『イヤ!イヤ!』
「ああ、もう!文句は言わない!少しぐらいなら出来るでしょ!」
デバイスを持っていなかった私は矢澤ハコをデバイス代わりにして出撃しようとしていた。
あの子の作り上げたロボットなのだからデバイスとしての機能くらいあるだろう。何せ無駄な機能は充実しているのだ。色々出来るようにしていると思う。
『ボク!ヨユウナイ!』
「ほら、あんまり強情だと貴方の頭に吐くわよ?」
『ヤメテー』
まあ、ウコンの力が効いてきたお陰でだいぶ楽になってるからもう吐かないわよ…………多分。
「あの、そろそろ行きますけど……」
「いいわ!このまま転送してちょうだい!バリアジャケットは自分で展開できてるから問題無いわ!」
デバイス無しでも戦えることは戦える。でも魔法の展開速度や効率が違うのよね。
それに無いとしんどいし……
『イヤーーー!!』
◇
転送された先は海の上だった。直ぐ様魔法を行使して空中に浮かび上がる。
周りの皆も無事に転送できたみたいで、前方にいる闇の欠片を見つめている。
もう魔法は届く距離。向こうからもこちらを視認出来ているだろうけど、全く動きを見せる様子はない。
不気味なほどに不動な状態でその場に立ちすくんでいる。
「皆、散らばって最大火力で一気に決めるで!」
はやてちゃんの号令のもと、闇の欠片を囲むように移動する。
その間も動く様子はない。まるで私達のことを見ていないかのうような……
『……ニセモノ。ゴシュジンノニセモノ』
「そうね」
魔力を貯めつつ、手に持ったハコの言葉に返事をする。
ハコも思うところがあるのだろう。ただ、真っ直ぐに自らの主の偽物を見つめていた。
『………ウゴキ、ナシ』
「ええ」
現状を確認している言葉……多分ハコは何かをしているのだと思う。恐らくは闇の欠片の解析か何かを……
それなら片手間にデバイスの真似事もしてくれればいいのに……何故か引き受けてくれることがない。拒み続けている……
『皆さん、準備は出来ましたか?』
アースラ内にいるリンディ・ハラオウンからの通信が聞こえ、コクリと頷くことで肯定しておく。
「サンダーブレイズ」
ためた魔力を放出し、青い雷光を作る。
放射型の高威力な魔法。周囲の環境に依存せずに安定した火力を出す魔法を私は放った……
他の皆も各々の撃てるであろう威力の魔法を打ち込んでいる。
一番目立つのはなのはちゃんね。あのスターライトブレイカーは相も変わらず物凄い迫力だわ……
『………』
にしてもなんだか嫌な予感がするわね……
こう静かな雰囲気が……
「………なんだ、いたのか」
◇
『キドウ、キドウ』
私達の魔法による一斉攻撃が止んだ場所には特に外傷の見当たらない闇の欠片がいた。
流石に皆動揺しているようだが、今はそれどころではない。闇の欠片が動き出したのだ……ただ周囲へと視線を向ける動作、それだけで此方のことを認識したということが解る。
静寂に包まれる中闇の欠片は片腕を上げる。
『キドウ、キドウ』
ゴクリと唾を飲み込み、直ぐ様バインドを放ってみるが、身体にあたった所で砕かれてしまった。
『キドウ、キドウ』
「……ほう?」
皆が魔法で攻撃を加える中、闇の欠片は此方へと視線を向けた。魔法にあたっても物ともせずに此方を見続けている。
『キドウ、キドウ』
『キドウ、キドウ』
私も魔法を放ってみるけど、牽制にもならない……
ふと、手に持つハコが熱くなっているのを感じ、何かをつぶやいているのに気づき、視線を向ける。
モーター音を響かせて何かをしているようだ……一体何を……
『キドウ、キドウ』
『キドウ、キドウ』
『キドウ、キドウ』
「なかなかに粘る。限界を超えていそうなものだが……」
『キド……ガガ…キドウ』
闇の欠片は此方を見たまま魔力弾を形成し、横方向、丁度ヴォルケンリッター達がいる方向へと放った。
『テンカィ』
ハコのつぶやきとともにヴォルケンリッターの前方に薄い黄緑色の透明な壁が出現し、魔力弾を防ぐ。
この子が展開したのだろうか……あの魔力弾に込められた魔力はとんでもないものだったがハコの展開する盾ならば問題なく防げるようだ。
『キ……ド…ウ……』
一瞬何か違和感のようなものを感じた……風景が少し歪むような、おかしい光景を……
「どうした?その程度か」
闇の欠片はまるで誰かに問いかけるように話す。私に話している様子ではない。ならば一体……
『キドウ』
それにしてもハコがさっきよりも熱くなっているのが気になる。まるで端末が膨大なデータを処理しているかのような……
「そろそろやらせてもらおうか……」
突然ハコを持っていた感触が小さくなった。それに気を取られ視線を一瞬闇の欠片から離し、もう一度向け直すと、その姿はない……
『ガッ!!』
変な声が聞こえたと思えば闇の欠片の姿を確認した。なのはちゃん達とフェイトの目の前に出現している。
直ぐ様バインドを発動させるが効果はない……
恐らく瞬間移動か時を止めたのだろう。やはりあれに対抗する手段が……
いや、ちょっと待って、何でなのはちゃんがハコを抱えているの?
「驚いた……まさか防ぐとはな」
『ガガガ……ヤッパリ、ニセ、モノ』
ノイズの入り混じった声が響く。よく見るとハコの耳部分が片方外れ、一箇所へこんだような跡が見える。
手に持っている何かを見るとハコの耳があった。
「ただの機械がよくほざく」
『ゴシュ……ジン…ガ…ナラ、モット……スゴイ』
「……」
『ッ!!……キド…ウ!!』
また違和感。さっきよりも大きな……
「やはり限界のようだな。もう消えていいぞ」
『オマエ……ハン、タイ……ジジ…ゴシュ…ジンノ……ハンタイ……』
「……む。此方も限界が近いか……」
一体何が起こっているのかがわからない……闇の欠片もハコも一体何を……
「だが、もう止められまい……」
闇の欠片の言葉とともに周囲の時間が停止した。
いや、私は止まっていない。
「範囲を狭めればまだ止めれたというわけか……」
「一体何が……」
見たところ、フェイトとなのはちゃんも止まっていない……
『……ガガ…キド……』
また、皆が動き出した……
いや、違う……海を見てみればわかる……
ここら一帯以外の時が止まっている。
直ぐ様アースラへ通信をしてみるが繋がらない。多分向こうも止まっているのだろう……そして、私達が動けるのは……多分ハコの仕業……
「下等な存在にしてはよくやる……」
『キド…ウ…』
また止まった。でも、何故私は動けているの?ハコの力がハコを中心としているのならばなのはちゃん達が動けるのはわかる……
「クッ!」
フェイトが斬りかかるがあっさりと止められる。
なのはちゃんも魔法を繰り出すけど聞いていない。
二人が攻撃している隙に魔力弾に層を重ねる。魔力で圧縮し、貫通力を固めていく。
なぜかはわからないけれど私には時を止める力は効いていない。ならば攻撃し続けて時を止める力が解けることを祈るしか無い。
「形成完了」
魔力弾を闇の欠片の背中へと放つ。
まっすぐと進む魔力弾は闇の欠片に当たり、その身体を貫いた。
「ぬぅ……!」
闇の欠片が唸ったのが理解った。
そうか、向こうもハコが時を止めるのを邪魔していると考えていて、私が動けるということを解っていなかったのだ。結果私の攻撃をモロに食らってしまったというわけか……それだったらもっと時間をかけて不意打ちしたほうが良かったわね……
「え?」
眼を離していなかった。それなのに闇の欠片はいきなり目の前に現れ……次の瞬間衝撃に襲われたと思えば……
目の前でハコが壊された……
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ニセモノ、トキ、トメル
ジドウ、ハツドウ、『ラースエイレムキャンセラー』、ハンイ、カクダイ
ゴシュジンニカクレテミニツケタ
キドウ、キドウ
ハンイカクダイ、フカ
『ボソンジャンプ』、ハツドウ
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ラースエイラムキャンセラー
ラースエイラムという周囲の時を止めるシステムに対する無効化システム
ボソンジャンプ
一種の瞬間移動のようなもの