東方夢幻魂歌 完結   作:ラギアz

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第九章最終話「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

・・・俺は、黒い巨碗に胸を傷つけられながらも意識を保っている。

オーバーレイの力のおかげで大怪我にはならず、滅壊ノ星撃を完璧に打ち込むことが出来た。

遥か向こうで立ち上がった爛漸苦。

あれを喰らっておきながらも立ち上がった奴には最早恐怖すら覚える。

朧げになりつつあるオーバーレイを維持しようとしながら、俺は再び爛漸苦に向けて一歩踏み出した。

 

・・・瞬間、体から霊力が失われ、そのまま地面に倒れ込みそうになる。

 

「ハッ・・・ゼッ・・・・ハッ、ハッ・・・」

 

極限の集中状態からの解放により、世界が広がる。

汗が幾筋も肌を流れ、鼓動が激しく波打つ。

体を大きく揺さぶらせながら息をする俺は、一回大きく息を吐き。

 

爛漸苦と同時に、拳を握りしめた。

 

もう、オーバーレイの反動により霊力は使えない。

在るのは無限の思いと、ただ一つの拳のみ。

 

一歩踏み出せば、世界が加速する。

もう一歩踏み出せば、爛漸苦との距離が零に近づいていく。

 

 

・・・なりふり構わず、突き進むだけだ!!

 

 

「うオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

拳を固め、俺は走りながら叫ぶ。

息も切れ、立って居るのがやっとなぐらい疲れていもいる。

それでも、止まらない。絶対に。

 

 

爛漸苦との距離が、最早1m程となった瞬間ーーーーーー

 

 

俺達は、同時に拳を振った。

 

 

 

ドッガァアアアアァァァァァァンン!!!!!

 

 

 

 

 

 

全力で振り抜かれた拳は爛漸苦の頬骨を砕き、そのまま爛漸苦を地面に叩きつけた。

爛漸苦の拳は途中で力尽きたのか、力なく俺の胸に当たる。

 

背中を強く打ち付け、二、三回跳ねた爛漸苦はそのまま起き上がらず、虚ろな瞳を宙に漂わせた。

 

ぽつ、ぽつと雨が降り始め、それは段々と強くなっていく。

俺達を雨が濡らす中、一筋の風が吹くと同時に爛漸苦は呟いた。

 

「あーあ・・・最後の最後で負けちまったか・・・。はは、憎悪と怒りだけになっても、ここまで差が開くとはなあ・・・。凄いよ、真は。」

 

雨か、涙か。

頬を滴が流れ落ちると同時に、爛漸苦の指先から光の粒子となった魂が曇天に吸い込まれていく。

 

 

「・・・もう、無理か・・・。色々あった人生だったなあ。・・・なんだかんだで、楽しかったな。」

 

自分のこれまでの歴史を振り返り、爛漸苦は自然と笑みを浮かべる。

腕で自身の目元を擦り、もう体の半分が空に消えた爛漸苦は俺に告げた。

 

 

 

 

「お前ともっと早く出会えてたら、良い友達に成れてた気がするよ。」

「・・・そうだな。もっと、もっと早く出会えてたら・・・。」

 

 

 

 

そして、爛漸苦は右手を伸ばした。

俺の頬に触れたその手から、悪意の無い混沌が弱弱しく燃え上がる。

 

「・・・俺の・・・あと、一欠けらの混沌を・・・持って行ってくれないか?これが・・・俺が、生きていたって言う証に成る。」

 

「俺で良ければ・・・混沌(お前)と、一緒に歩むよ。・・・お前の分も。全力で。」

 

その右手を掴み、俺はゆっくりと語り掛けた。

瞬間、混沌が一欠けらだけ体に流れ込む。

悪意の無い、それでも未来への希望をるよく秘めた欠片は、魂の奥深くにピースをはめた。

 

その右手さえも、曇天に消えて行こうとしている。

 

 

 

最後に、爛漸苦は笑った。

 

 

「ありがとうな、真。」

 

・・・その笑顔は儚く、そして。

 

 

ーーーー初めての、本心からの笑みであった。

 

 

俺の目の前で、俺の手の中で、爛漸苦は空に散った。

”ありがとう”。その言葉は俺の頭の中にずっと響き、深く染み渡って行く。

 

 

「・・・俺は、お前を救えたか?」

 

 

ぽつりと自然に出る言葉。

呟かれたその小さな言葉に、答えるものは居ない。

 

それでも、俺は立ち上がった。

 

一歩、踏み出すために。

 

 

 

 

 

曇天から降り注ぐ雨粒。

静かに雨音を立てながら、まるで幻想の様に唄を紡いで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あーあ、何してくれてんだよ。折角使える駒だったのにさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その最中、聞こえた一つの声。

 

 

 

「ったく・・・。あんなゴミでも使ってやったんだからよ、少しは頑張れよなあ・・・。死ぬ気で天音真を殺せよ。あ、もう死んじゃったかあ。」

 

 

 

段々と近づいて来る足音は、爛漸苦の事を馬鹿にしていて。

 

 

「まあいいや。・・・やれ、暁。」

 

 

・・・そして、とある少女の名前を呟いた。

気怠そうな言葉と同時に聞こえる風切り音、振りかざされる妖力。

 

 

 

 

 

 

「・・・暁・・・!?」

「・・・っ!?」

 

 

 

俺が振り向いた瞬間、目の前の少女は驚いた様に目を見開いた。

死んだ筈なのに。

彼女の眼は、そう物語っている様で。

俺は、笑いかけた。

 

 

「言ったろ?助けるって。」

 

 

妖力が霧散し、同時に暁も後ろに飛び退る。

俺は無言で村正を暁に放り、呟いた。

 

「・・・なあ、お前が黄昏か?」

「ああ、知ってるのかい?」

「まあな。・・・とびっきりのゴミ野郎って事ぐらいはよお・・・・!!!」

「ははは、酷いなあ。・・・たかが虫けら程度の奴がさあ!!」

 

 

「オーバーレイ!!」

「行け、暁!!」

 

幻夢が俺の魂と同化し、守護と破壊の霊力が左右から燃え上がる。

オーバーレイの使える時間は後少し。

・・・黄昏に、一発入れる。

 

躊躇う様に、暁は村正の柄に手を当てたまま動かない。

だから、俺は一回笑ってーーーー

 

 

「博麗・零式!」

 

 

敢えて本気で、霊力を燃え上がらせた。

流星の様に尾を引く初代博麗の巫女の霊力は、曇天を裂き陽光を己飲みに浴びる。

 

 

そして、踏み出した。

 

 

・・・何も出来なかったであろう暁の横を駆け抜けた俺は、何の躊躇いも無く拳を突き出した。

音速まで届くのでは無いかと言う拳は、黄昏にぶち当たりーーー

 

 

「・・・ふうん。初代博麗の巫女と同じ技か。昔、紫とよく見たっけ。」

 

 

片手で抑え込まれた。

 

「な・・・!?」

「いや、弱すぎでしょ。」

 

当たり前、と言う風に呟く黄昏は俺の後ろを見た後に、呟いた。

 

「ああ・・・今回は分が悪いか。引くぞ、暁。」

「・・・はい。」

 

呆然と立ち尽くす俺の前で、暁と黄昏は霧のように消えた。

 

 

遥か後方から聞こえる皆の声。

 

「・・・オーバーレイさえも・・・通用しない・・・?」

 

・・・しかし、それらは俺の耳に入る事無く。

オーバーレイが解けた俺は、そのまま意識を手放した。




次回、十章。
黄昏、暁、紫。
新たな力、オーバーレイも通用しない中、彼らは何処に向かう!?

「俺は、目の前の一歩を踏み出すよ。」

「だから・・・一緒に、行こう?」

夜に捕らわれた少女を、今救い出せーーー!!

物語は、遂にクライマックスへ。
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