0.エンカウント
艦娘訓練施設の朝は早い。
「整列!各班報告!」
日も昇りきらないような朝から起床の鐘が鳴り、訓練生は廊下に整列して点呼を取らされる。
「七班、完了しました!」
ウチの班長が訓練学校の士官にそう告げると、士官はうんうん、と頷いた。
「よし、お前ら食堂へ行って食事の準備につけ、いつものことだが、七班は集団行動が早くて優秀だな。さあ行け!」
さっさと移動する私達の背後で、怒声が響く。
「四班!貴様らが一番点呼が遅いぞ!しつけをしてやるからそこでケツを出せ!ほら、バッター!」
私達は聞こえないフリをしてすぐに食堂へ向かった。
*
全訓練兵が食堂で朝食を取っていると、その四班が遅れて食堂に入ってきた。
「あ、四班が来たよ」
「うわぁ、顔もすごい腫れてる…」
あちこちでひそひそと声が漏れる。
「ねえ瑞鶴、私達はああならないようにしないとね」
ウチの班長が私に声をかけてくる。
「…そうね」
適当に返事をして私は四班の子達を遠目に見つめた。
バットで尻を打たれ、ついでに顔も殴られたのだろう、四班の子達の顔はボロボロだった。
「ここは……誰でも容赦しないものね」
「貴様らぁ!私語を慎めっ。食べ終えたらさっさと片付けてグラウンドへ散れっ!」
五月蝿い士官の声で、食堂は一斉に静かになった。
*
朝食を取った後はグラウンドで集団行動の訓練が始まる。
その後は、ひたすら体力作りと実戦のための訓練。
今日の午前中は死ぬほど重たいカバンを背負っての走りこみになっていた。
「六班!遅れているぞ!気合が足らんのかぁ!」
各班ごとにグラウンドを走らされるのだが、班のうち誰か一人でも遅れてしまえば、全員がしつけを受けるはめになる。
遅れることは連帯責任になるが、かと言って仲間がそれを助ければさらに遅れてしまうため、ひたすらに走るしかない。
その点でいえば、私の属する七班は優秀だった。
「ほう、七班はいつもの通り早いな」
特別、体力が高いわけでもなければ、成績がいい訳でもないが、ウチの班の人間は要領が良かった。
ここの生活で大事なのは、何よりも【上官の機嫌を損ねないこと】
私達七班は、走り込みの速度なんて実は速くない。
ただ、皆が上手く足並みを合わせて走るため、一人も乱れずに走りきっているように見えるのだ。
そういうズル賢いところが七班の最大の特徴で、士官からの評価は良かった。
地獄のような訓練施設での生活を乗り切るためには、必須のスキルといっても過言ではない。
(この調子なら、ここでも上手くやっていけそうね…)
数年間の訓練生活を、楽に乗り切るだけの自信はあった。
彼女に出会うまでは。