そこはとある古い城。
吸血鬼が住むといわれるその城の中で一人の少年が書物を読みふけっていた。
その髪は漆器のように漆黒の光沢をもち、右目には黒い傷が走っている。某忍者漫画の先生のような傷だが少年の場合はあの人のように壮絶な理由はない。ちょっと父親が作った刀の試し切りに巻き込まれてしまっただけである。
髪は腰に届くほど長く、それを肩あたりで白い布で縛っている。傍らには二メートル近い刀が置かれており鞘には《無銘》と彫刻刀で雑にほられている。
「いつまでここに居座るつもりだ?」
少し疲れたのか、少年が目を抑えながら大きく伸びをしたとき、ドアが開く音ともにやたらとスタイルのいい金髪の美女が書庫の中に入ってきた。
黒い露出の激しいドレスを着こみ、長い金髪を揺らめかせながら歩くその姿はまるで女神のように美しい。しかし、口元から除く牙が、彼女が魔性のものだということを激しく主張していた。
『仕方がないでしょう。調べものには時間がかかるのです』
ブスッとした顔に似合わない丁寧な口調で話しだした少年に美女は大げさに眉をしかめながら、嫌悪感もあらわにこう吐き捨てた。
「やめろ……お前の英語は整いすぎていて気持ち悪い。そんな言葉を聞くくらいなら日本語で話したほうがましだ」
「ほな、初めから俺にあわせてくれや……。ここに来るために英語覚えんの大変やってんで。
英語の時とは違うひどくなまった日本語で少年はダレッと机の上に倒れこむ。
「それで、いつまでここに居座る気だ、人間。正直さっさと出て行ってほしいんだが」
「賭けにまけたくせにえらい態度でかいやないか吸血姫。お前に一撃入れたら好きなだけここの書庫を調べてもええ約束やろ?」
「それは……そうだが……」
若干憮然としつつそう答える美女に、少年はプフッと笑いを漏らす。
「なんだ?いきなり笑い出して。気持ち悪いぞ」
「い、いや……マジでそのかっこでその仕草はにあわへんなぁと思って」
明らかにバカに仕切った少年の言葉に、美女は額に青筋を浮かべながらぶるぶると震える。
消し炭にされたくせに、消し炭にされたくせに、消し炭にされたくせに、消し炭にされたくせに……。賭けには負けたが勝負に勝ったのは私だぞ!!
あふれそうになる怒りを必死に抑えるため『落ち着け私……。私はクールな吸血鬼。こんなバカの言葉に一々あつくなったりしない!!』と、深呼吸。
そして何とか落ち着いた彼女は、笑いが収まらない少年を見てこのままでは話にならないと悟ったのか、美女は指を振るい自分にかけていた幻術を解く。
次の瞬間、先ほどまで優雅に立っていた美女はまるで煙のように姿をけし、代わりに美女が立っていたところには、少年の腰あたりまでしか身長がない小柄な少女がたたずんでいた。どうやらこれが彼女の真の姿のようだ。
「ガキが無理して大人ぶるからそういうことになんねん、ハゲ」
「ハゲてないだろ!? 大体私はもう三百年近く生きているんだぞ!! ガキではないわ!!」
「おうおう。長生き自慢かいな。これやから年寄りは……」
「どうしろというのだ!?」
まぁ、実際年寄りには違いない。少年はいまだ百年(・・・)の年月しか生きていないのだ。約3倍の年月を生きている存在が相手では、多少人より長生きなだけの少年からは年寄りといわれても仕方がないだろう。
「なぁ、『超能力者』……」
「なんや吸血姫?」
「お前はなんで魔法なんて調べているんだ? お前たちは『この世の
その言葉に少年はピクリと反応した後、ニヤッと嫌な笑みを浮かべる。こいつがこの笑みを浮かべる時はたいていろくなことはしないと、短い付き合いながらも理解はしていたので、少女は少しだけ嫌そうな顔をしてあとずさる。
「な、なんだよ」
「吸血姫……確かに超能力と魔法は相いれへんけど、さっきおまえが言ったややこしい学問と魔法は相いれへんと、ホンマにそう思うか?」
「その学問の名前はお前が言ったんだろうが!!……あたりまえだ。話を聞いただけでわかる。お前の異能やその学問は魔法による奇跡を否定する。魔法による神秘を否定する。だからその学問と魔法は決して相入れることはできない」
「俺はそうはおもわへん」
少年はそういうと、再び書物に目を戻しそこに描かれた魔法回路を指差した。
「いずれ『その学問』……便宜上《科学》って言わせてもらうけど……と魔法は複合される。そして、魔法科学なんてふざけたものが生まれるやろ。俺はその草分けになりたいんや。おまけにこの世界の魔法と科学は非常に似通っとる点が多いからな。なんとかなるやろ」
「なんというか……最終的にかなりいい加減なセリフで締めくくったな」
少女のツッコミにはいっさい耳を貸さず、少年は本を読みふける。隣に置かれたノートには独自の解釈が描かれ無数の数式と、魔方陣がえがかれている。
それを横から覗き見た少女は目を見開きやがてそれを食い入るように見つめだした。
そこには魔力がないものが様々な自然現象を使い、そのエネルギーを魔力の代替として魔法を発動させる方程式が刻み込まれていたのだ。
「おま……どうやってこんなものを!!」
「ん?ああ、これは俺が考えたんちゃうんや。俺の相方君。ほら、さっきいうたやろ。
「い、いや……ほしいわけではないが……」
科学と魔法の複合……。あながち不可能ではないかもしれない。
その数式は六百年生きてきた最強の魔法使いにそう思わせるだけの完成度があった。
これが世界に公表されれば、間違いなく世界がひっくり返る。それだけの力がこの数式にはあった。だが、
「用がすんだんやったら、さっさと出て行ってくれや。こう見えて忙しいねんで?」
対する少年はこんな感じ。そんなとんでもないことをしていることなど、微塵も感じさせない軽い態度だ。だから、
「……魔法と科学の融合の前に、お前はまず家主への礼儀を覚えろ!!」
先ほどの驚きも忘れ、金髪の少女は少年を怒鳴りつけた。