デュエル日和   作:砂夜†

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第3話 ドキドキするぞ!

 休日の日曜日。蝉の大合唱をBGMにして、凛は一人で村の中を散策していた。散策用にズボンを穿いてきたが、この猛暑ならスカートの方が良かったかもしれない。

「本当に何もないな」

 兵庫県の山中深くにある硯谷村。総人口約2000人の小さな村だ。

 コンビニも本屋もゲーセンも、遊べるような場所は何もない。おまけに携帯の電波すら届いていない。日用品などの買い物は、車を1時間程走らせた先にあるジャスコにいくしかない。

「空気は美味しいが……」

 たしかに東京の空気とは違う。吸う空気には汚れが無く、瑞々しい自然の匂いで満たされている。だが、それだけだ。美味しい空気なんて、初日で吸い飽きてしまった。

 そんな秘境のような村に凛が越してきて、既に3日が経っていた。最初は何もかもが物珍しかった田舎の風景だが、さすがにもう見慣れて、新鮮な驚きなど皆無となっていた。

「やっぱり勇愛かリアに、村を案内してもらうべきだったな」

 だが残念なことに、勇愛もリアも今日は用事があるらしく、結局一人での散策となったのだ。

 竜兵に案内してもらう、という選択肢もあったが、さして親しくもない男子と二人っきりで散策するというのはどうにも気まずい。

「ん? なんだ、この音……」

 何かのエンジン音だろうか。蝉の大合唱にも負けない力強い機械の咆哮が、凛の鼓膜を叩く。音はすぐに止み、また蝉の大合唱が凛の鼓膜を占有した。

 興味を持った凛は、音の方へと足を進める。5分ほど歩いただろうか。一軒のプレハブ小屋が見えてきた。音の発信源は、そのプレハブ小屋からのようだ。

 凛は小さな窓から、中をのぞき込む。

「あれは……刑部?」

 プレハブ小屋の中には、工場作業員の着るようなツナギを着た刑部竜兵がいた。そして竜兵は黙々と大型のバイクを弄っている。

「アイツ、こんな趣味があったのか」

 竜兵の周りには、凛には用途不明の工具がいくつも転がっていた。竜兵はその意味不明な道具を、手慣れた手つきで使う。ボルトを締め、油を注し、部品を付け替える。

 まるで子供が玩具を弄るように、夢中で、真剣に、作業をしている。

 そのまま立ち去っても良かったのだが、凛は自然と窓を軽くノックした。

 コンコン、と軽い音が響くと、竜兵は窓の方へと振り向いた。

 竜兵は少し驚いたような顔をすると、窓を開ける。

「五十嵐さん……何か用か?」

「いや、用というわけじゃないんだが。何をしているか気になってな」

「そうか」

 それだけ言うと、竜兵はまた黙々とバイクを弄り始めた。静寂の中、バイクを弄る音だけが響く。

(会話が終わってしまったな…………)

 バイクの説明なり、世間話なり、会話が続くものと思っていた凛は、何とも言えない気まずい空気に晒された。

 このままここを立ち去るべきだろうか。しかし自分から声をかけておいて、特に話もせずに立ち去るというのも如何なものか。

「あー……そ、そのバイク、カッコイイな」

 口が達者と言うわけではないが、凛は会話を続けようと努力を試みる。

「RGV250γだ」

「……そうか」

 バイクをまるで知らない凛には、竜兵が何を言っているかまるで理解できなかった。だが凛は諦めず、話題を探すために目を動かす。

「ん? それ……デュエルディスクの基盤か?」

 バイクの内部に、デュエルディスクの本体らしきものが見えた。

「ああ。ライディングデュエル用だ」

「ほう。これが……」

 ライディングデュエルとは、最近開発されたソリッドビジョンシステムの発展型だ。その最大の特徴は、文字通り乗り物にライドしてデュエルを行うことにある。デュエリストもモンスターも高速で動き回りながら行われるデュエルは、観客とデュエリスト双方に未知の刺激をもたらした。まだ世間一般に普及しきってはいないが、若年層の間では熱狂的に支持され始めている。

「そのためにバイクも買ったのか」

「いや、これは勇愛のおばさんのだ」

「勇愛の……あの喫茶店の?」

「ああ」

 雰囲気や顔だちが似ていると思ったが、やはり親子だったか。

「バイクだけ譲ってもらって、俺が改造した」

「器用なんだな」

「昔から、勇愛の壊れたオモチャを直していたからな」

「そ、そうか」

 その時の光景が、眼に浮かぶようだ。

 また会話が途切れ、機械が整備される無機質な音が空間を支配する。凛は何の気なしに、竜兵の手元を見る。何をしているかはわからないが、こういった機械を見ることが少ない凛にとっては、ボルト一つを締める動作も面白く映る。

「すまない」

「は?」

 言葉短く、竜兵が喋った。

「俺はあまり口が上手くない。だから、退屈させていると思う」

「まあ、否定はしない」

 苦笑して、凛は言った。竜兵の第一印象は、無口で気難しそうな男であったが、案外面白い人間なのかもしれない。

「しかし、こんな田舎でライディングデュエルなんてできるのか? デュエルディスクだって碌にないのに」

「普及はしてないが、できないわけではない」

 ボルトを力強く締め、竜兵は工具を片付け始める。どうやら、バイクの整備を終えたようだ。

「これから、テストランも兼ねてライディングデュエルをする。見ていくか?」

「ライディングデュエルか……」

 何度かテレビで見たことはあったが、生で見たことはない。良い機会だ。一度この目でどんなものか見ておくのもいいだろう。

「是非お願いしたい」

「なら、これを」

 フルフェイスヘルメットを一つ凛に放り、竜兵もフルフェイスヘルメットを被る。

 竜兵はバイクをプレハブ小屋の外に出し、騎乗する。

「乗ってくれ」

「こ、こうか?」

 凛は慣れない動作で、バイクの後ろに跨る。ズボンを穿いていて良かった。

「行くぞ。捕まっていろ」

「う、うむ」

 遠慮がちに、竜兵にしがみつく。思えば、父親以外の男性に抱きつくのは初めてかもしれない。マズい。なんだか緊張してきた。手に変な汗をかいてしまうし、心臓もうるさいぐらいに高鳴ってしまう。

「もう少し力を入れた方が良い。振り落とされるぞ」

 凛の気持ちをよそに、竜兵は至極冷静だ。なんというか、女に抱きつかれることに慣れているような。

(……勇愛か? すぐ人に抱きつきそうだし)

「五十嵐?」

「あ、すまない。こうか?」

 竜兵の言うように、力を入れる。

「それぐらいでいい。ちゃんと捕まってろ」

 竜兵がアクセルを吹かすと、機械の咆哮が凛の身体を震わせる。

「いくぞ」

 ゆっくりとバイクが動きだし、視界が流れていく。車とは違い、機械の力強い鼓動が直に身体を突き抜けていく。身体が風を切り裂き、風と一つになる不思議な感覚。バイクの何が良いのかわからなかった凛だが、実際に乗ってみて少しだけその良さがわかったような気がした。

 10分程走っただろうか。バイクは山道を登り、山頂に着いた。

「ここだ」

 山頂には、中年の男性が1人居た。おそらく、この男がライディングデュエルの相手なのだろう。

「あの人は団さん。本業は農家だが、この周辺では数少ないライディングデュエリストだ」

「1つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「あの、団さん? が乗っているのが、トラクターにしか見えないんだが?」

「見えないも何も、あれはトラクターだからそうとしか見えないな。YT490か。団さんも奮発したな。良いマシンだ!」

 竜兵の口元が僅かに綻んでいる。言葉通り、余程良いマシンなのだろう。

 たしかに恰好は良い。トラクターというとデカくてダサいというイメージを持っていた凛だが、このトラクターは洗練された車のようなスマートさがある。

「ライディングデュエルとはバイクを使うのではないのか!?」

「明確にそんな規定があるわけではない。ライディングデュエル用のデュエルディスクを搭載したマシン、D・ホイールならデュエルはできる」

「まあ、理屈はそうかもしれないが……」

 どうにも納得できない。

「団さん、お待たせしました」

「おう! 来たか!」

 声の大きい人だ。そして体格も良い。180cmは優に超えているし、身体も筋肉に覆われている。

「ん? なんだ、今日はちっこいのとパツキンの子はいないんか?」

「勇愛とリアは、喫茶店でバイトをしているはずです」

「あー涼風か。これ終わったら行くとするか! 忙しくて3日ぐらい空さんの顔も見とらんしな!」

「空さん?」

「勇愛のおばさんの名前だ」

 首を傾げる凛に、竜兵が注釈をしてくれる。

「よーし! そんじゃあ行くぞ! コースはこの下りの最後まで。いつもの一本松がゴールだぞ? スタートは、コイツで決める」

 団はポケットから、王冠を取り出す。

「はい。では……ライディングデュエル!」

 団は王冠を真上に放り投げた。

 両者のマシンのエンジンが、唸りを上げる。その様はまるで、戦いの瞬間を今か今かと待ちわびる獣のようである。

 コインが地面に落ち、甲高い金属音が響く。

 

「「アクセラレーション!」」

 

「う、うわ!?」

 まるでジェットコースターに乗っているかのような感覚だ。風圧も凄く、力を入れないと振り落とされてしまいそうだ。メーターを見ると、下り坂のせいか、もうすでに90km出ている。トラクターは遅れることなくすぐ横に張り付いており、同じ速度が出ているのだと思い知らせて来る。

「今更だが、降りてデュエルをした方がいいんじゃないか!? どう考えても危ないだろ! 対向車だって来るかもしれないし!」

「ここは団さんの山で、私道だ! 対向車は来ない!」

「いや、それでも! デュエルしながら運転とか危ないだろ!」

「このスリルが良いんだ! それよりしっかり掴まってろ。第一コーナーだ」

「え?」

 凄まじいGが身体にかかる。凛は必死になって腕に力を込める。

「よし! 第一コーナーは制した。俺の先行だ!」

 やはり小回りではバイクに分がある。竜兵は巧みにバイクを操り、トラクターの頭を押さえてコーナーを制した。

「俺はジャンク・シンクロンを召喚」

 ソリッドビジョンシステムにより、カードに描かれたモンスターが立体化する。そして、デュエリストの駆るD・ホイールに付き従うように空を飛ぶ。

「そして、ジャンク・サーバントを特殊召喚。サーバントに、ジャンク・シンクロンをチューニング! 来い、ジャンク・バーサーカー!」

 

『ジャンク・バーサーカー(攻・2700)』

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「オレのターン! 俺は永続魔法、ハングリーキッチンを発動!」

 

『魔法・ハングリーキッチン(①場のモンスターは全て植物族となる ②自分の場のハングリーと名の付くモンスターは全体の場の植物族の数×500攻撃力を上げる)』

 

「そして! 儀式魔法、ハンバーガーのレシピを発動! レベル4キラー・トマトとレベル2のキラー・レタスを生贄にして、ハングリーバーガーを召喚! そして、ハングリーキッチンの効果で攻撃力が上がる!」

 

「ハングリーバーガー(攻・2000→3000)」

 

「勝負! バーサーカーに攻撃!」

 

『ハングリーバーガー(攻・3000)VSジャンク・バーサーカー(攻・2700)』

『刑部竜兵・ダメージ300 残ライフ3700』

 

 攻撃の衝撃が、竜兵のバイクを揺らす。

 

「きゃああああああああ!?  止まれ! 止まってー!」

 凛は必死になって竜兵の腰にしがみつき、悲鳴を上げる。しかしそんな凛の悲鳴に心を動かされる人間はいない。竜兵と団も、ライディングデュエルのスリルに夢中になっていた。

「やりますね、団さん!」

「ガハハ! どんなもんじゃい!」

「ですが、俺もやられっぱなしではいられません。罠カード発動、ウィキッド・リボーン発動」

 

『罠・ウィキッド・リボーン(800ライフポイントを払い、自分の墓地に存在するシンクロモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このターン攻撃宣言をする事ができない。このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する)』

 

「そして800ライフを支払い、ジャンク・バーサーカーを特殊召喚!」

 

『刑部竜兵・残ライフ2900』

 

「ふん。蘇生したか。まあええわい! ターンエンド!

「さすが、元プロ志望。攻撃力3000クラスのモンスターを即召喚するとは……」

 竜兵が何やら団の過去を語るが、それを聞く余裕も会話を返す余裕も今の凛にはない。

「だが、俺も簡単に負けるつもりはない。ドロー! そして、ハイパー・シンクロンを召喚し、魔法カードスター・ブラストを発動。バーサーカーをレベル4にする」

 

『ハイパー・シンクロン(このカードがドラゴン族モンスターのシンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターは攻撃力が

800ポイントアップし、エンドフェイズ時にゲームから除外される)』

『魔法・スターブラスト(500の倍数のライフポイントを払って発動できる。自分の手札または自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選び、そのモンスターのレベルをエンドフェイズ時まで、払ったライフポイント500ポイントにつき1つ下げる)』

『刑部竜兵・残ライフ1400』

 

「バーサーカーに、ハイパー・シンクロンをチューニング。輝け! 飛翔しろ! 閃珖竜スターダスト!」

 それは、眩いばかりに白く輝く竜であった。太陽の光にも似たその輝きと美しさに、凛は思わず目を細める。

 

『閃珖竜スターダスト(攻・2500→3300)』

 

「ぐぅ……攻撃力を上回りやがった!」

「まだです。速攻魔法、サイクロンを発動! ハングリー・キッチンを破壊! これで、バーガーの攻撃力は元に戻る」

「ながっ!? しまった!」

「バトル! スターダストでハングリーバーガーに攻撃!」

 

『スターダスト(攻3300)VSハングリーバーガー(攻・2000)』

『団孫六・残ライフ2700』

 

「だが、ハイパー・シンクロンの効果でスターダストは除外されるだろ!」

「ええ、ですが……エンドフェイズ、スターダストを除外! そしてこの瞬間、速攻魔法、流星群を発動」

 

『速攻魔法・流星群(自分の場のスターダストモンスターがエンドフェイズに除外された時に発動できる。除外されたスターダストモンスターの攻撃力分、相手に効果ダメージを与える)』

 

「3300のダメージを受けてもらいます」

「があああああああ!?」

 

『『団孫六・残ライフ0』』

 

 デュエルの決着がついた瞬間、団のトラクターは煙を上げて急停止した。急停止で怪我でもしてないか凛は心配になったが、団に怪我は無いようで、悔しそうにしながらもピンピンしてトラクターから降りてきた。

 

「くそぅ! やっぱ現役でデュエルしとるヤツには敵わんか!」

「良いデュエルでした。また、やりましょう」

「おぅ。今度はもうちょっと粘ってやるぞ」

 竜兵と団は、互いの健闘を称え合い、爽やかに握手を交わす。

「竜兵、ちょっといいか……」

「五十嵐。どうだ? ライディングデュエルの良さ、わかってもらえたか?」

「わかるか! バカ! 死ぬかと思ったぞ!」

 普段は冷静沈着を座右の銘としている凛だが、思わず大声で苦情を言ってしまう。

「? 何をそんなに怒っている?」

 一方、苦情を言われた方の竜兵は、何が問題だったかをまるで理解できていないようだった。

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