「で、最近はフェイトもスカリエッティの情報集めに没頭しているってわけだ」
「そう……あの子には負担になってほしくなかったのに、聞かないのよね」
夜、今日はバーの日、店内にはプレシアさんとヴィータさんの二人だけがいる。既に飲み始めてから1時間は経過しているけど未だに話が止まる様子はない。二人共顔見知りで前に来たフェイトさんの話を今はしているようだ。
自分は特に何も知らないので話には加わらずにつまみを作っている。あまり時間をかけなくてもいいとのことで普通に料理をしていた。
スカリエッティさんの事を知っているだって?自分の知る彼とプレシアさん達が話している人物が同一人物で無いかもしれないじゃないか。なので話す必要はないと思うんだよね。まあ、同一人物だろうけど……
「ああ、店長。スクリュードライバーをくれ」
「了解しました」
「私は適当なワインにしてくれない?」
「はい」
えっと、ウォッカは…ツァールスカヤにしておいて、赤ワインは1986年代のシャトーラトゥールっと。
タロッコオレンジを絞り、ウォッカと混ぜてシェイクしたスクリュードライバーをヴィータさんの前に、プレシアさんにはワイングラスに一杯だけ注ぎ、ボトルも置いておく。
「ん、やっぱここの酒は美味いな」
「ええ。このワインも年代物じゃない。高かったんじゃないの?」
「そうでもありませんよ」
確か600ユーロくらいだったし。
まあ、一本1000Gで出しているから完全に赤字になるだろうけどね。
「私にも飲ませてくれよ」
「ええ。店長、グラスは……あるわね」
「相変わらずだな。この店長は」
プレシアさんが言い切る前にグラスを置いていたのが驚かれた。別に今のは時を止めたわけでもないんだけどね。
「そう言えば一つ聞きたいのだけど」
「どうしましたか?」
「今日は矢澤ハコが店の前に転がってなかったけどどうしたの?」
「また出前か?」
「ああ、ハコなら……」
家の中の気配を確認する。
ん?どうして店の方に近づいてきてるんだろう。ヴィヴィオちゃんとリビングで遊んではずだけど……
「今こっちに来てますね」
「あ、家にいるのかしら?」
「はい。少し頼みごとをしていたので」
「頼みごと?」
背後の扉が開きハコとヴィヴィオちゃんがやってくる。どちらも眠そうにあくびをしているな。ハコは本来睡眠が必要ではないはずだけど、ヴィヴィオちゃんはまだ子供だから流石に眠いのか。もう20時だし仕方ないのだろう。
「パパぁ、お風呂ぉ」
「ん。わかったよ」
影分身を発動し、分身にヴィヴィオちゃんの入浴を任せる。ヴィヴィオちゃんは目を擦りながら「パパが二人だぁ」って言いながら分身と家に戻っていった。
ハコも着いていこうとしたが閉じられたドアにぶつかって地面に落ち、そのまま眠ってしまった。
取り敢えずこの前作ったハコのベッド(ダンボールに穴を開けてハマるようにしたもの)に寝かせておく。
そしてまたつまみを作りだそうとしたのだが、どうにもプレシアさん達の様子がおかしい。口を開け、固まってしまっている。
取り敢えず出来たクラッカーを出しておいた。
「貴方、娘がいたの!?」
「ああ、はい。いますよ」
「ちょっと待て!あの娘は何歳なんだ!?」
「確か、5歳ですね」
「ってことはあれか!?お前10歳の時に子供産んだってことかよ!」
「へ?」
「ってちょっと待ちなさい。あの子ってヴィヴィオちゃんよね!?」
「ええ、そうですよ」
良く知ってるなぁ、プレシアさん。もしかして知ってる子だったのかな。それとも有名な子?
「プレシア知っているのか!?」
「フェイトとなのはちゃんの娘よ」
「あいつら娘がいたのか!?」
へ?自分はそんな事知らないのだけど、フェイトさんも、なのはさん?もあまり話したことはないけどヴィヴィオちゃんはあの二人の子供なんだ。
でもそれじゃあどうしてスカリエッティさんが連れていたんだろう。思考的に誘拐では無かったし、いまいちわからないな。
「いえ、なんて言えばいいのか……取り敢えず店長。あの子はどうしたの?」
「知り合いに頼まれて親になりました」
「……はあ!?」
「……と、取り敢えず色々と整理しましょう!」
◇
1時間後、今の状況を自分達は把握した。
プレシアさんが知っていたのは以前過去に飛ばされた時に未来から来ていたヴィヴィオちゃんと会ったかららしい。そこではフェイトさんとなのはさんの娘になっていたそうだけど、自分というイレギュラーのせいで変わってしまったみたいだ。
少し困ったなぁ、自分が何をしようが正史として進んでいくのだけど、本来は違うはずなのだ。あまり世界の行く末に関わりたくはないのだけど……
自分もスカリエッティさんの事は伏せつつもヴィヴィオちゃんのことを話しておいた。
勿論、誰かに狙われてるってことも……
「だから!はやてはあたし達がいるから大丈夫だって!」
「解ってないわね。このままじゃああの3人は下手すれば一生独身よ?唯でさえ立場的に一歩引かれるのに」
「でもさぁ……」
「家族愛にあふれていたとして、恋愛したくても出来ない子もいるのよ?」
何故かヴィヴィオちゃんの話からガールズトークになっている。
一応男である自分が混ざるわけにもいかないし、風呂から戻ってきたヴィヴィオちゃんにココアを飲ませておく。
「まあ、店長にはフェイトの旦那さんになって貰うからはやてちゃんには渡せないけどね!」
「何か言い方がムカつくぞ!はやての旦那だって店長みたいに料理が上手い奴がなるんだよ!」
「それ、貴方が美味しいもの食べたいだけじゃないの」
お酒も入ってるおかげか中々にヒートアップしている。
「喧嘩はダメだよ?ヴィータお姉ちゃん、プレシアさん」
「おう、喧嘩はしてないからな。今は楽しくお話しているだけだぞ?ヴィヴィオ」
「そうよ。あ!そう言えばヴィヴィオちゃん、ママがほしくない?」
「ママ?ヴィヴィオのママ?」
いつの間にか二人共ヴィヴィオちゃんと仲良くなっている。人間の子供というものは他者に対して友好的に接するもののようだ。
「ええ、フェイトママって言ってこの写真の女の人が貴方の母親よ」
「あ!何見せてんだよ!違うぞヴィヴィオ!このはやてママがお前のママだ!」
「うー?」
二人して端末をヴィヴォオちゃんに向けている。いや、子供に理解できないんじゃないかな。それにママって……本人に了承も取らずに良いのかなぁ……
「さっきははやてちゃんには必要ないって言ってなかったかしら?」
「ヴィヴィオは天使だ。その母親であるはやては大天使だ」
「意味がわからないわよ」
む?ヴィヴィオちゃんは天使ではないと思うけど……はやてさんもサリエルさんのような力を感じないから大天使ではないだろうし……
「ヴィヴィオにはママが二人いるんだね!」
「「………」」
何故かヴィヴィオちゃんには二人の母親がいるらしい。
自分が知らないことがどんどん露見していくさまはある意味痛快ではある。正直自分自身この流れにはついていけてないから仕方ないのだろうけど。
今もスピスピいいながら眠っているハコにため息を吐きつつヴィヴィオに2杯めのココアを渡す。
「ありがとう!パパ!」
「……ヴィヴィオ、お前のママは2人じゃないぞ」
「ええ……」
「ふぇ?そうなの?じゃあ誰がママなの?」
「フェイトママと」
「はやてママと」
「?」
「「ついでになのはママだ(よ)」」
「3人もいるの!?」
……母親は3人らしい。