デュエル日和   作:砂夜†

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第五話 神を従えし少女

 夏。全国の高校生デュエリストにとっては、特別な季節である。夏の選抜高等学校決闘者大会。冬に開催される全国大会へのシード権を賭けた、熱き決戦の場である。

 決戦の地となる東京。プロの試合も行われるデュエルスタジアムにおいて、その決勝戦が行われていた。

 

「っく!」

 

 鏡花高校の主将は、歯を食いしばって迫りくる敗北に耐えていた。

 

(毎日、練習してたんだけどなぁ……)

 

 デッキの構築を練り、プレイングを磨いた。毎日ひたすらに、努力を積み重ねた。だが、勝利には手がとどかない。いや、触れることさえできない。たった1ポイントのライフすら削れない。

 決して、彼が弱いわけではない。夏の大会では個人戦ベスト8にもなったし、チームの勝利にも幾度となく貢献してきた。

 

(才能の違いだよな)

 

 相手は全国高校生の頂点。未だ敗北を知らぬ才能の塊。負けても仕方がない。

 

(受験、頑張るか。冬の大会は辞めだ。デュエルはもう、趣味だけにしとこう。こんな化け物と、戦えるかよ)

 

 諦観と絶望の入り混じった眼が、対戦相手を見る。

 宮園黎那(みやぞの・れいな)。高校二年生ながら、名門高である神栄高等高校のエースを務める天才である。

 

(ちっくしょう……)

 

 少女の顔に浮かぶのは、無。弱者への嘲りも、勝者となった優越感もそこには無い。氷のように冷たい顔。退屈しているのだ。彼は全力で戦ったはずなのに、この少女はそれを歯牙にもかけていない。

 

「これで終わりです」

 

 小さな声。だがはっきりと耳に残る鋭利な声が彼の心を抉る。

 

「行きなさい」

 

 少女は腕を振り上げ、命令を下す。腰まで伸びる長い髪が、さらりと揺れる。

 彼女が従えるのは、青き鋼の身体を持つ神、巨神オベリスク。

 神は拳を振り上げる。神に逆らう愚かな羽虫を潰すために。

 

『不敗なる神! 力の象徴たる神! オベリスクの巨拳が唸るー!』

 

 アナウンサーの実況がどこか遠くに感じられる。

 神の巨拳が、衝撃となって身体を突き抜ける。ライフは0となり、その瞬間に彼の敗北が決まり、デュエリストとしてのプライドも粉々に粉砕された。

 

『決まったー! 夏の選抜を制したのは、神栄高校! 勝利の立役者となったのは、神を従えし少女、宮園黎那だー!』

 

 少女は小さくお辞儀をする。

 

「おめでとうございます! 今のお気持ちを、一言!」

 

 実況席にいたアナウンサーが駆け寄って来て、マイクを突き出してくる。

 

「デュエルが、したいです」

 

 それだけ言って、万雷の拍手を背に、黎那は会場から去った。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 控室に繋がる廊下。黎那の足音だけがコツコツと規則正しく響く。

 

「天才様は余裕の勝利だねー!」

 

 その足音を、柄の悪い大声が乱した。

 

「竜胆君」

 

 頭を金髪に染めた、いかにもな不良である。

 

「気安く呼ぶな。胸糞悪ぃな」

 

 ッペ! と唾を吐き捨てて、竜胆は黎那に詰め寄る。

 

「オメーのせいでこっちはレギュラー追い落とされて、イラついてんだからよ」

「それは貴方の実力が足りなかっただけでしょう?」

「あ? 舐めてんのか!?」

 

 竜胆は壁を殴り、黎那を恫喝する。しかし黎那は眉一つ動かさずに、嘆息する。

 

「その気概を、デュエルに向けて欲しかったわ」

「おい。あんまり舐めてると」

「あらぁ~。な~に楽しいことしてるのぉ?」

 

 間延びした嗤い声が、割って入った。

 

 ウェーブのかかったロングの髪は、優しげな声の印象に相応しい。しかしその顔は、ニヤニヤと相手を小ばかにしたような嫌らしい笑みで染まっていた。

 

「涼虎……」

 

 竜胆は苦々しげに顔を歪めると、舌打ちをしてその場から立ち去った。

 

「な~にぃ? イジメられてたのぉ?」

「よく、わからないの」

 

 恨む暇があるなら、なぜその分を研鑽に費やさないのか。強くならなければ、無くしたものは取り戻せないというのに。

 

「しょうがないわよぉ」

 

 クスクス、と涼虎は嗤う。

 

「あなたに人の心は解らないものぉ」

「否定はしないわ」

 

 それは事実だ。他人が何を考えているのか、よく理解できない。人の感情が、理解できない。なぜそんなに喜ぶのか。怒るのか。哀しむのか。楽しむのか。

 

「黎那のそういうところ……本当に好きよぉ」

 

 涼虎は黎那の髪を救い上げる。持ち上げられた髪はさらさらと、涼虎の手から零れ落ちていく。

 

「私も、涼虎の事は好き」

 

 涼虎とのデュエルだけは、少しだけ、心が震える。それがどういう感情なのかは解らないが、感情を揺り動かされるデュエルが出来るのは涼虎とだけだ。

 

「ふふ。さぁ、行きましょう。控室で希美も待ってるわぁ」

 

 涼虎は黎那の前を歩く。

 黎那はデッキを取り出すと、三枚のカードを取り出す。

 

『オベリスクの巨神兵』『オシリスの天空竜』『ラーの翼神竜』

 

 神のカードと呼ばれる、全てのカードの頂点に君臨するカード。

 神が少女を選んだのか、少女が神を選んだのか。神は今、宮園黎那の手の中にあった。

 

「デュエルが、したいな」

 

 そっとカードを撫でながら、黎那は呟いた。

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