と言っても微々たるものなので気にすることではないのですが……
「馬鹿な、貴様は、俺だと?」
「………」
目の前に現れた存在に闇の欠片は困惑する。
そう困惑している事が既にその闇の欠片が他の闇の欠片とは一線を画する存在であると証明していた。元来闇の欠片は元となった存在のあり得る姿を模し、ただ一つの目的を持って行動している。
だが、この闇の欠片の元になった存在。上月典矢はこの世界において存在しない者。それを模した闇の欠片は一つの目的に縛られることもなく、一つの自我を持って限界していた。
「答えろ!貴様は何者だ!」
故に気づかない。己が生まれた理由を。己が闇の欠片であるという事実を偽物は知る由もない。
ただ、強大な力を持って生まれたという結果だけが残っていたのだ。
「……知らなくてもいい事だよ。すまなかったね」
上月典矢は闇の欠片をただ一瞥し、そう宣告した。
時の止まった空間内で二人を観測できるのはプレシア・テスタロッサのみ。既に事切れているハコは主人の戦いを見ることは叶わない。
それでも、ハコの表情は安らかなものだった。彼が少しでも時間を稼いだという事でプレシア・テスタロッサの命を助けることが出来たのは紛れも無い事実だ。人の役に、誰かを助けるために壊されてしまうのは彼にとっての本望だったのだろう。
それを感じ取っているからこそ、上月典矢はハコを労い、彼の期待に応えるため、最後の戦いを始める。
そう、幾度も闇の欠片と戦った最後の戦いを……
「さあ、終わりにしよう」
上月典矢の呟きとともに闇の欠片は斬りかかる。
右に左にフェイントを織り交ぜながらその凶刃を持って上月典矢へと斬りかかる。
だが、その斬撃はまるで"わかっている"かのようにほんの少し身体を逸らすだけで躱されてしまう。
切り返し、振り上げようとも同じ様に躱されてしまった。予め来る場所が解っているかのように……
「ハッ!!」
掌底が闇の欠片の腹部に突き刺さる。
衝撃が突き抜け、空気が震えた。闇の欠片は口から血を吐き出し、吹き飛ばされた。
「まだだよ」
飛ばされる闇の欠片の元に上月典矢は瞬間移動し、蹴りあげる。
為す術もなく打ち上げられた闇の欠片を待っていたのは上月典矢が生成した高密度の魔力弾の雨だった。
四方八方、空間360°を埋め尽くすほどの魔力弾は一斉に闇の欠片に殺到し、弾け飛ぶ。
プレシア・テスタロッサはその圧倒的に一方的な戦いに唖然とした。負けるとは思っていなかった。闇の欠片は間違いなく消耗しているから上月典矢が勝つとは思っていた。だが、それでもここまで一方的なのは信じられない。
魔力弾の爆発により発生した煙が晴れて、ボロボロな状態の闇の欠片がその姿を現す。
だが、目の前に上月典矢が現れ、顔に手を添えられた。
「……ごめんね」
その呟きとともに闇の欠片の顔面に凄まじい魔力の込められた一撃を撃ちはなった……
攻撃の余波が空を覆っていた雲を吹き飛ばす………
闇の欠片は、その存在を消失し、そこには一つの黒い塊だけが残っていた……
彼は闇の欠片が消え去ったのを確認した後、時間停止を解除する。
時間が進み始めたと同時に周囲の魔導師達は困惑する。闇の欠片の服装と雰囲気が変わっており、等の闇の欠片らしき人物がハコの残骸を回収していたのだから……
◇
闇の欠片が消失した後に残っていた物、それがエクザミアだと気付いたU-Dは直ぐ様それを回収し、ディアーチェにより完全に制御下に置かれた。
一行は闇の欠片は倒した本人、上月典矢に話を聞くためにアースラに帰投し、説明を求めていた。
「今回の件、私の不始末で発生してしまったのです」
彼から伝えられたのはとんでもないことであった。
まず、プレシア・テスタロッサが何らかの理由で並行世界の過去に飛ばされてしまったのが事件の発端だ。その理由は上月典矢ですら理解出来ていないことだったが、問題なのはその後だ。
上月典矢はプレシア・テスタロッサを連れ帰るために魔力による感知を行い、プレシア・テスタロッサの行方を探知したのだ。
幾つもの並行世界へと魔力を飛ばし彼女の行方を探す……その時点でアースラ内の魔導師達は頭をおさえていた。唯一レヴィはよくわかっていなかったようだが……
まあ、その魔力による探知を行った結果、闇の欠片はその魔力を情報源に上月典矢の偽物を創りだした。
強力な彼の能力を膨大な魔力を使用することで模倣して……
つまり、彼が幾つもの並行世界へ魔力を飛ばした結果、あの偽物が生まれたというわけだ。
そこで疑問に思うのは他の並行世界の事。魔力を情報源とし偽物を創りだしたというのであれば少なくとも他の並行世界にも出現した可能性は高い。
今も悠長に上月典矢がコーヒーを飲んでいるのはマズイのではないのかと。
もしかすれば他の世界にはあの闇の欠片に対抗できる存在がいたのかもしれないが、いない世界もある可能性は存在している。
だが、次に上月典矢が告げた言葉に衝撃が走った。
「もう、全部倒しました」
あっけからんと告げた彼にリンディは思わずコーヒーを吹き出してしまった。
つまり、彼はこう言っているのだ。他の世界のあの強大な闇の欠片を倒してきて、最後にここの世界の闇の欠片を倒したという事を……
それを聞いてプレシア・テスタロッサはあの一方的な戦いに納得した。彼は何度も戦ってきたのだ、相手の行動が手に取るようにわかるのは必然だったのだ。
そして、同時に思う。他の世界の闇の欠片を倒している時間があったのならばプレシア・テスタロッサをもっと容易に助けることは出来たのではないのかと……
それに上月典矢はずっと時間を止めて倒してきたから違いはないと指摘した。
更に自分の自慢のハコがなんとか時間を稼いでくれると信じていたとも言葉をこぼす。
いつの間にか勝手に自動修復していた矢澤ハコは下部分を開いて足のようにし、耳の隙間から小さな手を出して己の主人の言葉に自慢気にドヤ顔をしていた。
そんなハコはさておきプレシア・テスタロッサはある考えにたどり着く。
目の前の上月典矢の口ぶりから察した事柄。彼は全ての闇の欠片を倒したと告げている。
つまり、どの世界にもあの闇の欠片に対抗する者はいなかったのではないのかと……
上月典矢は肯定する。そして更にどの並行世界にも自分は存在しないと告げた。自分は世界にとっての歪みであり、単一の存在であると……
とてもではないが信じられない内容……だが上月典矢の言葉は不思議と説得力にあふれていた。
証明する物は何一つないのに彼が嘘をついていないと魔導師達は直感的に感じた。
なにはともあれ、色々あったが闇の欠片による事件は収束した。
その後は全員の記憶を弄った後、元の場所に帰っていく。
無論、上月典矢とハコ、そしてプレシア・テスタロッサも自分達の世界に帰っていった。
プレシア・テスタロッサは最後にフェイト・テスタロッサ・ハラオウンを娘として抱きしめてからだが……
最後駆け足でしたがこれでGOD編終了
流れ的には
プレシアさんハコと共に並行世界へ
↓
主人公「早く連れ戻さないと」(魔力探知で幾つもの並行世界を調べる)
↓
主人公「見つかったけど変な奴が生まれちまったぜ」
↓
主人公「全部倒して最後にプレシアさんを回収しよう」
ってな感じです。