粉塵が徐々に薄れ、マスパが強引に作り出した道と魔力の残光がうっすらと見え始める。
そして、霊夢達は再び身構えた。粉塵の奥、大木にもたれかかる様にして未だに紫は立って居たからだ。
盾に使ったのか日傘は骨が折れ、布は破れている。それだけでは防ぎきれなかったのか、やはり八雲紫の服にも少しの血や泥が滴っていた。
「・・・今のは、少し効いたわ・・・。でもね、貴方達はもう手遅れ。私たちを、止められない。」
腕を力なく下げながら、紫は呟いた。瞳は真っすぐに霊夢を見据え、手負いの獣の様な覇気を放っている。
「どういう事?・・・手遅れ?何がかしら?」
「もう、夢幻魂歌の為のエネルギーは全て溜まり切った。魔理沙と、人形さんのおかげでね。そして、後一つだけになったのよ。たった一つだけ、必要な物が揃って居ない。・・・からこそ、貴方たちをここまで誘導した。」
「っ!まさか紫、あんたは・・・!!」
「博麗幻夢。あの子の魂さえあれば、全てが終わり、始まるのよ!」
紫は叫んだ。
辛く、悲しそうに。自分たちの希望が見えたのに、それでも暗闇に閉ざされているかのように。
唸る様な音と同時に、紫の背後に黒い空間が現れる。
「・・・さようなら。霊夢、魔理沙、妖夢、咲夜。」
後ろに倒れ込む様に、紫は黒い空間に吸い込まれていった。
霊夢達は動けない。虚空を見つめたまま、彼女達は自分自身の無力さを呪う。
ただ一人の、孤独な庭師を除いて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バースト、出力8%。
それを維持したまま、俺は全力で幻想郷を西へ西へと向かっていた。
・・・そして、俺は見つける。
何時かと同じ様な曇天、頬を撫でる生暖かい風。
小高い丘の上に、紅いマフラーをたなびかせる少女が佇んでいた。
「暁・・・!!」
木々の隙間を抜け、そのまま丘を駆け上る。
しかし、暁が俺に気づくと同時に黒い空間が目の前に展開された。見覚えのあるそれの中から、泥だらけの傷ついた大妖怪・・・八雲紫が現れる。
「こんにちは、天音真。ああ、妖夢とかは無事よ?もっとも、貴方の無事は保証出来ないけどね。」
挑発する様に紫は口を開き、ボロボロの日傘を杖にする。妖力は薄く、疲れ果てた彼女は次いで小さく呟いた。
「・・・幻夢の魂を貰いに来た、のだけれど。・・・私はもう戦えるほどの元気は残っていない。そして、暁はもう暁じゃない。これだけ覚えておいて。」
それだけ言うと、紫は後ろに飛び退った。暁と隣り合わせになった紫は、俺を指さす。
「良い?あれが天音真。あれが、貴方が殺さなければならない相手。」
「・・・わかった。ねえ、ころすってどうやるの?」
「手首を切り裂くとか、首を吹き飛ばすとかよ。」
「・・・こういうこと?」
感情の抜けたような、幼稚園児が尋ねる様に暁は紫に尋ねた。
そして、自身の手首を小太刀で切り裂く。鮮血が噴き出し、顔を傾ける暁を少し濡らす。手首を垂れ、地面に滴り落ちる血は土に吸い込まれていった。
「・・・そうよ。さあ、直ぐに終わらせなさい?」
「うん!わかった!」
紫が妖力で切り傷を治癒し、暁は元気に答える。此方を向いた紫の眼は、とても悲しそうで、少しばかり唇を噛みしめている様だった。
「暁、俺を覚えていないのか?」
「うん。だれ?」
小太刀を逆手に構え、暁は其の場で少し跳ね始める。
彼女は、俺の事を覚えていない。そして、今までの暁じゃない。
何故だ?何故だ・・・!?
そう焦っている俺に対し、暁はーーーー
「えいっ」
俺の手首に、白刃を押し当てた。