ヴィヴィオの母親になってから数日が経った。基本的には典矢君に任せているけど、時間があればあの店に行くようになった。最初は店長さんって読んでたけど、ヴィヴィオがママなのにパパを店長って呼ぶのはおかしいと言って恥ずかしながらも名前を呼ぶことになったのは記憶に新しい。
まだ会って間もないし、恋人というわけでもないのに夫婦のような立場にいる男の子にどんな顔をして接すればいいのかイマイチ分かっていないというのに名前で呼ぶのは思った以上に恥ずかしかったな。フェイトちゃんも私みたいに赤くなってたけどはやてちゃんだけは普通みたいだった。
とまあ、まだまだ接してから短いためあまり典矢君の事をわかってない。それでも彼がどこかズレているということはよくわかった。なんと言えばいいのか、普通の人が感じて思うような常識を持ち合わせてはいないのに人の事をいつもやってくれるお人好しのような人。そのせいでヴィヴィオが凄く甘やかされているのは問題だ。フェイトちゃんも甘やかしているし、はやてちゃんはまだしもヴィータちゃんがヴィヴィオに甘い気がする。
私とはやてちゃんがその分厳しくとはいかないまでも注意している。そのせいで若干ヴィヴィオの懐き具合が低いというか、私達よりも典矢君やフェイトちゃんの方に行っている気がする。
「はぁ……」
思わずため息も出てしまうほどだ。必要な事と分かっていても娘が懐いてくれないのはちょっとくるものが有る……
まあ、何故かハコちゃんがフォロー入れてくれたりもするんだけど……
「どうしたんですか?なのはさん」
「ん……スバル?」
っと、またため息が出ちゃったか。教導の休憩時間とはいえ部下の前ですることではないだろう。いらない心配をかけるのはよくない。
「何だかなのはさん、動きの調子はいいのに心ここに非ずって感じで……」
「…まあ、ちょっとね」
あちゃあ、教導でも影響出ちゃってたか……失敗失敗。まあ、動きの調子がいいのは良い事だから問題ないとして流石に注意散漫での訓練は危険だから気をつけないと……
それにしても典矢君も典矢君だ。ヴィヴィオの母親になるってなってからお礼としてなんと私の身体を治してくれた。
無茶な戦い方をしていたため大分負荷が溜まっていた身体の歪み?を治してくれただけでなく、ある程度の無茶が出来るようにしてくれたらしい。
確かにそう言われた瞬間いきなり体の調子が良くなって驚いたけど。本当に何者なのかが悩まされる。シャマルさんも私の身体が治っていた事に驚いてたし、今のミッドチルダでは考えられない治療というか治癒速度のようだ。
本人は時間を止めてその間にちょちょいとやったと言っていたが、規格外過ぎると思うんだ。
因みにプレシアさんは高級そうなワインを貰っていて、フェイトちゃんはバルディッシュを調整してもらっていた。ヴィータちゃんとはやてちゃんはお礼を保留にしていたけど……
それにしてもデバイスまで弄れるのは凄いと思う。しかもフェイトちゃんの話では流した魔力よりも魔法になる規模が大きくなっていたり、処理速度が上がっていたりしているらしい。リミッターがかかっているけど今では魔力消費の激しい筈の魔法も使えるそうだ。正直あり得ないよ。
「悩みでも有るんですか?」
「うーん……まあ、そうかもね。ごめんね、教導の時にボーっとしないように気をつけるから」
でも、やっぱり悩みは尽きないなぁ。ヴィヴィオが聖王教会に狙われているのは正直疑っていたのだけど、はやてちゃんが調べてくれた限り、確かにそう言った動きも見られるとのこと。カリムさん達は特にそうでもないのだけど、一部の人が何かを探しているらしい。
このままあの店にいれば安全なのかな。いつかはバレちゃいそうだけど、典矢君がいてヴィヴィオを連れて行かれる光景を思い浮かべることが出来ないや。
何と言ってもプレシアさんのお墨付きなのだ。話しによれば単騎で闇の書の闇に普通に対抗できるらしいし……
「大丈夫ですよ!それよりも、良ければ聞きますよ!」
「あはは、ありがとうね」
聞くといっても流石に言えないことが多いんだよね。スバルはいい子だし真摯に聞いてくれるだろうけど、流石になぁ……
「なんだなのは。まだ悩んでんのか」
「ヴィータちゃん」
ヴィータちゃんも少しは悩んでいることの原因なんだよ?私よりもヴィヴィオに懐かれちゃって……母親として寂しいんだからね。
それに元はといえばヴィヴィオの母親になったのもヴィータちゃんとプレシアさんのせいだし……まあ、今となっては私の意思でやっているんだけどさ。
「ヴィータさん、なのはさんの悩みを知っているんですか?」
「ああ、こいつ子育てに悩んでんだよ」
「へー……え!?」
「ヴィータちゃん!?」
いきなり何バラしちゃってるの!?馬鹿なの!?どこかに頭でもぶつけちゃったの!?
「何だよなのは。失礼なこと考えてねえか?」
「当たり前だよ!なんで言っちゃうの!?」
「いやぁ、だってな」
最近のヴィータちゃん頭おかしいんじゃないかな!?たまにヴィヴィオの写真見てほっこりした笑顔でいるし!気持ちはわかるけど!
「はわわ、なのはさんって子供がいたんだ。あれ?でもフェイトさんと結婚してるはずなのに、子供……キャロとエリオ?」
「ほら!スバルだって混乱しちゃってるじゃん!」
「いいんだろ。それに遅かれ早かれバレるぞ」
「へ?」
「だって、はやてが色んな奴に言ってるし」
「はやてちゃん!?」
何でそんな事してるの!?はやてちゃんは常識的にヴィヴィオの教育をしっかりしてると思って油断していたんだけど!
いや、落ち着くのよなのは。多分はやてちゃんにも深い考えが有る筈……
「一昨日にヴァイスのやつとの賭けに負けた罰ゲームで話してたな」
「それって限定的な事じゃない?」
「いや、そっから吹っ切れたみたいでなのはがため息を吐いてるのを聞かれるたびに言ってるぞ」
「私のせいだった!!」
いや、それでも正直に言うのは問題だと思う。仮にもヴィヴィオは狙われてるかもしんないんだよ?
「今なのはが懸念していることはあんま心配しなくていいぞ」
「へ?」
「お前の娘に関する詳細はお前達が話さない限り広まらないさ」
「はやてちゃんは言ってるんじゃ」
「はやてとお前が子育てが大変だってくらいしか言ってねえよ」
ちょっと安心したかも。でも、あまりそんな風に目立っちゃったらヴィヴィオのこと嗅ぎつけられてもおかしくないんじゃ……
「んー、論より証拠の方がわかりやすいか。スバル、コレ見てみろ」
「うぇ!?えっと、何ですか?」
「ほれ、この端末には何が写ってる?」
「んー……何も写ってないですけど……」
「んじゃあなのはも一緒に見てみてくれ」
……一体どういうつもりなのだろうか。確かにヴィータちゃんの持ってる端末には何も写っていないけど……
「それじゃあ1回スバル目を閉じてみろ」
「はぁ……わかりました」
え?ヴィヴィオの顔になった……と思ったらまた何もない画面に……
「スバル、お前目を薄く開けてるだろ」
「あはは、ごめんなさい」
「まあいい。もう少しで教導も再開するし、ティアナと打ち合わせでもしとけ」
「はい!」
あ、また写った。
「これでわかったろ?」
「もしかして、私達以外の誰かが見ていたら見えないようになってる?」
「ああ。はやてもヴァイスに見せようとして見せれてなかったぞ」
「一体、どういう……」
普通じゃそんな事は考えられないよ。本人以外が見るときに見えないというのならまだしも何も操作していないのに私達を認識して見せてないなんて……
こんなことが出来るのは、典矢君かな。
「今、なのはは典矢のやつがコレやったって思ってるだろ?」
「違うの?」
「まあ……これはあの店が流行ってない理由でも有るんだけどよ」
え?何でいきなりそんな話になっているの?ヴィヴィオの顔が端末で見えないのとあの店のお客さんの数に関係なんてあるとは思えないのだけど……
「これはハコの仕業だ」
「へ?箱って、あの四角くて物を運ぶときに便利なあの……」
「ちげえよ。矢澤ハコの方だ」
「ハコちゃん?」
確かにあの子は私のフォローしてくれたりもするし、出前にバイクで行ったり、レジとかも打ててるけど、端末に何をしているっていうの?
「コレ見てみろよ」
「えっと、飲食店の口コミ?」
「ネットがあるミッドだ。美味かったり安かったり特徴のある店ならこんな口コミが少なくとも一つくらい出来る、なのにあの店のは一つも見つからない。どういうことかわかるか?」
「うーん……皆人に教えたくないとか?」
「違うぞ。そうだな、例えばこう書くとするだろ?」
ヴィータちゃんが端末で天使始めましたという店が驚きの安さで物凄く美味いと書いた文章を見せてくる。
「これを投稿してみてもな、投稿されねえんだよ」
「えっと……」
「典矢に聞いてみたら、ハコがいつでもネットとかを監視して情報を規制してるって話だ。あたし達の端末もヴィヴィオに繋がる情報は他のやつには完全にシャットアウトしてるぞ」
「ハコちゃんが?」
「ああ」
「あの丸くてテカテカしてていつも笑ってるハコちゃんが?」
「そうだ」
あり得ないの。
規格外なのは典矢君だけじゃなくてハコちゃんもだったとは思わなかった。
確かに、ヴィヴィオを乗せて浮き上がってたり、ロボットのはずなのに寝てたりご飯食べてたりしてて、少しだけ変な所はあるけど……それでもまだまともだと思ってたのに……
「因みに、ハコは瞬間移動とかもできるそうだ」
……頭が痛くなってきた。私の悩みを増やして何がしたいの。ヴィータちゃん……