「じゃあ、作戦を説明するで」
急いで機動六課隊舎に帰還した私はなのはちゃん達を前に送られてきた資料に目を通しながら今回の作戦。ジェイル・スカリエッティの捕縛についての説明をする。
正直おかしい点も多い資料ではあるが、上層部からの命令をそのまま無視することは流石にできない。管轄外だということは簡単だけどその後に色々と文句を言われて解散なんてことになってしまったら目も当てられへん。
まあ、1年で解散は決まっているけど、それでも問題を起こすのはまずい。
「今回はスターズ部隊とライトニング部隊は合同で行ってもらいます。私達ロングアーチはそのサポートって言った感じかな」
「ジェイル・スカリエッティ……戦力を固めないと危険だっていう判断だね」
「まあ、それもあるけど。他の地上部隊も総動員っていう異例の事態やから下手に分けるよりも固めたほうがいいってことや」
でもおかしい話やわ。なんで今さら本拠地を見つけたっていう情報が入るんよ。まあ、ある程度のエリアに絞れたってだけでアジトが判別したわけではない。それなら偵察部隊が探して戦力を固めた部隊で一気に攻め落としたほうがええと思うねんけどなぁ……
「まあ、もう他の部隊も向かってるやろしフォワードの皆はヘリで現場に向かって。私達も後から追いかけるから」
「「「了解!!」」」
まあ、今回の注意事項は、必要以上に意気込んでいるフェイトちゃんの手綱を握ることかな……
フェイトちゃんにとってスカリエッティは因縁の相手と言っても過言ではないやろし……
……でもなぁ…正直いやぁな予感がするんよなぁ。
予言にある地上の法と青い機械が対峙するって……今が丁度いいタイミングなんよな……でも別にあの店にちょっかいを出したわけもないやろし、もしかしたらスカリエッティが青い機械を作り出したのかも知れやんな。それやったら予言に関しても気が楽になるねんけど……
「はやてちゃん、準備ができましたよ」
「ん。わかったでリイン。今回はいつもより気を引き締めといたほうがええかもしれやんからそのつもりでな」
「了解です!!」
さて……どうなることやら……
◇
「こんな所にスカリエッティのアジトがあるのかね」
「私達の担当部分が荒野部スタートってだけで森林部の可能性も高いらしいですよ」
機動六課のフォワード陣を乗せたヘリはミッドチルダの郊外にある荒野を飛行していた。降下ポイントまではもう少しあるが、他にも幾つものヘリが確認できた。
「こんな大規模な作戦は聞いたこともないな。腕がなるぜ」
ヘリの操縦士であるヴァイスも森林部や荒野部で降下を始める他のヘリを見てその気持ちを高ぶらせていた。
相手は次元犯罪者であるスカリエッティ。ヴァイスにとってそれほど思い入れのない相手ではあるが興味が無い相手ではない。上司である八神はやての【違法研究者でなければ間違いなく歴史に残る天才である】という言葉には興味を持ったものだ。
ヘリや車などのメカニックにも興味がある彼だからこそ少しだけ気になったことではあったが……それ以上に今乗せているある女性のことが気になっていた。
「あのさ、もう少し落ち着いたほうがいいぜ?分隊長さんよ」
「わ、解ってるよ。でもやっと見つけた手掛かりなんだ。絶対にあって話をしたいんだ」
未だに落ち着く様子もないフェイト・テスタロッサに苦笑しつつもヘリの速度を上げる。
「ん……なんだ?」
だが、そうもいかなかった。ヘリの高度が何かに引っ張られるように落ちていく。
高度を上げようとしても下がる一方である。エンジントラブルが起こっているわけではない。機動六課のメカニックに不備があったとしても何かしらの形で解るはずなのに、機体は正常のままである。
「ロングアーチ!こちらフォワード部隊ヘリ!現在原因不明の機体トラブル。いや、何かが起こっている。何かに引っ張られてるみたいだ!」
『なんやって!?どうにもならへん?』
「全開で高度をあげようとしても下がる一方だ!取り敢えず不時着できるように制御してみる!」
『任せた!こっちもすぐに向かう!』
ヴァイスは舌打ちをしながら機体を安定化させ、プロペラで下降に逆らいながら背後のフォワード部隊へと声を上げた。
「トラブルが発生した!今から不時着するからしっかり捕まっていろ!!」
◇
「くっ、動きそうもねえな」
多少衝撃はあったがヴァイスは見事にヘリを荒野の一角に着陸させることが出来た。何がヘリを引っ張ったのかも検討もついていない。更にはヘリをもう一度起動しようにも上がる気配はなかった。
「仕方ねえ。悪いがロングアーチが来るまでここで待機を……」
「……いや、私達は降りて向かうよ。幸いにもあと少しで降下ポイントにもつくんでしょ?」
「まあ、そうだが……無茶はするなよ?」
「うん。あとロングアーチへの連絡もお願いするね」
その言葉はフェイト・テスタロッサの独断ではなかった。フォワード部隊は既に降りる準備を始めており、その様子にヴァイスはため息を吐きながらハッチを開けた。
「……誰かいる」
そう呟いたのはヘリから降り、バリアジャケットを身に纏った高町なのはだった。荒野の砂が舞う先に何かがいる。
焦げ茶色の服にフードを被り、槍を持った人影が一人居た。
「……すまないな。ここから先に進ませる訳にはいかない」
微かだが、そう声が聞こえた。それになのは達はデバイスを構える。
目の前の人間……いや、槍型のデバイスを持った男はフォワード部隊を一瞥した後、槍を持つ手に力を入れその矛先をなのはたちへと向けた。
「貴様達が一番魔力を強く感じたのでな。悪いとは思うが足止めさせてもらう」
「貴方はジェイル・スカリエッティの仲間ですか?」
「ふん……違うな。あいつと私はその様な関係ではない」
男から感じる威圧感は只者ではないということを物語っている。その眼光は戦う者の眼をしており、未だに実戦経験の少ないフォワードの新人達はその男の雰囲気に飲まれ始めていた。
それになのは達は気づきつつも、彼女達に構っている余裕は無かった。油断すれば負けてしまう。それが解っているからこそ、視線を外すことは出来なかった……
「……どうした?来ないのか?私は足止めが最優先事項だからこのままでも構わないが?」
「……私は管理局地上部隊機動六課所属、スターズ部隊分隊長高町なのは。任務の妨害をするのであれば貴方を捕縛します」
「……そうだ。私は君達の敵だ。障害は排除してみせろ」
男は少しだけニヤリと笑うとデバイスを構えた。
ジリジリとその矛先を揺らしながら攻撃のタイミングを見定める。なのは達もまた男の動きを注視し、動き出しのタイミングを図る。
聞こえるのは荒野を吹き荒ぶ風の音だけ……
息すら止め、男は瞬きもせず攻撃の時を待っている……
しかし、男は視線を空へと移した。
それを好機と見たのかフェイトは一足で男に近付きバルディッシュの魔力刃で男を斬りつける。
しかし、障壁に阻まれた。
「クッ!!」
フェイトは直ぐ様なのは達の元へと戻り、再度前方へと視線を戻し、驚愕した。
空から一人の少女が降ってきた……