空から降りてきた少女はその金色の髪をはためかせ、左右で色の違う大きな目をなのは達へと向けた後、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「なのはママ!フェイトママ!」
「「ヴィヴィオ!?」」
何故目の前にヴィヴィオが現れたのかはわからない。いや、寧ろ何故上空から落ちてきたのかさえも……
「え?ママってまさか……」
「あの子が噂の……」
突然現れた少女の言葉に自分達の隊長の言葉に部下たちは驚愕する……
唯一人、荒野に立つ男だけは険しい顔で隣に立った少女へと眼を配ることもなくなのは達へとデバイスを向けていた。
「どうしてここにいるの!?」
「えっとね、ママ達、ごめんなさい!!」
ペコリといった風に腰を曲げヴィヴィオは謝った。その意味が指すことはなのは達に理解できない。
今現在この場において理解できるのはヴィヴィオ本人のみ。彼女が何故この場に現れたのかも全てはある一つの目的に集約される。
「スカさんはヴィヴィオの友達なの!だからヴィヴィオは悩んで悩んで、友達の少ないスカさんを味方することに決めたんだよ!!」
某バイクに乗るヒーローのポーズを取るヴィヴィオはそう告げるとデバイスを構えた男へと手を向けた。
「はいゼストさん!ハコちゃんからのプレゼント!!」
「……これは……アームドデバイスか?」
手渡された小さな金属体。それに触れた男……ゼスト・グランガイツは槍を右手に持ち、デバイスを起動させる。
ずっしりとした感触。円筒形の遠距離系デバイス。ハコという規格外が設計したそれはゼストの手に驚くほど馴染んだ。
「……デバイス、バーンバズーカ……」
その名と使い方は何故かゼストは理解できた。見た目ほどに重くはない。しっかりと照準を合わせるためには肩に乗せなければならないが、片手でも問題なく扱える。
偶にスカリエッティの研究所にやってくる球型の機械に感謝しつつゼストはなのは達へと視線を戻す。
何が起こっているのかがわからないといった様子。
その原因とも言える子供は嬉しそうに頷いた後、ゼストの周りに貼っていた障壁を解除した。
そう、フェイト・テスタロッサの攻撃を防いだのはヴィヴィオであったのだ。
「スカさんって……ジェレミア・スカーレットって人なんじゃ……」
「ふへ?スカさんはスカさんだよ」
「……まさか、典矢が騙していたのか?一体何のために……」
疑惑の念がヴィータやなのは達へと襲いかかる。だが、ヴィヴィオはそれを待ってくれなかった。
「なのはママ達を少しでも足止めするよ。二人共お願い!!」
ヴィヴィオの言葉と共に、信じられない光景が広がった。
巨大な、結界が出現し、フォワード陣やヴィヴィオ達を閉じ込めた。
「じゃあ、ゼストさん!一緒になのはママ達の足止めをしてくれる?」
「無論……私はそのためにここにいるからな」
初めてゼストが笑った気がした。
彼はここに来るまでにルーテシアという少女を逃がした。場所は解っていない。少なくともここよりはマシな場所。護衛にユニゾンデバイスであるアギトも付いている……
ならば、何故ここに彼が残っているのか。
ジェイル・スカリエッティの娘でも有り部下であるナンバーズに殺され、そのスカリエッティ自ら生き返らされた彼が何故スカリエッティの為に足止めしようとしているのか……
その真意は驚くほど単純なものであった。
只々、無知な友人の為に体を張るまでのこと。哀れな友人が精一杯反抗しているのを助けるため……
最初は意味が解らなかった。スカリエッティは彼を生き返らせた事を最高評議会には告げなかった。ただ、失敗したと報告した。
それによりスカリエッティには一つ無能という烙印が押された。
レリックの情報を最高評議会から聞き、いくつか回収に失敗したと言いながら破壊している。
それによりスカリエッティは失敗作と呼ばれた。
そんな彼を理解できなかった。無能と呼ばれようと失敗作と蔑まれようと彼は笑っていた。
だからこそ、問うた。貴様は何がしたいのかと……
――人間になってみたいのさ。
その言葉は何故出たのかは解らなかった。
だが、それを告げたスカリエッティは只悲しげな眼をしていた……
――いつか、彼女のように娘達へ慈愛を込めた笑みを浮かべることが出来るようになりたいのさ。
勿論ゼストは彼女という人物についても問うた。
スカリエッティと同じような性格をし、同じ犯罪に手を汚しながら、彼女は死の間際に愛情を取り戻し、笑っているのだと……
――その笑顔が、新たな研究成果を得られた時よりも幸せそうに見えただけなんだよ。
なんてことはない小さな夢。犯罪に手を汚したのは紛れもない事実ではあった。だが、それでも目の前の男を切り捨てるような事はゼストには出来なかった。
友を得て嬉しそうに笑い。美味しいご飯を得て笑顔になる。
無邪気とも言えるような男を最高評議会などという連中の捨て駒にされるのを唯見過ごせなかっただけであった。
「私は、ゼスト。ゼスト・グランガイツ。愚かな男の友人だ」
その言葉の意味をヴィヴィオは理解できない。何度かスカリエッティの研究所内で会った彼女にとって目の前の男はスカリエッティの仲間だということしか解らない。
でも、それでもこれだけは感じた。
「ヴィヴィオはゲームが下手なスカさんの友達だよ!!」
この男もまた、スカリエッティの事が大好きなのだと。
「二人共!ヴィヴィオにスカさんを守る力を貸して!」
彼女の両手に嵌った腕輪が光を放った……
◇
「一体どうなってるんやシャーリー!ヴァイスとの通信が切れたで!!」
「わかりません!周囲の部隊のサーチャーから情報を得ていますが……なんとも」
「……まさか、なのはちゃん達が隔離された?」
「……管理局でも屈指の実力を誇る機動六課のフォワード部隊をいとも容易く閉じ込めるなど考えられません」
「……兆候はヘリの操縦が効かなくなった事くらいか……一体どうやって……」
「っ!!はやて部隊長!モニター3を見てください!」
「何や?一体……」
「陸士386部隊が交戦中!」
「……あれは……」
「音声拾います!!」
『……やるんなら本気でやろうか!そのほうが楽しいだろ!?ハハハハハッ!!』
「青い……機械……」