激しく閃光が瞬く。
暗く湿った空を時には照らし、時には切り裂いた。
虹色の弾幕が空を飛び交い、お互いの行動を止めようと高速で飛び回る。
そして、それを避けあい、放つ二人の少女は止まらず、時間が経つに連れて更に凄まじくなって行く。
動けないとか。勝てないとか。
後の事は微塵も考えず、今一瞬に全力を注いでいた。
「流石に・・・霊夢は強いな。・・・さあて、どうしようかねえ!?」
段々と劣勢になって来た少女、魔理沙は何故か楽しそうだった。
霊夢も容赦なく弾幕を打ち込むが、その口角は上がっている。
昔っから、霊夢は神童や天才と呼ばれていた。
初めてやった事でも難なくこなし、修行をせずとも大体の巫女より強かった。
まあ、先代には負けてたが。
魔理沙と霊夢が会ったのは、約十年前。
二人とも6歳程度の時の事だ。
博麗神社でのんびり過ごしていた霊夢は、幼いながらも魔法使いに夢を抱いていた魔理沙の憧れだった。
あんな風に弾幕を打ちたい。飛びたい。強く、成りたい。
八歳くらいの頃、魔理沙は家出した。
夢を叶えるために、ちっぽけな世界をぶち壊した。
香霖には世話になり、おかげで霊夢と友達に、良いライバルに成れた。
歳を重ねるごとに分かる、天才と凡人の差。
それでも追いつくために、隣に立っているために、魔理沙は死に物狂いで特訓した。
でも埋まらない差。超えられない壁。
それを彼女はーーーーーーー
「まあ、何時も道理やるだけだぜ!」
真正面から、打ち壊した。
魔理沙は懐から二つのカプセルを取り出した。
少しだけ魔力を込め、宙に投げる。
帽子を目深に被り、視界を覆った瞬間。
世界を真っ白に塗りつぶすような、白光が霊夢の視界を潰した。
それを見計らった様に、魔理沙は八卦路を同じように放り投げる。
「・・・そこっ!!」
「残念、外れだ。」
霊夢は戦闘に長けている。
いくら視界が潰されようとも、持ち前のセンスで的確に攻撃を繰り出してくるのだ。
だから、魔力を込めた八卦路を投げた。
狙い通り反応してくれた霊夢は、反対方向に現れた大きな魔力に少し遅れて気づく。
本日何回目か分からない十八番を、何回目か分からない最大出力で放つ。
「恋符[マスタースパーク]!!」
「っ!?」
霊夢が慌てて防御姿勢を取るも、最早魔力の塊は放出されていた。
ゴオッ!!!!
大きな風切り音を立てながら、虹色の魔力は霊夢を確実に捉える様に空を駆ける。
反応が遅れた霊夢は全身にマスタースパークを喰らい、余りの威力に叩き落とされた。
粉塵を巻き上げながら、空気を求め喘ぐ霊夢に向けて、魔理沙は容赦なく八卦路を構える。
「マスタースパーク!!!」
第二波。
声も出せない霊夢は、もう一度地面に叩きつけられた。
宙を舞った体は力が無く、重力に任せるまま数回跳ねて動かなくなる。
「マスタァァァーーーースパーク!!!!:
まだ、それでも魔理沙は光線を放射した。
血が全身に滲み、擦り傷や切り傷が全身に出来ている事など知らないかのように。
地面に体を打ち付け、反動で飛び跳ねる霊夢に生気は無かった。
瞼は閉じられ、呼吸は浅い。
服もあちこちが破けているのをその眼に焼き付けた魔理沙はやっと肩の力を抜き、八卦路を下した。
「ハア・・・ハア・・・やった、か・・・?」
魔力の異常消費により、倦怠感と頭痛、疲労が魔理沙を苦しめる。
三発の最高火力砲撃。
これは流石に霊夢も一たまりも無いだろう。
彼女はそう確信し、倒れている霊夢に近づこうと一歩踏み出すが・・・。
ジャリッ
「・・・は?」
ザズッ・・・ゴギュッ
「・・・嘘だ・・・ろ・・・?」
背筋を嫌な汗が垂れ、悪寒が走り抜ける。
血をボタボタと地面に垂らしながら。外れた骨を、無理やり合わせながら。
霊夢は、ゆっくりと立ち上がって見せた。
「何で・・・何であれを喰らって立って居られるんだよ!!」
手加減はしていない。全力で撃った。
それでも仕留められなかった事に驚愕し、己の力不足を呪う。
「・・・八つの、御心を携えよ。」
徐に、霊夢が口を開く。
凛とした声音は歌っている様であり、神秘的でもあった。
霊夢の周りが淡く輝き、八つの陰陽玉が生成される。
一つ一つが凄まじい霊力を持ち、その封を解かれるのを待ち望んでいるかのような熱さを持っていた。
「壱」
霊夢の姿が掻き消え、魔理沙は思わず身構える。
しかし、それが失敗だった。
身構えた事により硬直した体に、霊夢の掌底が撃たれ、体が九の字に曲がる。
魔理沙は知っていた。この奥義の存在を。
そして、見た事があった。
「弐」
だからこそ警戒した。
それでも、止められなかった。
「惨」
抗うことの出来ない、圧倒的格差。
あの天才がこれだけは修行したと言う秘儀は、今。
「巳」
その封を、解かれ様としている。
「呉」
止める事は出来ないのか。
「麓」
一撃を入れるごとに輝き、秘めた霊力を解放していく陰陽玉を眺めながら。
「質」
魔理沙は、今までの思い出を頭に思い浮かべていた。
「鉢」
そして、完成した。
八つの御心を捧げた霊夢は、全てが輝いている陰陽玉を自身に取り込みーーーー
宣言する。
「[無想転生]」
瞬間、霊夢の体が半透明になり。
その体から、全方向に虹色の弾幕が飛んだ。
ああ、綺麗だな。美しいな。・・・・。
霊夢、みたいだな。
「もう少し。」
気づけば、魔理沙の口からは意図せず声が漏れていた。
「あと少しだけ、さ。」
涙が頬を伝い、地面に染みを作っていく。
「霊夢と・・・・一緒に、居たかったなあ。」
この思いは、霊夢に届いただろうか?
答えを知る暇も無く、一つが完全な殺傷能力を持つ弾幕が壁を作っていた。
魔理沙は目を閉じ、霊夢に向かってーーーー
笑いかけた。
「お前がそれで良いってんなら、それで良いさ。・・・生きろよ?霊夢。」
霊夢は目を見張る。
何故自分の心配ではなく、私の心配をするのか。
そして、心の中で本物の私が脈を打ち始めた。
そんなハズは無い。のに。
魔理沙の笑顔は、脳裏に焼き付いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少年は駆ける。
空を、地面を。
圧倒的不可能を可能にするように。
見えた、光が。
虹色の弾幕が一人の少女から放たれ、一人の少女を餌食にしようと猛威を振るう。
届け。
届け・・・。
届け!!
「未来永劫斬!!!」
それは完全な付け焼刃。
初めて使った技は、それでも天音 真の思いに答えようとするかのように。
桜色の刃を、遠く遠く伸ばした。