IMMORTAL   作:過労死志願

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 時はうつろい……現代。

 

場所は近畿地方、滋賀県。

 

 江戸の時代には交通の要所として発展したこの県も、電車や車が発展したこの時代ではただの寂れた田舎となり果てている。

 

 そんな県に京都からの来訪者が一人のんびりとした足取りで降り立った。

 

 さびれた小さな駅から出て、駅前のタクシー乗り場にやってきた彼は、さてどうするかと言わんばかりの顔をしながらあたりを見廻す。

 

 逆立った黒髪に長身の彼の身の丈ほどあるかとは思われる上等な布に包まれた棒状の何か。眼鏡をかけた顔からは生真面目な印象を受ける男だった。

 

「エーシュン。こっちですよ」

 

 その言葉と同時に男は眼鏡越しに、声を掛けてきた人物を見た。

 

 ボーイッシュな金色の短髪に、絶対零度を思わせる冷たい青い瞳。口には煙草をくすぶらせ真っ赤な唇から煙を吐き出している。そんな真っ赤なスポーツカーに乗った美女に、男・青山詠春は苦笑を浮かべた。

 

「タバコはやめろと言ったはずだぞ?」

 

「馬鹿ですね。私の場合は、これが若さの秘訣なんじゃないですか。知っていましたか? 超能力者にとってタバコの煙に含まれるニコチンは細胞の老化を遅らせる効果があるのですよ」

 

「嘘ばっかり言っているんじゃない。この前シシンが言っていたぞ。『いや、普通に体に悪いで』って」

 

「……私は太く短い人生を送るのが目標なのです。口出ししないでください」

 

「さっきと言っていることが正反対だ」

 

 ったく、誰に似たんだか……。若干のため息をつきながら詠春が車に乗るのを見届けると彼女も煙草を揉み消し車に乗り込む。どうやら車の中でたばこを吸うのは嫌いなようだ。

 

 見た目に似合わず法定速度を順守しながら発進する車に感心しながら、詠春は前を見続ける美女に質問した。

 

「なぜここに来たんだ? 別に迎えに来てくれなくてもよかったんだぞ。行ったことがあるんだから道に迷うこともないし……」

 

「それはあなたが、まだ私たちをまだ甘く見ているという証拠ですね。私たちの本拠地は常に一人の能力者の能力が覆っているのですよ。桃源郷(ユートピア)という能力なのですけど……。彼の能力が覆っている場所は、彼の許可がある者しかたどり着くことができないのです。それ以外の人間は彼の能力範囲外を永遠に彷徨ことになります。あなたたちの言う認識阻害の強化版ですね」

 

「悪質な能力だな……。突破する方法はあるのか?」

 

「今のところ皆無ですね。私ですら迷います。この能力は今まで誰にも破られたことはありませんし、もしあったとしても、いつ敵になるかわからないあなたたち魔法使いに教えたりはしません」

 

「手厳しいな。あと俺は魔法使いじゃないんだが……」

 

「同じようなものでしょ?」

 

 「全然違う……」と、苦笑交じりに否定する詠春に美女は視線を向けないまま「まぁ、どうでもいいですが」と切り捨てた。

 

 琵琶湖の湖畔に出た車は琵琶湖を横目に走りながら加速していく。どうやら速度制限がゆるくなったようだ。標識には60の文字が書かれている。

 

「それで……京都神鳴流の党首にして、次期関西呪術協会の党首が卿に一体何の用ですか? シシン自身、かなり会うの、めんどくさがっていましたけど」

 

「いや、お義父さんにつなぎをとってくれないかと頼まれてな。少々麻帆良に来てほしいそうだ」

 

「あの妖怪のパシリをしなければならないなんて……。婿養子の許嫁とは大変ですねエーシュン」

 

 若干あきれを含んだ声とともに美女はハンドルを切った。

 

 車が入った道は一応きちんと舗装されてはいたが、周りはうっそうと茂る竹林に囲まれており、昼間でも若干薄暗い。

 

 さらに道路の両端には、鮮やかな朱色の支柱が数百本という数ならんでいた。もし車の屋根が透明だったなら、その上にのびる朱色の柱が見えただろう。

 

 そう。道路をまたぐように巨大な鳥居が並べられているのだ。

 

 そして鳥居の上には、荒々しい毛筆で書かれた『大百足神社』の文字。物騒な名前ではあるが一応きちんと国に登録されている正式な神社だったりする。最も知名度は究極的に低いため、訪れる人は皆無と言っていい神社だが。

 

「もうすぐ着きますが……どうします? あそこから歩きますか? 今ちょうど見ごろですけど」

 

「歩かせてもらう。あそこは本当に絶景だからな。あ! もしかしてさっき言っていた認識阻害の強化版に一役かっているのか。あれ?」

 

「それはないですね。私たちの力は周りの環境に侵されることはありません。すべては本人の力量次第。あなたたちの魔法みたいにドーピングができないので、結構シビアな世界なのですよ」

 

「そうか……。超能力者というのも大変だな」

 

 そして、

 

「見えてきました」

 

「お!」

 

突如竹林が終わり、その代わりに無数の桜並木が現れた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 大自然が作り出したその絶景に、何度も訪れたことがある詠春も思わず言葉を失う。

 

「ここは、いつみても綺麗だ……」

 

「そういう言葉は奥さんに行ってあげなさい……」

 

「……なんだ? 意外と無反応だな」

 

「毎年春になったらいやというほど咲き乱れるのですよ? いい加減飽きます。日本人はよく飽きませんね。しかも、散った花弁の掃除はすべて私の仕事です。どれだけ苦労していると思っているんですか……」

 

 竹林が桜並木に変わるのと同時に、アスファルトから石畳へと変わった道路の上にスポーツカーを走らせながら、ため息をついた美女はゆっくりと車を減速させる。

 

そして、そのまま滑らかにとまった車から降りた詠春は、桜並木に挟まれた石畳の先に見える、巨大な敷地面積を誇る神社へと視線を向けた。

 

「さて……。シシンの機嫌が気になるな。あの人気分屋だしな」

 

「ようこそ。超能力者互助組織……関西能力者協会へ」

 

 乗り込むときと同じように、いつのまにか煙草を咥え、煙をくすぶらせながら車を降りた美女は、車になでるように触れた。

 

 瞬間、そこにあった車がまるで幻のようにかき消える。

 

 瞬間移動(テレポート)。それが彼女……マリア・F・スコットが誇る能力の名前である。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 満開の桜を堪能しながら詠春たちは、大百足神社の本社へとやってきていた。

 

 本社の床下は無数の木の支柱になっており、本殿の床はかなり高い位置にある。そのため、詠春とマリアは眼前に伸びた木製の階段に、靴を脱いだあと足をかけ、ゆっくりと登っていく。

 

「お前が出たときシシンさんはどんな感じだった?」

 

「どんな感じだったといわれましても……。いつもどおりでしたよ?」

 

「なるほど……。相変わらずテンション高かったということか」「相変わらず頭悪そうな騒ぎ起こしていました」

 

 二人は同時に言いきってしまい、思わず顔を見合わせる。

 

「俺の悪口じゃないぞ?」

 

「暗にバカにしているようなものじゃないですか。私のは親愛の情がこもっているからいいのです」

 

「嘘つけ……。明らかに眉一つ動かしていなかっただろうが!?」

 

 信愛なんて欠片も見えない表情でそんなことをのたまうマリアに、詠春が食って掛かった時だった。

 

「天誅ぅうううううううううううううううう!!」

 

「「っ!!」」

 

 突如として本社の方から、巨大な怒声が聞こえてきた!

 

 しかし、詠春とマリアはどういうわけかその声を聞いた途端少しげんなりとした表情になりながら即座に反応。マリアは瞬間移動(テレポート)で、詠春は瞬動でその場を飛び退く。

 

 その0,001秒後、それ……18歳ぐらいの少年は、本社の屋根から飛来した!

 

 その少年はあらゆる意味で個性的な姿をしていた。肩のあたりで束ねられた漆黒の長髪に、活発に輝く真紅の瞳と、右目にだけ走る漆黒の傷。その手に握られているのは《無銘》と雑にほられた鞘と、白銀に輝く二メートル近い刀身を持つ長大な刀!

 

 彼は華麗に階段への着地を決めると、その刀の切っ先を横に飛びのいた、

 

「しねっ……詠春!!」

 

「俺限定!?」

 

 詠春にだけ向けて、再び切りかかった!

 

「ちょちょちょ!? 待ってください……あんたの場合ノリで客人に切りかかることぐらいありそうですけど……」

 

「え? ちょ……俺ってどんな認識されとるん?」

 

 自分の剣戟を防ぎながら詠春が吐いた言葉に少しだけ落ち込みながらも、少年は攻撃の手を休めることもなくとんでもない勢いで剣をふるっていく。

 

「なんで俺限定なんですか!? 悪口言ったことを怒っているんだったらマリアの方が重罪でしょうが!?」

 

「女を生贄に捧げるなんて……詠春。あとでお話があります」

 

「その前に助けろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 全身全霊。魂のツッコミだった……。

 

 何せ少年が振るう剣の一撃は、魔力も気も使われていないというのに、油断すれば刀ごと詠春の体が切り捨てられてしまいそうなほど強力なのだ。

 

なんという理不尽。自分の長年の修行時間を返せと詠春は思う。

 

 詠春には神鳴流の技があって何とか防ぎきることができているが、それもいつまで持つかわからない……。それだけ彼と詠春の剣術の差には開きがあった。

 

「悪口に怒ってるやと……。俺がそんな器がちっさい人間に見えんのか詠春」

 

「はいっ!!」

 

 詠春は自分の心を偽ることなく、力強く言い切った。

 

「はーい。あと三十分追加で~す」

 

「やっぱ器がちっさいじゃないですか!?」

 

「そんなことはどうでもええねん。詠春……」

 

「だったら三十分は無しにしてください!!」

 

「俺がおこっとんのは……」

 

「人の話を聞けぇええええええええええええええええええええええ!!」

 

 なんかもう、会話がかみ合わなさすぎて詠春は泣きそうだった。というか、自分は泣いていいと彼は思う……。

 

「お前が……関西人やのに、関西弁を使ってへんことにおこっとんのや。この東京かぶれの裏切り者がぁああああああああああああああああ」

 

「そんなくだらない理由やったんかぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 少年――《超能力者協会総代》松壊シシンの怒声を聞き、思わず素の関西弁に戻って《極大・雷鳴剣》を使った自分は悪くない……。瓦解した本社を眺めながら詠春はそう思いたかった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「まったく……拙僧がいたからよかったものの、ほかの場所だったら大惨事ですぞ、詠春殿。もう少し精神的な成長をしてくだされ」

 

「面目次第もありません……」

 

「ぷぷっ……。怒られとる。だっさ」

 

「シシン。あなたには特別コースでOHANASIがあります」

 

「オウ……ジーザス」

 

 顔に縦線を入れて落ち込むシシンをいい気味だと思いながら詠春は睨みつけた。

 

 結局あの後……。マリアが黒焦げになった本社の瓦礫の中から、シシンを発掘するのと同時に、騒ぎを聞きつけ別の社で修業(神道的な意味で)していたこの神社の正式な神主<国津(くにつ)がやってきてくれた。彼は黒こげになった本社の残骸と、目を回して気絶しているシシンを見て(何であれを食らってその程度のダメージしか受けていないのか……詠春は本気で首をかしげた)大体何が起こったのかわかったのか、大きくため息をついた後、彼の超能力を使い瞬く間に本社を直してくれた。

 

 そのことに若干の安堵を覚えながら、詠春は国津とマリアのダブル説教を受けて今ここになるわけだが……。

 

「さて……詠春君。本題にはいろか。いったいウチに何の用や」

 

 マリアに死刑執行を言い渡され若干沈みながら、シシンはじっと詠春を見つめる。その視線に空気が変わったことを感じ取った詠春はあわてて背筋をただしシシンの視線を真っ向から受け止めた。

 

「しかり……。遊びに来たわけではないのでしょう。あのような正式な文を送りあまつさえ記載された名前は《神鳴流現当主》。これで雑談楽しみに来ましたというのなら、それは少し悪ふざけが過ぎますね」

 

 そう言って相槌を打ったのは、先ほど出てきた国津だ。彼は典型的な神主の恰好……さながら平安貴族のような、和服を着た青年だ。

 

 これといった特徴のない日本人としては平均的な黒髪を持つ彼。その顔にはいつも笑みが絶やすことなく張り付いており周りに穏やかな空気を流している。

 

 だが、驚くことに彼は超能力者だった……。神道魔術も操れなければ、魔力の《魔》の字も知らない超能力者……。

 

 いつみても思うが……詐欺だ! と詠春は叫んでやりたい。

 

「少々シシン様にお頼みサイことがあり恥を忍んでこうして訪ねさせていただいた次第です」

 

「はい? 俺に依頼」

 

「はい」

 

 そんなことはともかく、詠春はいい加減堅苦しい空気も嫌だったので単刀直入に話題を切り出すことにした。

 

 何よりこれは詠春自身の頼みではない。

 

 彼の父親の頼みなのだから……。

 

 詠春はゆっくりと頭を下げ、誠心誠意お願いする体制をとってこう言った。

 

「シシン様にはあることに協力してもらうために……麻帆良に行ってほしいのです」

 

「んぁ? 麻帆良って……あの麻帆良かいな!?」

 

 目を見開き驚きを示すシシンを、頭を下げたまま瞳を動かし見つめながら詠春は『本当にこんな変人送り込んで大丈夫なんだろうか……』と、義父の判断に首をかしげるのだった。

 

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