学園黙示録SCHOOL―LIVE! 作:楠葉遊鳥
走るのは嫌いじゃない、でも部に入った動機は割と不純だ。追いかけたい人がいたんだ…ほらマネジャーって柄じゃないしな。
「あれ…先輩?」
暗闇から覚めると、そこは見慣れた天井だった。今日も同じ夢をみて、いつも通りの時間帯に起き隣に眠る由紀を起こし身支度を済まし廊下に出ると何かにぶつかった。
「おっと、ごめん胡桃大丈夫か?」
どうやら第二資料室から出てきた士にぶつかったようだ。なんかスゲーいい香りがする。
「あ、あぁ私こそごめん…」
何故だかこのままずっといたいと思ってしまう。そう思った瞬間、私の体と彼の体をより密着するかのように後ろからぎゅっと押されたと言うよりはこれは…これ…は…士に抱かれてる!?
「おはよ、胡桃よく眠れたかい?」
(だ、抱かれてる、今完全に抱かれてるよ私!!なんで?何でだ?私は昨日士と何があってこんな関係になった?)
頭をフル回転させ昨日の出来事を思い出す。
(あ、私士とキスしたんだ)
「胡桃?」
絶対に赤くなっている顔を上げ士の顔を見ると、彼も少しだけ赤い気がした。
「何でもない、なぁ士」
「ん?」
「おはよう」
「うん!おはよう」
今日はなんと朝からカレーだ。重たい絶対に重たい。しかしそんな心の叫びは届かず、目の前にカレーが置かれていく。
「よっしゃいただきまーす!」
「いただっきマース」
数分後。
「おいしかった!おかわりない?」
「早っ」
朝カレーを早くも完食した胡桃に対し俺はまだ半分以上残っている。
「胡桃…俺ので良ければ食べるか?」
「マジで?食べる食べる〜」
半分以上も残っているカレーを口にほうばると、見ているこっちが胸焼けしそうにになる。
「胡桃ちゃん太るよ?」
「いいんだよ運動部何だから」
その胡桃の返しに辺の空気が急に冷たくなる感じになった。
「うちって…運動部だっけ?」
「一応文化部だけど力仕事はいっぱいするわね、運動部みたいなものかも」
「あー水やりとか疲れるもんね」
「由紀の場合は遅刻しそうな時とか廊下走ってるから運動部みたいなもんだろ」
「ちょ、つっくん酷いよ…」
上手く話を誤魔化せた様で、ある程度空気が元に戻っていく。
「雑用ばっかだろ?」
「雑用じゃ…」
「胡桃学園生活部心得第2条」
めぐねぇの言葉に割って入ってきたりーさんに、めぐねぇが小さくなってしまった。
「えっと学園生活部は施設を借りるにあたり必ずその恩に報いるべし」
「よろしい、雑用とかいっちゃだめよ」
「わかりました部長!」
「私…一応顧問何だけどなー」
朝から大変賑やかな朝食を終えて、由紀はめぐねぇと授業をするため教室に向かった。
「ちょっと危なかったな胡桃」
由紀が部室から出ていったのを確認し、胡桃の頭をなでる。
「口が滑った…」
(あれ?この2人ってこんなことする仲だったかしら?昨日のうちに何かあったのかしら?)
お皿を片しながら明らかに距離が縮まっている2人を見ているが、やがて暖かく見守ろうと決め洗い物に目を向けた。
「では恵飛須沢胡桃心を入れ替えて朝の見回り行ってきます」
「俺も行くよ見回り」
ボウガンに矢を装填して肩にかける。
「士くん銃はもって行かないの?」
タオルで濡れた手を拭きながらりーさんに訪ねられるが、俺は首を横に降った。
「ボウガンと警棒あるし大丈夫、それに音が五月蝿いと奴らが寄ってくるから」
全てが終わってしまった日に死亡した警察官から拝借した銃は、今は学園生活部の部室に隠してある。勿論隠してあると言っても由紀以外の人には場所は教えてある。
「そうね、じゃあ2人とも気を付けね」
母性を感じるりーさんの笑顔で見送られ、部室を出る。
「さ、行くか」
「だな」
静まり返った階段をゆっくりと降りていくと、机で作られたバリケードが現れた。
「士ー異常はあるか?」
机を縛ってあるワイヤーを引っ張るがワイヤーは、少し撓む程度で何処も切れていなかった。
「大丈夫問題ないよ」
「そっか、よっと」
バリケードに問題がないとわかると、胡桃はバリケードを登り始めた。
「おい胡桃」
「お願い、もうちょっとだけ…」
「はぁ…」
深いため息をして、ボウガンを構え引き金を引く。シュっと風をきる音と共に矢が何かに刺さった。
「うわっと」
矢の飛んでいった所を見ると、男子生徒のゾンビの頭に刺さっていた。
「サンキュー士」
「気を付けろ!もう1人いるぞ!」
「分かった」
バリケードの向こうに着きもう1人のゾンビを葬った胡桃を確認し、ボウガンをリロードして反対側に向かった。
「優香だ…」
「え?」
胡桃が葬ったゾンビを見てみると、それは嘗てのクラスメイトだった。
「優香って小泉優香か?いつもお菓子を持ってきてた?」
「そう」
優香とは俺と胡桃のクラスメイトで、1年の時から同じクラスで良くお菓子をもらっていた。
「ん?何だこれ?」
倒れた拍子にポケットから手帳の様な物が落ちそこから可愛い模様の封筒と、ゲームセンター等にあるプリントシールがはみ出ていた。それを拾い封筒の裏を見るとそれを誰に渡したかったのが分かった。
「なぁ、士…これ」
「ん?どうした?」
振り向くと悲しそう顔をした胡桃が何かを差し出してきた。
「これは…封筒とプリクラ?」
無言で頷く胡桃からそれを受け取ると封筒の裏には俺の名前が書いてあり、プリクラは去年の文化祭の打ち上げの帰りに彼女に頼まれて撮ったツーショットのプリクラだった。
「…」
その場で封筒を開けると、胡桃は後ろを向いた。どうやらこれがとても大切な事を伝える物だと解っているらしい。封筒の中から手紙を出し文面を見ると、やはりラブレターだった。
〔士くんへ、私と士くんは1年生の時から同じクラスだったよね。覚えてるかな?入学式の時に不良の先輩に絡まれていたのを士くんが助けてくれたのを…人見知りな私に最初に声をかけてくれたのも、困った時にいつも助けてくれたのも全部士くんだったよね。そんな優しい士くんの事が好きです。もし…こんな私で良ければ付き合って下さい…勿論返事はどちらでも大丈夫だよ?もし駄目でもいつも通り友達でいてください。最後に文化祭の打ち上げの後に私の我侭で一緒にプリクラを撮ってくれて本当にありがとう。小泉優香より〕
手紙にはそう綴られていた。そんな彼女の思いが書かれている手紙とプリクラをポケットにしまい、震えている胡桃を後ろから抱きしめた。
「大丈夫?胡桃」
「士…私知らなかったんだ…」
「うん」
「本当に…本当に知らなかったんだ…」
「大丈夫、大丈夫だから」
震える体を強く抱きしめる。お互いの存在を確認しあう様に強く抱きしめる。そんな中後ろで何が動く気配を感じた。
「士もう大丈夫…ありがとう」
「うん、分かった」
お互いに離れ胡桃はシャベルを、俺はボウガンを構えた。
「気を付けろ、結構な数だ」
「わかってる」
身構える2人の前に廊下の暗がりから、ゾンビが5体現れた。
「帰ったら絶対りーさんに怒られそうだな」
「それを言うなよ士…」
冗談を言える程の心に余裕があるのは、やはり互いの存在があるからなのかも知れない。互いに失いたくない物があるからこそ目の前の絶望に立ち向かって行けるのだと。
「ゆきちゃ…丈槍さんこの問題解けるかしら?」
「フフーン簡単だよめぐねぇ」
「めぐねぇじゃなくて佐倉先生でしょ?じゃあ前に出て黒板に書いて」
「えー」
「そんな露骨に嫌がらなくても…」
「冗談だよ!」
非日常の中で日常を装い暮らすのは、難しいのかもしれない。もし、日常を装い暮らせているならそれは何かから逃げているからなのかもしれない。でも私は彼女が笑っていられるなら、日常を演じる事を厭わない。
「出来た!」
「丈槍さん凄いわ…全問不正解」
「えぇっ!!」
朝の見回りから無事帰還した俺達は、屋上の水道でシャベルや矢に付いた血肉を洗い流している。
「またやってきたの?見回りだけでいいのに」
「大丈夫だったよ?胡桃が居てくれたから」
「私も士が居てくれたから問題なかった!そう心配するなよ」
「えっへん、部長ですから副部長より偉い部長ですから」
『はいはい…』
胸をはるりーさんに押し負けふと校庭を見ると、嘗てのサッカー部員が到底サッカーとは言えないが風で動いているボールを追いかけていた。
「胡桃?」
「どうしたの?」
「ほら、由紀が野球部朝練してるって言ってたじゃん?」
「…言ってたわね」
りーさんの言葉に少し間を開けて、口を開く。
「誰か走ってないかなって…」
それから時間は流れ辺りは夕日に染められた紅から、月明かりが照らし始める碧に包まれている通知晩飯時になった。
「たっだいまー」
「ただいま」
夕食の手伝いをしていると元気娘事丈槍由紀と、めぐねぇ事佐倉慈先生が部室に帰ってきた。
「なぁにクレープ?」
「お好み焼きよ晩御飯にしましょ」
「わーいお好み焼き大好き!」
はしゃぐ由紀に何故か後光がさしているんじゃないかと思う程に、明るいオーラが出ている。
「そーいや遅かったな元気娘?勉強はどうだったよ?」
「そもそもさー数学とか何かの役に立つのかな?将来とか言われてもピンと来ないしさー」
「ダメ人間だ…」
「じゃあ一緒に数学やりましょうか、胡桃も一緒に」
「えぇ?」
あからさまに嫌がる胡桃の頭を撫でる。
「んじゃ胡桃には俺が教えてやんよ」
「え?つっくんって頭いいの!?金髪なのに」
「金髪関係ないし…こう見えても学年順位3位だぞ?」
「えー」
「士が教えてくれるなら安心だな!」
「皆で一緒に卒業しましょ」
『おー!』
「私…先生…」
『あっ』
これは夢だとすぐに分かった。これは彼奴に出会う前の事で、もういない筈の先輩がいる。この夢を見るのももう何度目になるのか、私にもわからない。でも最後は変わり果てた先輩を園芸部のシャベルを叩き付けて終わる。
「ッ!?」
悪夢から目を覚まし時計を見ると夜中の1時半になったばかりで、二度寝を余裕で決め込める時間だ。
「はぁはぁ」
上がる息を整え、もう一度眠ろうとしたが何故か彼奴に会いたくなっていた。
「士に…会いたい…」
隣に寝ている由紀を起こさない様に布団から抜け出し、士がいる第2資料室に向かった。
「士ぁ?」
もしかしたらもう寝てしまっているかもしれない士を起こさないように、ゆっくりドアを開けていく。
「胡桃?」
薄暗い部屋の中から士の声がしてもしかしたら起こしてしまったのではないかと思い、申し訳なさと声が聞けた嬉しさが体を包み込んだ。
「ごめん、起こしたか?」
「違うよ今寝る所だよ」
私が起こした訳じゃなかった事に安堵し、士が横になっている布団に近いた。
「一緒に…寝ていい?」
「いいよ、おいで」
私の様子がいつもと違う事に気づいたのか、何も聞かずに布団を捲り私を入れてくれた。
「暖かい…」
「こうするともっと暖かいよ」
背中に手を回し私を抱き寄せてくれた。士の温もりを全身で感じ、また眠りにつく事ができた。
また…夢をみた。屋上の入口を奴らの侵入を防ぐためドアをりーさん達が押さえている。
「あれ…先輩?」
変わり果てた先輩ゆっくりとこちらに向かってくる。
「違うのよくみてくるみ」
「りーさん何言ってるのこの人は…うわっ」
飛びかかってきた先輩を避けるとバランスを崩し倒れてしまった。そしてまたゆっくりとこちらに向かってくる。這いつくばりながら逃げていると何かに当たり、振り返ると目を見開き驚いてしまった。
(今日の夢はいつもと違う。)
そこにはクラスメイトの小泉優香が先輩と同じ奴らになって、たっていた。
「ひっ、」
先輩と小泉さんがこちらに来る度腐った肉が剥がれ落ち、その肉がまるで黒い液体の様な物になり私を飲み込んでいく。最後には2人に覆いかぶさって私は完全に飲み込まれた。暗い、苦しい、黒い液体の中はまるで底なし沼の様に暗く重たい水の様な物が永遠に広がっていた。
〔胡…桃…〕
「!?」
闇の中から苦しそうな声がする。
「先輩?」
〔なんで…あの時…俺をコロシタ?〕
間違いないこれは先輩の声だ。その苦しそうな声に思わず耳を塞ぐがまるで効果が無い。
〔俺をアイシて…いたんだろ?〕
「そう、でも先輩は奴らと同じになっていたから…から…」
あの時確かに先輩は奴らと同じになっていた。しかし先輩は先輩だった。
〔返して…〕
「え?」
今度は別の声だ。
「小泉さん…」
〔返して…ワタシの士クンを…〕
「知らなかったんだよ…小泉さんが士の事を好きだったなんて」
〔胡桃ちゃんは…先輩がイタのに…〕
何かの気配を感じ前であろう場所を見ると、闇よりさらに黒い人型の何かが2人現れ近寄って来ていた。その形はまるで先輩と小泉さんの様だった。
〔返して〕
〔なんで俺をコロシタ?〕
〔返してワタシの士クンを〕
〔俺を愛してイタのに?〕
頭の中に直接入ってくるその声に涙が溢れてくる。
「苦しい…士…助けてよ!!つかさァァ」
〔胡桃〕
「え?」
先輩や小泉さんとも違うその声は心に話しかけてくる様で暖かく、名前を呼ばれるととても安心できる。その声の持ち主を私は知っている。呼ぼう、彼の名前を。
「士!」
あたりを照らす様に光が現れ、それが士の形になっていく。
〔迎えに来たよ、胡桃〕
何時ものように抱きしめられ顔を上げると表情は分からないが、笑っている気がした。
「つかさ!つかさ!」
〔さぁ帰ろ、皆の所へ〕
それまで何もなかった無限に広がる闇の中に光の輪が現れた。
「皆待ってる」
「うん!帰ろう士」
士に手を惹かれ光の輪に向かっていくと、また先輩と小泉さんの声が頭の中に木霊した。
〔ドコヘいくの?〕
〔邪魔をするなぁぁ!〕
黒い人型がこちらに向かってくる。でも何故か恐怖はない、何故ならば私には士や皆がいるからだ。
「さようなら…先輩、小泉さん」
光の輪に入るとそこには先程まで黒い人型の小泉さんではなく、士と同じ光で出来た小泉さんがいた。
「小泉さん…」
〔胡桃ちゃん…私は士くんの事好きだよ…だから聞かせて?貴女の心を〕
「私は…」
士の手をギュッと握る。
「私も士が好きだ」
そう答えると小泉さんは笑った。そして私の手に何かを渡して消えていった。
「士、私はお前が好きだ!大好きだ!」
笑いなが士とキスをした。私の大好きな士と。
「う…ん?」
どうやら目が覚めたらしい。長い永い夢から覚めると、目の前に大切なそして大好きな士が眠っている。ふと右手に違和感を感じ開いて見ると、見慣れた見に覚えのないシルバーの指輪が握られていた。
「これって…あの時の」
夢の中で小泉さんから託された物らしいが、このシンプルなデザインに見覚えがある。
「あ、これって士が持ってた!」
だが明らかに彼のサイズにしては小さい。
「本当に小泉さんから託されたのか?」
不思議な気分だが、士にキスをしてまた眠りに付いた。
コメント等貰えたら嬉しいです。