デュエル日和   作:砂夜†

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第四話 メイドの日々

 喫茶店『涼風』。硯谷村にある唯一の喫茶店である。過疎地にある店舗ではあるが、農作業の息抜きに来る人や、暇を持て余した老人達の憩いの場となり、意外にも経営は安定している。

 

「は~い。お待ちどうさん。コーヒーブラックと羊羹やね」

 

 ド田舎の喫茶店にメイドがいた。黒と白を基調としており、スカートは足首まで隠す程に長く、肌の露出は無いに等しい。

 

「しかしおっちゃん。コーヒーと羊羹ってあわんやろ。日本人なら茶飲みいや」

「いや、中々な、コーヒーと羊羹って合うだわ。それより、リアちゃん。今年のスイカ、収穫どうよ?」

「あ~なんか微妙やね。甘さも大きさもイマイチで、農協に安く買い叩かれたっておとんが怒り狂っとったわ。おっちゃんの所は?」

「あかんあかん。夏野菜は不作やわ。値がつかんB品が多くて、儲けが肥料やら機械の燃料代やらに全部持ってかれたわ」

「今年は完全にあかんかったな~。去年が豊作でウハウハやったのが懐かしいでホンマ」

 

 喫茶店で、メイドと初老の男が農作物の出来を語り合ってるのはどこかシュールな光景だが、これがこの喫茶店の日常なのだ。

 

「うふふ。リアちゃんがいると、お客さんが楽しそうだから私も嬉しいわ」

 

 そう言ったのは、この喫茶店の主人である八神空だ。

 

「勇愛ちゃんはお客さんと話したりつまみ食いしたりするもんだから」

 

 苦笑しながら、空は言う。

 

「まあ、の? 勇愛ちゃんは、あれはあれでええぞ? なんか、ちっこい孫みたいでな」

 

 初老の男も、苦笑しながら言う。

 

「あ~わかるわ~。勇愛めっちゃ元気ええもんな。なんか幼稚園児か小学生見とるみたいな気になるわ」

「親としては、もう少し落ち着きを持ってほしいんだけどね~」

 

 困ったように笑う空に、リアは首を縦に振って同意する。

 

『カラン』

 

 出入り口のドアに取り付けられたベルから、軽快な音が店内に鳴り響く。

 

「こんにちは」

 

 入ってきたのは、凛だった。

 

「……メイドがいる!?」

 

 凛は眼を見開いて、リアを凝視する。

 

「ああ、凛はこれ見んの初めてやったか? どうや? ハイカラやろ~。なんでも、東京の喫茶店にはメイドがおるいう話やん? この村にも新しいもん取り入れんとって、ウチが空さんに提案したんや」

「そ、そうか……」

 

 別に東京の喫茶店全てにメイドがいるわけではなく、そもそもメイドがいるのはメイド喫茶なのでは? という発言を、凛は全て飲み込んだ。リアはメイド服を着て楽しんでいるようだし、その楽しい気持ちに水を差すのは野暮というものだ。

 

「ま、立っとらんと好きなとこに座ってや。注文なんにする?」

「それじゃあ、アイスコーヒーと苺のケーキ」

 

 凛はカウンター席に着き、何気なくメニューをペラペラとめくる。コーヒーが主体となっており、ケーキやプリン等の洋風甘味と、羊羹や甘栗の甘露煮等の和風甘味が脇を固めている。食事類はサンドイッチのような簡素な物しかない。

 

「……んん?」

 

 メニューの最後のページに『デュエル割引』という謎の単語があった。

 

「リア、ちょっと」

「なんや? コーヒーはちょい待ちや」

「いや、そうじゃなくて。このメニューの最後。これなんだ?」

「ん~? ああ、それな。文字通りやで。デュエルで買ったら100円割引されるんや」

「意味がわからない……」

 

 凛は眼を瞬かせながら、リアが、いやこの店が正気なのかを疑った。

 

「どうする? 挑戦するん?」

「そう、だな……いいだろう。やってやろう」

 

 凛もデュエルの腕には自信がある。勝てば100円割引というのなら、望むところだった。

 

「一応聞くが、負けたらどうなるんだ?」

「どうもならんよ? 正規料金払ってもらうだけで。ああ、せやけどな、コーヒーとケーキのセットやと800円やねん。でもな? 割引は1000円からなんで、なんか他に注文してもらわんとあかんねん」

 

 ニッコリと営業スマイルで、リアはメニューを突き出してきた。

 やはり、そうそう甘い話はないらしい。

 

(どうする……一番安いのは200円のクッキー。でもこれで勝っても900円になるだけで、何も頼まない方がむしろ安い)

 

 凛は頭の中でうんうん悩む。

 

(だが、勝てば100円でクッキーが頼めると思えば、むしろ得……か?)

 

 この思考が、むしろ店側の思惑通りなのだが、凛はそれに気づかない。

 

「ではこのクッキーを頼もうか」

「は~い! ご注文有り難うやで! 空さん、クッキー追加で。さて、と」

 

 リアは凛の隣の席に座る。そしてポケットからデッキを取り出し、シャッフルする。

 

「コーヒー出来るまでに、勝負をつけたろうやないか」

「望むところだ」

 

 凛もデッキを取り出し、シャッフルする。

 

「「デュエル!」」

 

「先行はもらうぞ! 私はモンスターを裏守備表示でセット。ターンエンドだ」

「ん~どないしたんや? 事故っとるん? いつものヴァルハラ召喚はせんの?」

「無くても戦い様はある!」

「ふ~ん。まあ、うちとしては大助かりやけどな。ドロー! 行くで! まずはバイス・ドラゴンを特殊召喚! そして、ダーク・リゾネーターを召喚。バイスにリゾネーターをチューニングして、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトをシンクロ召喚や!」

 

『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト(攻3000)』

(1):このカードのカード名は、

フィールド・墓地に存在する限り「レッド・デーモンズ・ドラゴン」として扱う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカード以外の、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊する。その後、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

「どうせその伏せカード、シャインエンジェルとかのモンスターなんやろ?」

「……どうかな?」

「すぐにわかるわ! 攻撃!」

 

 リアの攻撃宣言で、凛の裏守備モンスターがめくられる。

 

『シャインエンジェル(守800)』

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できる。

 

「予感的中やな!」

「だが、シャインエンジェルの効果でデッキのシャインエンジェルを特殊召喚させてもらうぞ!」

「戦線維持したいんやろうけど、無駄やで! スカーライトの効果発動! 特殊召喚された効果モンスターを破壊して、ダメージや!」

「ぐぬ……」

 

 五十嵐凛(ライフ4000→3500)

 

「ウチはこれでターンエンドや」

「私のターン……エンドだ」

「ホンマに事故っとるねんな。せやけど手加減せんで。ドロー!」

 

 これで凛がモンスターを何も召喚しなければ、召喚しても攻撃力が500以下のモンスターならば、まだ凛は生き残れるが……

 

「フォース・リゾネーターを召喚!」

 

『フォース・リゾネーター(攻500)』

 

 やはりそう甘くは無かった。

 

「スカーライトとフォース・リゾネーターの攻撃で、丁度ライフは0やな!」

 

 五十嵐凛(ライフ3500→0)

 

「ぬ、ぐぅ……」

 

 デッキの構築次第で、限りなく事故率を下げることはできる。だが、可能性を0にはできない。今回の凛は、交通事故に合うような不運さだったと言えるだろう。

 

「よっしゃあ! 勝利や!」

 

 リアはガッツポーズをして、勝ち名乗りをあげる。

 

「はい。コーヒーとケーキにクッキーお待たせしました」

 

 凛の注文した品を空が運んできた。

 

「リアちゃんも、ちょっと休憩してね。はい、コーヒー」

 

「あざす! いただきますわ」

「むぅ……納得がいかん。もう一回いいか?」

 

 凛はクッキーを一つ口の中に放り込む。

 

「ええけど、割引はできんで?」

 

 当然と言えば当然だろう。何度も挑戦出来たら、意味がない。

 

「そうだ。前々から気になっていたんだが」

「なんや?」

「あの、竜兵だったか。いつもリアと勇愛と一緒にいるな」

 

 学校で男友達と話しているところは見るが、基本的に一緒にいるのはリアと勇愛とだ。

 

「まあ、幼馴染やしな」

 

 ズズッとリアはコーヒーを口に含む。

 

「竜兵はリアと勇愛の、どっちと付き合ってるんだ?」

「ぷはぁ!?」

 

 勢いよく、リアはコーヒーを口から吐き出した。

 

「何言うとんねんいきなり……んなアホなこと」

「年頃の男女が一緒にいるんだぞ? 付き合ってるだろ、普通」

「いやいやいや。子供の頃から一緒におるねんで? んな恋愛感情なんてないから」

「嫌いじゃないんだろ?」

「そりゃ嫌いやないけど……兄妹みたいなもんやって」

 

 どこか顔を赤らめて、リアは言った。

 

「そういうものか。じゃあ、リアって好きな人はいないの?」

「いや、おらんけど……ていうか、なんでそんな話題になんねん」

「ガールズトークというヤツだ。女が集まれば、こういう話題になるだろ?」

「ん~……」

 

 リアは学校の女友達との会話を思い浮かべる。

 たしかにそういう話もする。するが……

 

「農業とか、酪農の話が基本やで? 皆、家が農家とかやし」

「凄い場所だな……」

 

 凛はまるで宇宙人でも見るような目で、リアを見る。

 

「うちらにとってはこれが日常なんやけど。東京のガッコでは、どんなこと話すん?」

「ふむ。恋愛の話とか、ファッション、新しい店がどこに出来たかとか、あの店のスイーツが美味しかったとか、そういう話かな」

「ファッション? しまむらとか?」

「いや、あまりそういう店の話はしないな……」

「は~東京は服買う所がしまむら以外にもあるんやな」

 

 遊ぶと場所はジャスコ、服を買う店はしまむら以外の選択肢を持たない村民にとって、東京はまさに異世界のような場所にしか感じなかった。

 

「ああ、話は戻るが、竜兵は誰とも付き合ってないのか?」

「ん? つきあっとらんと思うよ? アイツと付き合うもの好きなんて、おらんやろ?」

 

 竜兵は無口で愛想もないので、誰かと恋人同士になったとしても長続きしないだろう。

 

「ふむ……」

「……え? 何? ひょっとして、狙っとるとか? 竜兵のこと」

「まあ、顔は悪くないし。面白いヤツだから、興味はあるな」

「やめといた方がええで。絶対退屈するだけやから。無口やで不愛想で、話ことなんてバイクと野菜栽培のことしかないで?」

 

 どうにも心がざわつく。自分はなぜこうも竜兵のことを悪く言ってしまうのか。リアにも、自分の心の内がよくわからなかった。

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