抱え込むな!私達が居るじゃないですか!回りが見えないんですか!?」
「そうね、少しくらい回り見なさいよ。」
「ちょっと寂しいんだぜ?」
「これは・・・買い物の量増加ね。」
「霊夢!?魔理沙!?咲夜さん!?どうしてここに!?」
「「「真を迎えに来た」」」
妖夢の後ろには、いつしか三人の恩人が立って居た。
そして、彼女たちは一糸乱れる事無く、普通で当たり前の事であると言う様に揃って口を開く。
「・・・分かりましたか?私たちは力で人を見てない。心を見て、言ってるんです。力が無い?だからどうしたんですか。ならば周りの人と手を繋げば良いんです。」
「そう言う事。私たちは真を見捨てたりしない。絶対にね。」
皆が賛同する様に頷く。
何も言えなかった俺は、その暖かさに身を包まれつつ口を開いた。
「ありがとう。・・・本当に、ありがとう。」
ここに、ごめん等のマイナスな言葉は要らない。
ただ感謝を伝えればそれだけで良い。
この暖かい空間は、たった一言で全てが伝わる様な世界が広がっている。
「・・・それに、策が無い訳じゃない。覚悟は良いかしら?真。」
深く頭を下げた俺の額に手を当てた霊夢は、そう呟いた後にやりと笑った。
「幻夢に、会いに行くわよ。」
無力な少年は、今皆と手を繋ぎ。
未来へ一歩、踏み出そうとしていた。