論外な鬼巫女が、異世界へやって来たそうですよ? 作:天ノ邪鬼 桐絵
「世界の終末が見たくはないか?」
鬼巫女は世界の神の中でも飛びぬけて論外な実力の持ち主と相対している。
「興味ないわ。私はただ目の前に立ちふさがる者、全てを薙ぎ払うだけだから」
赤く染まり、黒くなっている巫女服を着ているのは、かつて博麗霊夢と呼ばれた少女である。
霊夢は己の境遇に不満を感じ、いつしか破壊衝動を爆発させ、修羅に落ちてしまった元「楽園の巫女」である。
「そうか、残念だ」
瞬間、世界の色という色が抜け落ち、時間さえも停止した。
対戦相手は、ゆっくりと巫女服の少女に近づいて行く。
「これで終わりだ」
世界に敵などいなかった。広い宇宙の中で、誰もが彼には勝てなかった。
ゆえに飽いた。飽いて飽いて飽いた結果、自分と同格か自分より強いと思える者達を集めて戦いをし、頂点を決める戦いを繰り広げていた。
「だが、それもここで終わりか」
互いに、ありとあらゆる論外な相手を打ち破ってきた。
この戦いでは、できない方が悪い、負ける方が悪いという暗黙のルールがあり、苦戦して負けそうになった戦いもあった。
おそらくもう一度やれば、彼が負けていた相手もあったのかもしれない。
だが、それも既に終わってしまっている。
片手に剣を持ち、剣には相手を必ず両断する加護が宿っている。
己の肉体も、生半可な傷ではすぐに回復し癒えてしまう。
一息、両の手で柄を握りながら、巫女服の少女を両断した。
空間ごと、裂け目のようにずれ落ちる。
目の前の少女に、時間に対する耐性は感じられない。
つまり、出来なかった事が、敗因なのだ。
「終わったか」
最後に立っていたのは、結局ゲームを主催した彼だった。彼はそれを感じながら、今切り伏せた少女の事を見下ろした。
「ねえ、それで終わりなの?」
見ると、そこに遺体は存在しなかった。
そして、耳元でささやき声が聞こえてくる。
「この世は全て【必然】でできている」
彼の体に裂傷が走る。しかしこの程度では、彼は死にはしない。
「この程度で、調子に乗ってもらっては困る」
返す刀で巫女を斬り裂いた。
今度は確かな手ごたえが返ってきて、人間であれば塵すらも残らずに消滅している。
「ねえ、【絶望】の音色が聞こえないかしら?」
確かに殺したはずである。しかし何事もなかったかのように少女は生きている。対戦相手は時が止まった世界の中で、少女が切り裂かれ血を流す瞬間を、確実に目撃していたのにも関わらずである。
「くっ……」
この世界では、できない方が悪い。そして、相手の手の内が分からない方が悪い。
今まで倒してきた者達だって、それを承知の上でこの舞台に立ってきたのだ。
彼の体力は残り少なくなり、少女の攻撃は苛烈を極めている。
まともな神であれば、この時点で存在すら許されない。
それでも彼は攻撃を繰り出す。何人をも葬り去ってきた己の必殺の攻撃を。
全てを吸収し、そして世界の狭間に閉じ込めて、時間も概念すらも何もない、生きることさえもできない場所へ閉じ込める。
「ふふふ、あはははは」
閉鎖されていく空間の亀裂の間から、見えなくなるまでの間、対戦相手は少女と目があっていた。
そこで少女は楽しそうに笑い続ける。
少女は壊れていた。この状況で笑っていられる人類など、そもそもおかしいのだ。
この場に来る者達は、異形であったり、宇宙をすら創造するような規模の神々である。
断じて被造物の人間などが存在できる道理など、ありはしない。それでも少女は確かにこの場で生きていた。
少女に攻撃を当てるのは容易い。しかし、手ごたえが全く感じられない。それも本来ならば即死だと言うのに効いた気配が感じられない。
殺し切ったかと思えば、何事もなかったかのように視界の外から現れて、一言呟いてから攻撃を仕掛けてくる。
「ねえ、【永遠】はあるのよ?」
刹那、全てを焼き尽くす閃光が降り注ぐ。
対戦相手はその瞬間、何をされたのかを認知することすらできなかった。
たった3回、それだけの攻撃で敗れ去った。
体の端から灰となりはじめ、そしてついには全身が消えてなくなる。
「この世は退屈すぎていけないわ」
誰もが自らの前にひれ伏してきた。最初はただ、お賽銭が欲しかっただけなのにと、修羅へ落ちた巫女は考えていた。
「ん?」
空から、一つの手紙が落ちてきた。
ただし、全てが無に帰したこの場所に、空があるのかは疑問である。
ふわふわと、天使の羽のようにゆっくりと、重力も空気すらも存在しない宇宙の中で落ちてきた。
□□□ 様へ
悩み多き異才の少年少女達へ告げる
~略~
全てを捨て、箱庭へ来られたし
宛名のところはノイズが掛かったかのように読み取れない。
内容は異才に悩める少年少女達を、箱庭という世界に誘う招待状であった。
手紙には「箱庭へ来られたし」と確かにそう書かれていた。
「失うものなんて、私にはない」
既に多くのモノを失い、そして手に入れたモノは論外な強さだけである。
「暇つぶしくらいには、付き合ってあげてもいいわ」
手紙を口にくわえ、リボンで結わえた髪を解く。
先の戦いで、リボンの一部が焼け焦げてしまった。
替えのリボンを取り出すと、巫女は新しいリボンを結び始める。
「これでよし」
手紙を両の指で挟み、霊夢はその中に込められた転移術式を起動させる。
「次に行く場所もないし、せいぜい私を退屈させないでよね」
鬼巫女が異世界へ行く。
この物語は、論外な鬼巫女が、箱庭でどのようなゲームを繰り広げるのか。それを語り継いでいく物語である。