「ふぅ、疲れたぁ」
これで今日処理すべき書類は終わり。後はなのはちゃん達の教導の資料に目を通す事くらいでやることは無くなるかなぁ……
何か終わったと思ったら少しお腹が減ってきた。ちらりと時計を見てみれば昼過ぎ。昼ご飯食べてないのだから仕方ないのだろう。
取り敢えず食堂に行こうかな……ああ、そう言えばヴィータもまだ食べてなかったっけ。ずっと書類を作成してるし。
「ヴィータ、ご飯行こ」
「ん。ちょっとまってくれよ。もう少しで終わりそうだから」
確かにヴィータの机の上には書き上がった書類が数部ある。恐らくは今やっている書類で終わりなのだろう。
「ああ、そう言えば一つ聞きたいんやけどええ?」
「なんだ?はやて」
「最近良くあの店長の店に行ってるけどあの店長に変わったこととか無かった?」
「……い、いや。何もねえぞ」
何や?何でかヴィータが吃って視線を泳がせた。
それでも作業を止めないのは流石というべきか……
「なんか怪しいけど、まあええか。あの店長は一応密航まがいな事やってるから目を光らせやなあかんで?」
「わ、わかってるよ。でも仕方無くないか?だって瞬間移動で地球のコンビニでアイス買ってくるような奴だぞ」
「……ヴィータ、アイス買ってもろた?」
「………」
露骨に目を逸らしたで。
局員やのに目の前で渡航許可の降りてない世界への移動を黙認するだけでなく、物を買ってきてもらうって……
「……これはあれやな。1回くらい私らも見に行かんとあかんな」
「い、いや!そんな必要はねえよ!」
「流石にいきなり捕まえるようなことは出来やんけど、あの店長に注意くらいしやんとな」
「あたしがしておくから大丈夫だって!」
んー?なんかヴィータの反応怪しいなぁ……まるで私らが見せに行くのを嫌がってるみたいに……
まさかヴィータ……
「あの店長を私らに取られるって思って嫉妬してるんか?」
「そんなわけねえよ!」
「じゃあ別に行ってもええよね?」
「うっ!……だけどさ……」
ちょうどええ時にハコからメール来てるわ。夜はバー。つまりヴィータが行く時の店やな。
「んじゃあなのはちゃんやフェイトちゃん連れて今日行こか。シグナムとシャマルは……残業あるんか…後で合流やな。ザフィーラは予定もないし大丈夫そうや」
「いや、本当に大丈夫だから!」
「手止まってるで」
「うっ!」
私の指摘に唸り声を上げながら書類を作成するスピードを上げる。
反応的に何かがあるのは確かか。こんなヴィータ見たこと無いから今から楽しみやわ……
「(仕方ねえ、こうなったらプレシアも巻き込んでやる。例の件はあいつも共犯なんだから)」
「なんか言った?」
「何でもないぞ!終わったし飯行こうぜ!」
「うん、じゃあ行こか」
◇
【とある研究所】
「そこで私はこうだと思うのだが……」
白衣を着た男性、ジェイル・スカリエッティは研究所内で自分のパソコンに向かい、何かを弄りながら呟いていた。
「なるほど、確かにそのように作用するが……何!?そうしたら変形できるだと!?」
部屋の中にはスカリエッティ以外はおらず、傍から見れば独り言を呟いているようにも見える。
実際に彼の娘達は扉から部屋の中の様子を覗き見て彼の様子に困惑している。
「それは魅力的だが、その回路に耐えうる材料が……え?聞いたこともないのだが。そのような物質」
見た所マイクやイヤホン。カメラなども装着している様子はない。
ただ画面を見ながら小さな機械を弄る。
実を言うと彼が話している相手は、例の店の店長、上月典矢ではなく、小さな球体の金属体。矢澤ハコだった。
ジェイル・スカリエッティの呟きをまるでその場にいるかのように反応しハコはメールを送信してくる。そのメールを使い、彼は研究の事を議論しているのだが……
「なあ、ドクター大丈夫かな…」
「最近は10時に寝て7時に起きてるし、ご飯もしっかり食べてるから健康だとは思うけど……」
「頭がイカれちまったか?」
周りからは只々異常にしか見えない。しかしスカリエッティにとってそう思われようがこの議論を中断することはない。それほど彼がこの議論が重要だと理解し、また世間から見てもとんでもない意見の応酬なのだと感じているからだ。
「所でハコ君、そろそろ店長に君を調べさせる許可を貰えないか?何?ISのコアを作るのに忙しいだって?何だね、そのISと言うのは……もしやインターフェイススキルではあるまいな…なに?宇宙空間での作業を目的としたパワードスーツ?」
手に持った機械を机に置き、スカリエッティは横にある白紙の紙に何かを書き込んでいく。
矢澤ハコから送られてくる
「ふむ、一定のダメージの無効化と質量兵器や魔力兵器を詰め込んで障害物にも安全だと……最早兵器ではないのだろうか……いや、違うな、その機動力とそれだけの精密さなら確かに宇宙空間での作業に向いている……ふむ…コアは店長が作って動力部分は君が作っているのか……君は何者かね」
紙に記すスペースが消えたのを確認し、新たな白紙を用意し、更に書き込んでいく。
彼にしてみれば夢物語のような部分も多いが、それを実現している者が現実に存在していることにスカリエッティは喜びを覚えつつ、笑みを浮かべる。
「何だね、その太陽炉やら縮退炉という物騒な名前の物は……む?オルゴン・クラウド?螺旋力?聞き覚えがない言葉だが……ゲッター線とは何かね」
疑問をぶつけつつも彼の顔から笑みが取れることはない。自らを生み出した最高評議会に恨みすらも持っていた彼はこの瞬間だけは間違いなく、充実した人間らしい笑顔を浮かべていた。
「ギアスキャンセラー?ふむ、何か心に引っかかるものが……オレンジとは柑橘系の果物だということは私も知っているよ」