その大剣は一目見て危険なものだと感じ取ることが出来た。魔力は感じない。デバイスというわけでもない。だが、その威圧感は凄まじい物を秘めている。
更に、その取り出した場所が問題だ。何もなかった空間に突如と開いた穴。只々ぽっかりと空間に浮かび上がった黒色。
言い知れぬ緊張感を持ちながらもなのは達はデバイスを握る手に力を込める。
だが、それは悪手であった。これより始まるのは一方的な戦い。彼女達はヴィヴィオが動き出す前に戦いを決めなければならなかった。
『ワームホール射撃、始動』
気づいた時にはもう遅い。
右手にグランワームソード、左手には機関銃。一刀一銃のヴィヴィオはニィっと笑った後、魔力弾をただ撃ち放つ……
黒い穴に向けて。
「――ッ!!避けて!!」
何かを感じたなのはは直ぐ様スバル達へと指示を飛ばす。
そして、信じられない光景を目の当たりにする……空間に幾つもの黒い穴が浮かび上がっていた。
「うわ!!!」
その穴から出てくるのは先程ヴィヴィオが放った魔力弾。一発一発の威力は大きくはないものの、直撃すればそれなりのダメージを負うことになる。
先程までは直線的だから容易に避けることは出来た。今も直線的ではあるが、その出処は全く予想の出来ない。
「クッ!!」
「うぉ!?」
「………」
それはヴィータ達の所にも出現する。ゼストと熾烈を極めた戦いを繰り広げていた3人に向かって殺到する魔力弾は、ゼストの懐へと潜る事を困難にしている。
そして、その光景を見定めるゼストは、己の立つ場所には魔力弾が掠りもしていないことにいち早く気づくと、バーンバズーカを構えて砲撃を繰り出し始めた。
「穴から出てくるっていうのなら!!!」
ティアナは魔力弾をかわしつつも、穴に向かってシュートバレットを放つ。穴に吸い込まれるそれに、ヴィヴィオの元に出現するであろう砲撃を見定めるために視線を動かす……
「うそ!?」
目の前に己のはなった魔力弾が出現し、間一髪の所で躱す。
いや、そうではない。ティアナから外れた魔力弾は別の穴を通り違う穴から出現する。
よく見れば他の魔力弾もそうだった。
穴を通るたびに威力は減衰するが、それでもヴィヴィオが魔力弾を打ち続けている限り、その弾幕の密度は無制限に増えていく。
躱すたびに少しずつ被弾する。
速度に関して言えばそれほどでもないが、こうまで多く、不規則に四方八方から出現する弾幕はとてもではないが信じられるものではなかった。
「なら、出どころを止める!!」
スバルは数々の穴から出現する魔力弾を回避することを諦め、ヴィヴィオへと突貫する。
腹部、胸部、脚部、至る所に被弾するが、それを物ともせずに突き進み、右拳を握り、振りかぶる。
『ラムダ・ドライバ起動』
だが、ヴィヴィオから凄まじい斥力が発生し、吹き飛ばされてしまう。
これでは近寄れない。地面の砂の動きから見て、後方にも斥力は働いている……いや、近づけないだけではない。ヴィヴィオが放つ魔力弾に対しても斥力は働きその威力を増大させている。
このままではいとも簡単にやられてしまう。だが現状打つ手など存在しない。ヴィヴィオのガス欠を待つという選択肢は思い浮かぶが、いつエネルギー切れになるかは解らない。そんな不確定な事を頼れるはずはない……
「落ち着いて!バリアジャケットに魔力を多く回して被弾した時の防御力をあげつつ回避に専念して!絶対に反撃のチャンスは来るから!!」
空中を飛び回りながら魔力弾を躱し続けるなのははティアナやキャロ達へと指示を飛ばす。
それにコクリと頷き、魔力を集中させてただ、回避と防御に専念する。
それも悪手であった。いや、現状それ以外に方法がないといえばそうだったのだが、ヴィヴィオの、いや、ヴィヴィオのパートナーのアルの狙いはそれであった。
ヴィヴィオは突如、機関銃を撃つのを止め、穴に飛び込んだ。
弾幕に押されているなのは達はその事に気付かない。
ただ、どこから魔力弾が来るのかを予想して、動いている……
キャロの背後にヴィヴィオが出現した。
気づいたのは近くにいたエリオだけ。ソニックムーブでキャロとヴィヴィオの間に滑り込んだエリオはヴィヴィオが振り下ろしてくるグランワームソードを自身のデバイス、ストラーダの刃で受け止める……
「グッ!!!」
凄まじい衝撃が両腕にかかる。そして、その衝撃は長く続くことはなく、ストラーダは接触している部分からヒビが入り、呆気無く壊れてしまった。
「まずは一人目だよ!!」
ヴィヴィオは直ぐ様その姿を消し、今度はスバルの正面に現れる。咄嗟に事に拳を突き出すスバルのリボルバーナックルへとグランワームソードを打ち付け、破壊した。
「もういっかい!!」
デバイスを壊され一瞬茫然となったスバルの腹部を蹴り上げ、ヴィヴィオはスバルの足に装着されているマックスキャリバーすらもグランワームソードで破壊する。
「スバル!!」
ティアナは直ぐ様クロスファイヤーシュートでヴィヴィオへと攻撃するが、目の前に穴が現れ、呆気無く魔法は吸い込まれ……
「キャア!」
背後に出現した穴から飛び出た自身の魔法に直撃する。
一瞬怯み、ヴィヴィオから視界を外してしまえば、もう遅い。目の前に出現するヴィヴィオの一撃を咄嗟にクロスミラージュで受け止めるも、その衝撃で破壊されてしまった。
◇
「クッ!」
魔力弾を躱しつつゼストの砲撃を交わしている3人は新人達が次々ヴィヴィオに落とされていっているのに焦っていた。
これだけの密度の弾幕の中でフェイトは切り札の一つとも言えるソニックフォームになることも出来ない。スピードと引き換えに防御を無くしてしまうのは現段階において悪手と言えた。
「……さて、ではやらせてもらうか」
魔力弾の弾幕に苦戦している3人にバーンバズーカを向け、タイミングを図る。
このバーンバズーカが放つことの出来る魔力弾は3種類。一つは通常の魔力に炎をのせた弾。もう一つは可燃性の魔力を辺りにばらまく弾。そして……
「……尾獣玉」
唯一名前を持つその弾は、バーンバズーカ内に蓄積される2種類の魔力を2:8の割合で混ぜた赤黒い弾。矢澤ハコがゼストが持つデバイスだからこそ放てるようにしたそれをゼストは3人が固まる瞬間を見定め、発射した……
「クッ!下がれ!ヴィータ!テスタロッサ!!」
いち早く察知したシグナムは2人の前に飛び出ながらもレヴァンティンのカートリッジをロードし、炎をまとった一撃を発射された尾獣玉に叩き込む。
「な!?」
しかし、尾獣玉はシグナムの攻撃に触れ、その大きさを爆発的に増し、シグナムを飲み込んだ。
「「シグナム!!」」
「仕留めきれなかったか……」
熱を放つバーンバズーカを抱えながらゼストは舌打ちする。
凄まじい威力を放つ攻撃ではあるが、どうやら放つには少なからずインターバルが必要となっているようだ。
ヴィヴィオが放っていた弾幕も薄れ始めている中フェイトは堕ちていくシグナムを受け止め、地面へと寝かせた。外傷は見れないがバリアジャケットはぼろぼろになり意識を失っていた。
「……やはり、最後はこれか」
ゼストは己の持つ槍を握りしめ、険しい目で見てくるフェイトと対峙する……
◇
ティアナのデバイスを壊したヴィヴィオは直ぐ様残ったキャロのグローブ型のデバイス、ケリュケイオンを破壊し、なのはと対峙した。
フリードリヒがキャロ達を守るように立ちはだかっているのを横目で確認しつつ、邪魔者は消えたとばかりにヴィヴィオはグランワームソードを構える。
先ほどの無理な戦闘でエネルギーは随分と消費した。それでもなのはを倒すつもりであるヴィヴィオは佇むなのはに向かい、加速する。
なのはのアクセルシューターがヴィヴィオを襲うが、ワームホールに潜ったヴィヴィオはなのはの背後に回りこみ剣を振り下ろす。
しかし、寸での所で躱されてしまう。
直ぐ様切り上げようとするも、背後からアクセルシューターが接近している事をチェインバーに告げられ、ワームホールを背後と目の前に出現させ、アクセルシューターをなのはへと誘導する。
「………」
それでも、なのはは余裕を持って躱す。そこをヴィヴィオは剣を薙いで攻撃をする。
レイジングハートで受け止めようとしているのを視認し、ヴィヴィオはグランワームソードの先端部分だけワームホールに通過させなのはの背後から出現させる。
一瞬遅れた攻撃はなのはの背中に……
「させねえ!!!」
当たらなかった。
グランワームソードに何かが当たり、その軌道を逸らされた。見れば落ちていく鉄球がある。
それを放った人物、ヴィータはヴィヴィオの背後からグラーフアイゼンを振り下ろす。
しかし、ワームホールに逃げられ、その一撃は空を切った。
「チッ!強すぎるだろ!」
「反則的とも言えるね……でも……」
なのははチラリと現れたヴィヴィオに視線を向ける。肩で息をし、グランワームソードを持つ手をだらりと下げているヴィヴィオの姿がある。
ここまで集中して戦うのは子供のヴィヴィオには酷なもので、既に気力がなくなってきていた。
それだけではない。少なくなってきたエネルギーはもう警告域にまで入っており、これ以上戦うのは危険だというアラームが鳴っていた……
「もう、限界かな」
「ま、まだ戦えるもん!」
精一杯のつよがり。それは誰の目にも見て明らかだった。
そう、強がりではある……
だが、それは嘘ではない。
『パイロット、最終通告』
「……ヴィヴィオは逃げないよ」
『否定。これより、機体の性能を向上させる』
「……そんなことが出来るの?」
『肯定。制限時間は3分。それ以上は不可能』
「……ありがとう。二人共あと少しだけ付き合って」
『『了解』』
エネルギーは既に限界を迎えている。これ以上戦うのは危険……
だが、まだ切り札はある。矢澤ハコが積んだ二つの動力の一つ、太陽炉のブラックボックスをチェインバーは開く。
「流石にやり過ぎたね。ヴィヴィオ」
ヴィヴィオへと砲撃を放とうとしているなのはを視認し、ヴィヴィオは一度息を吐いた後、精一杯の力を振り絞って笑みを浮かべる。
「まだ、終わりじゃ無いよ」
『トランザムシステム。起動!』
蒼い機体が赤い輝きを放つ。膨大なGN粒子を撒き散らし、ヴィヴィオは凄まじい速度でなのはへと肉薄する。
しかし、ヴィヴィオが到達するよりも一瞬早く、なのははその一撃を撃ち放つ。
「スターライト……ブレイカァァァァァァ!!!!」
周囲の魔力を集束して放ったそれは、先程までヴィヴィオが魔力弾を撒き散らしていたことも災いし、まさしく星をも砕く一撃と化し、ヴィヴィオを飲み込む……
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ヴィヴィオはグランワームソードを前に突き出し、その砲撃を突き進む。
凄まじい負荷がかかる中、機体の性能の上昇に伴い、再度、ラムダドライバを発動させている。
斥力を放ちながら砲撃をかき分け、ヴィヴィオは進む。
「クッ……!!!」
少しずつ、少しずつその距離を詰めていく。
それに焦り始めるなのはは更に魔力を高める。残り5m程度となれば更にヴィヴィオへとかかる負荷は大きくなっている筈だ……
そして、瞬間的になのはは砲撃の手応えを失った。
同時に真横にワームホールが出現する。
一瞬のタイムラグ。ヴィヴィオがワープするたびにほんの少しだけラグが発生する……だから解る。
またヴィヴィオがワープしてくる……それを感じ取ったヴィータはグラーフアイゼンを振りかぶり、現れたヴィヴィオを捉え、振りぬいた。
「な!?」
信じられないことが起こった。ヴィータの一撃はヴィヴィオへと直撃し、地面へと叩き落とす事になるはずだった……
しかし、まるで、空気を切ったかのような手応えのなさ。ヴィヴィオは赤い粒子を残し消えてしまう。
「トランザム、ライザァァァァ!!!」
逆側から現れたヴィヴィオはその一撃を高町なのはへと振り下ろす。
スターライトブレイカーを放った反動で動けないなのはにそれを避けるすべもなく……
高町なのはへと斬撃は到達した。
「なのは!!」
堕ちていくなのはをヴィータは追いかけ、受け止める。
意識はない。だが、血も出ていないことからヴィヴィオの武器も非殺傷のデバイスと同じ原理の物を施されていたことに安堵した。
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「はぁ……はぁ…….」
凄いしんどい。もう寝ちゃいたいくらいに……浮いているけど、ただ息をするだけで大変。
でも、まだ止まれない。まだフェイトママもヴィータお姉ちゃんも残ってる。
今ヴィヴィオが気を失っちゃったらスカさんの所に行っちゃう……
止めないと、止めない……と
「もう、十分だ」
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意識を手放し、ヴィヴィオが纏っていた鎧も消え、落ちそうになる所をゼストは抱える。
この幼い少女が管理局でも有数な実力者達を相手取り、よもやエースオブエースとも呼ばれる者を堕としたのはゼストは心底驚いた。
確かにエース級の実力を持った者はまだ2人いるが、それでも4人いたうちの2人を堕とし、それ以外の者を無力化させた。
偏に矢澤ハコや上月典矢が開発した兵器が凄まじいと言えるが、結局ヴィヴィオの覚悟がここまでの戦果を上げたと言っても過言ではない。
「クッ!!」
デバイスを構えこちらを睨むフェイトを一瞥した後、ゼストはポケットからスカリエッティに渡された転移装置を発動させた。
既に役目は終えた。今は眠るヴィヴィオを安全な場所……否、安心できる場所に連れて行くのみ……
ヴィヴィオが気絶したことによって辺りを覆っていた結界が解除されていることを視認しつつ、ゼストとヴィヴィオは転移した。
ゼストさん
バーンバズーカ
車のフロントガラスについてそうな人
尾獣玉
八本の尻尾持った尾獣さん
全部中の人ネタですね。