・・・お待たせしました。
「おや・・・暁、てっきり君は真の方に行ったのかと思ったよ。」
「そうですか。まあ情が移ってたのは確かですし、そう見られても致し方ないかと。」
「ははは、言う様に成ったねえ。」
「ええ。」
跪いたまま、暁は黄昏と言葉を交わしていた。
淡い微笑を浮かべつつ、月明かりをその身に浴びる暁は真の事を少し思い出し、更に笑みを深める。
「馬鹿な奴です。」
「そうだね。・・・じゃあ、ちょっと下の奴らと一緒に真を始末してきなさい?」
黄昏はそんな暁ににこやかに話しかける。言っている内容は酷くおぞましいが、彼の顔は陽だまりの様に暖かかった。
そんな黄昏の言葉に、暁は立ち上がりながら呟く。
「ええ。ケジメを付けたら大妖怪どもを始末しに行きます」
シャラアアン…
鈴を鳴らすような綺麗な音と共に、妖刀村正が引き抜かれる。
月明かりを浴び美しく光る白刃は冷たく、まるで少女の心を現したかのように真っすぐだった。
「・・・どういうことだい?」
立ち上がった暁に対し、黄昏は静かに問う。
重みを増し、固くなった雰囲気にも負けず、暁は一つ一つの事を思い出しながら言葉を紡いでいく。
「・・・私が希望も絶望も無い時に、光を照らしてくれたのが真でした。今まで誰も救けてくれなかった私を、けがれている私を初めて助けると言って、本当に助けてくれた人。言葉だけなら誰でも同じことが言える。でも、彼は実際にやり遂げてくれた。皮肉にも、貴方は私に朝の始まりと同じ意味を持つ名前を付けた。黄昏。夜の始まりに捕らわれ、一生来る事の無い朝として。」
でも、と暁は続ける。
強く前を見据える黒き瞳は光を、想いを宿し。
濁りは消え、湧き水の様な澄み渡った黒になっている。
「もう、夜は明けた。」
この一言が、少女の誓い。
小太刀を逆手に構えた少女は、黄昏を睨みつけた。
「・・・そうか。一つ聞きたいのだが・・・どうして、真を下に落としたんだい?」
黄昏も首を鳴らし、本格的に戦闘態勢に入ろうとする。
最後の問い。暁は二、三回口を開閉し、一度大きく息を吐いた。
そして、はにかみながら呟く。
「私が、死ぬところを・・・見られたくないから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うあああああああああああああああああああああああああ!!!」
技とか、何が弱点とか、関係ない。
なりふり構わずただただ霊力を込めた刀を振り回し、大妖怪を一つ残らず灰にしていく。
どけ。どけ。邪魔だ・・・!!
体から黒い奔流が放出される度に妖怪がよろめき、隙など関係なくガードの上から俺は桜ノ蕾を叩き込む。
でも、キリがない。このままじゃじり貧だと言う事もどこかでは分かっている。
「あああああああああああああああ!!」
再び咆哮。
無理やり体を動かし、俺は射程距離を拡張しながら大妖怪の首を切り裂いていった。
赤い鮮血が夜空に舞い、飛び散った妖力が俺の肌を叩く。
両手で剣を構え、全力で振り降ろした瞬間ーーーー
上の方で、轟音が轟いた。
暁に、何かあったかもしれない。
こんなところで。
・・・こんな所で・・・!!
もう声すらも出ない。
ただただ迫りくる妖怪の波を切り裂き、止めどない攻撃に耐え忍ぶ。
視界もぼやけ、体に刻み込まれた傷から自分自身の血が零れ落ちていく。
ここで死ぬのか?また、目の前の人を助けることが出来ずに?
違うだろ。
そうじゃないだろ。
決めただろ・・・全員、助けるって!!
「ああああああああああああああああああああああああ!!!」
喉が切り裂かれんばかりに叫び、気合と同時に黒い霊力が縦横無尽に星空を駆け巡った。
それでも、それでも届かない。
目の前にあるのに。手が届くところに、暁は居るのに。
認めない。
俺でさえ、この先の運命は分かる。
絶対に。
だからこそ。
『未来は、自分で創る』
幻想郷に来た時に、レミリア様に言われた言葉が脳裏をよぎる。
振るえ。刀を。折るな、心を。
しかし、それにも終わりはやって来る。
眼の前の大妖怪が大剣を大きく振りかぶり、小さい妖怪が俺を押さえつけた。
ーーーーー瞬間。
「真さん、ただ暴れるだけじゃ駄目ですよ。」
「間に合ったんだぜ!」
「ふふ・・・真をここまで痛めつけて・・・。どうなるか分かってるわよねえ?」
「どっせいい!!」
無数の銀閃が周囲一帯の妖怪を塵にし、虹色の光線が残った奴らを一掃する。
数え切れないほどのナイフが妖怪に突き刺さり、地面に叩きつけられた拳から放たれる衝撃波によって全てが吹き飛ばされた。
「・・・さて。ここは私達に任せなさい。」
・・・そう呟き、紅白の服を身に纏った少女、博麗霊夢は拳を強く打ち鳴らした。