天使の飲食店   作:茶ゴス

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第32話

 身体が汚れようと関係なしになんとか逃れようと地面を転がる。動くための力も殆ど無くなった。敵は直ぐ近くにいる。

 逃げなければ、逃げなければ。逃げて、無事にあの子に会わなければ……

 

 速く、速く。敵に見つかる前に遠くへ……

 

 

 

 

 

 ガシリと頭が掴まれた。そんな、見つからないと思ったのに、煙に紛れることが出来たのに……

 

 

 

「どこに行く気かな。ハコ?」

 

『デ、デターーーー!!』

 

 

 

 呆気無く、フェイト・テスタロッサに捕まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==============================

 

 

「それで、色々と聞かせてもらうよ」

 

『モクヒケンヲシュチョウスル!』

 

「却下」

 

 

 両断され、破壊された青い機械からひょっこりと現れたのは矢澤ハコだった。煙が立ち込めている間に転がりながら逃走を図ったハコをフェイトは見逃す筈はなかった。

 捕らえられ、バインドで縛られたハコはジタバタと暴れながらフェイトへと反抗の意思を示している。

 

 何故か少しだけ頭が痛くなってきたフェイトはハコを掴み上げると顔の近くまで持って行き、ニッコリと笑った。

 

 

「もし、話さないのなら、ハコの部屋にあるお菓子没収するね」

 

『オニ!アクマ!ナノハ!』

 

 

 恐ろしいまでの残酷な発言にハコは思わず叫んでしまう。

 しかし、その瞳は機械のはずなのに涙が浮かんでおり、目の前のフェイトに恐怖しているのは誰の眼から見ても明らかであった。

 

 

「なんで、なのはの名前が出たのかは解らないけど、話してくれるよね?」

 

『ウゥ………ワカッタ』

 

 

 フェイトはハコを開放し、取り敢えず聞き出すことを整理する。

 順序立てて聞く必要がある。速くスカリエッティの確保にも動きたいためあまり時間をかける訳にはいかない。

 

 

「いつもヴィヴィオが言っていたスカさんっていうのはジェイル・スカリエッティの事で間違いない?」

 

『ウン』

 

「ハコとヴィヴィオはスカリエッティの友達だったんだ」

 

『ウン』

 

「でもスカリエッティは悪い人なんだよ?」

 

『……シッテル。デモ、モットワルイヒト、イル』

 

「……知ってて助けたんだ。それ程大切なのかな」

 

『……スコシチガウ。ボクガキョウリョクシタノ、ヴィヴィオノタメ』

 

「ヴィヴィオの為?」

 

 

 いまいち要領を得ないフェイトだが、管理局がスカリエッティを確保することはヴィヴィオにとって良くないことなのだと言っている事だけは理解した。

 だが、それでも具体的にどう良くないのかは理解できない。

 

 

『スカリエッティ、ヴィヴィオツクッタ』

 

「………そう」

 

 

 何故、ヴィヴィオと関わっているのかは理解できた。まさかとは思っていたがヴィヴィオを創りだした張本人がスカリエッティだとは……

 

 

『スカリエッティ、ネガッタ。ヴィヴィオノシアワセヲ』

 

「……え?」

 

『スカリエッティ、カンガエタ。ヴィヴィオノシアワセヲ』

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

『ダカラカクシタ。サイコウヒョウギカイカラ』

 

「え?え?」

 

『ダケド、スカリエッティ、カクシトオセナイコト、シッテタ』

 

 

 フェイトの抑止の言葉を無視し、次々ととんでもないことを言うハコに理解が追いつけなくなる。

 フェイトにとってスカリエッティとは犯罪を繰り返し、自分のことしか考えていないような悪人だと思っていた。

 

 だけど、ハコの話では……

 

 

『ダカラ、ヴィヴィオカラリヨウカチ、ナクシタ』

 

「………利用……価値?」

 

『セイオウ、オリヴィエノイサン。ユリカゴノハカイ』

 

「それって……本当なの?」

 

『……スカリエッティ、マニアワナカッタ』

 

「……」

 

「ダカラ、タヨッタ。ゴシュジンヲ」

 

 

 ハコの話を頭の中でまとめる。

 スカリエッティは自身で作ったヴィヴィオの幸せを願い、最高評議会から隠した。

 でも、いつかはバレるから、ヴィヴィオを捕える意味をなくすため、ゆりかごを破壊しようとしたが間に合わなかったと……

 

 

『……ユリカゴ、ハカイデキタ』

 

「さっきの光……」

 

『ウン』

 

 

 先ほど戦闘中に突然襲いかかってきた爆風の正体。ハコがその衝撃から守ってくれたのだが、その発生源がゆりかごの破壊からだとハコが言っている。

 信じ難い。だけど、何故かハコが嘘をついてるようには見えなかった。

 

 

『……ジカンギレ。スカリエッティ、ニゲタ』

 

「――っ!!!」

 

 

 時間をかけすぎた。ハコの目的は時間稼ぎ。まんまと引っかかったフェイトは歯切りをして、スカリエッティのいたであろうハコが守っていた方向へと飛翔しようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴシュジン。カンガエタ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ハコがボソリと呟いた言葉に、身体を止めた。

 ご主人……つまり上月典矢の事。そう、最初から典矢はスカリエッティの事を隠していた。スカリエッティと何かしらの繋がりがあることは解る。

 

 

 

 

『スカリエッティガワラエルヨウニ』

 

「……笑う?」

 

『スカリエッティ、リヨウサレナイヨウニ』

 

「……一体何を…」

 

『スベテノゲンキョウ、サイコウヒョウギカイ』

 

「……まさか」

 

 

 

 何かがカチリと嵌った。理由がわからないけれど、最高評議会はスカリエッティを利用している。それを典矢が止めようとしているのだと言う考えが頭を駆け巡る。

 だが、典矢は先ほどゆりかごを破壊した……普通に考えれば今はまだ行動していないと思える。

 それも典矢に限っては話が変わる。瞬間移動、分身。時間停止。幾らでも手段は有る……そして……

 

 

「地上部隊は……壊滅している」

 

 

 不思議に思った。スカリエッティの確保のためだけに地上部隊を全員動かす必要があるのかと……

 上層部からの指令だから従った。逆らう理由も無かったから何も思わなかったが……

 

 今現在。地上本部にいる陸戦魔導師はどれくらいいるのだ?

 周囲を見れば大勢の意識を失っている陸戦魔導師がいる。全員ではないだろうが、主力は皆この場に来ているだろう……

 

 

 

「ハコ、まさか」

 

 

 

 

 目の前にいる存在はとんでもないという事を忘れていた。見た目から騙されてしまうが、このロボットは、遠隔でどんな状況である機械にも介入することが出来るのだ。

 

 上層部からの指令の捏造や変更も不可能ではない。

 

 

 

 

 

『……ニッコニッコニー』

 

 

 

 

 フェイトは何故かふんぞり返ってドヤ顔をしているハコへと一発チョップをかました後、ハコを掴んでヘリへと戻る。ヘリならば情報を得ることは可能なのだ。

 

 もし、典矢が地上本部を襲撃でもすれば、それこそ彼は犯罪者になってしまう。それは何としても防ぐ。

 フェイトはスカリエッティに辿り着く証拠品等よりも。典矢を止める事を選んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

『……そう、だったのか』

 

『よもや、本当に存在していようとはな……』

 

『俄には信じ難いが、信じるしかあるまい』

 

『……貴様は……いや、貴方が神か』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

『え?』


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