ジェイル・スカリエッティのアジトへの強襲任務からもうすぐで1ヶ月が経ちます。あの時は正直ヴィヴィオに負けるとは思わなかった。それだけ覚悟を持って立っていたのだと思い知らされたな。まあ、目を覚ましてからフェイトちゃんとはやてちゃんの3人で店に行ったらもうヴィヴィオと典矢君は帰って来ていた。
ヴィヴィオは口の横にケーキのクリームのついた顔で私達を見て、フェイトちゃんが鷲掴みにしていたハコちゃんの存在を確認したと同時に大急ぎで残りのケーキを食べはじめた。そういう所は子供なんだけどなぁ…
まあ少し拍子抜けしていた私達にヴィヴィオはケーキを食べ終わってから謝った。結果的に私達の仕事を邪魔した事に変わりは無かったのだ。戦っている最中も気付いていただろうけど、私達に迷惑をかけるよりもスカリエッティを助けたかったのだと思う。
スカリエッティの事は店に来る前にフェイトちゃんに軽く聞き、典矢君を問い詰めて詳しく聞かせてもらった。
最高評議会がアルハザードの遺産を利用して作り出された研究者。生み出された当初はフェイトちゃんが生まれるきっかけとなったプロジェクトF等の研究に没頭したり、犯罪行為を繰り返していたらしいけど、ある出来事を境に最高評議会からの命令を無視していたらしい。そのある出来事というのは教えてくれなかったけど。まあそれで、最高評議会がスカリエッティを不要だとして討伐させようとしたんだって。
正直その話は簡単には信じられなかった。自分達の職場のトップがそんな事をしているなんて……
でも典矢君はこれまで一度も無いような真っ直ぐと視線を向けて言ってくれた。これは本当の話だって。
その時は私達はなんだか恥ずかしくなって目を逸らしちゃったけど、ヴィヴィオが嬉しそうにスカリエッティの話をしているのを見て本当にスカリエッティはいい人なのかもしれないと思えた。
まあ、次の日に機動六課に行ったらはやてちゃんからスカリエッティの捜査の禁止命令が上層部から送られてきたと教えられたんだけどね。名目は陸戦魔導師総動員で捕まえられなかった相手は危険すぎるからだとされているけど、多分典矢君が何かしたのだろう。フェイトちゃんはその報告を聞いて頭を抱えていたし……
なんでも、フェイトちゃんの話では全陸上部隊の出動は典矢君が仕組んでハコちゃんが指令を弄って起こったことらしく、その間に本部に乗り込んだと思うって言っていた。流石にその時はやりすぎだと思ったな。
とまあ、色々ドタバタしていたんだけど、やっと仕事も落ち着いて私達はちょうど8月の真ん中から終わりまで夏季休暇をもらう事が出来た。私の故郷の海鳴に帰る事にしたんだけど、典矢君達にも声をかけてみたんだ。まあ、来てくれなかったけど……
フェイトちゃんはプレシアさんと一緒に海鳴に休暇で先に向かっていたし、はやてちゃんもヴォルケンの皆と実家に帰った。お父さん達にヴィヴィオを紹介したくて、ヴィヴィオだけでもと思ったのだけど、ヴィヴィオは私と典矢君、どっちのとこに行くかを聞かれて即答で典矢君と言った。
涙が出そうになったのは仕方ないと思う。
やっぱり接している時間が短いせいもあるかもしれないけど、ヴィヴィオにもう少し懐かれたいと思う。
と言うわけで私は夏季休暇のお土産としてヴィヴィオの好きそうなおもちゃだったり、翠屋のケーキやシュークリームを持って店に向かっている。
フェイトちゃん達は荷物を機動六課の寮に置きに行ったから私だけなんだけど、少し緊張するな。
あそこに行くのは大抵誰かと一緒にだから一人で行くのは慣れていない。私もフェイトちゃんと同じように男の人との交際経験は無いのもあってか、仮とはいえ旦那さんである典矢君との距離間がわからないままでいる。
恋愛対象でと考えるのは何だか後戻りが出来そうに無いからあまり考えないようにして接しているけど、多分男の人の中では一番そう言った対象に見てしまう場所にいるだろう。
ユーノ君はなんだか違う感じがするし、他の男の人は管理局って場所の人だから男の人っていうよりも職場の人って感じてしまう。
ああ、ダメダメ。深く考えちゃいけない。私はヴィヴィオをいい子に育てる為に母親になったんだ。典矢君に恋しちゃったらヴィヴィオをどう見てしまうかわからないよ。
フェイトちゃんはもう抜け出せそうに無いけどね。たまに寮の部屋で典矢君の写真見てボーッとしてたり、何かを思い出したかのように顔を赤くしてジタバタしたり、色々とおしゃれについて調べたりしていた。プレシアさんの思惑通りになっている気がするけど、フェイトちゃんは気付いてないよね?
フェイトちゃんの場合はプレシアさんの血もあってか凄い親バカだからヴィヴィオもしっかり愛しているのは解る。でも私は自分がどうなるかはわからない。もし恋しちゃったら……ちょっと怖い。
だから私は深く考えない。ヴィヴィオの事だけを考えよう。典矢君はまだ子供だから私がしっかりしないといけないもん。だって年上だし。
そう息巻いて電車をおりて店に向かう。
少し裏になっている場所。一本道が違えば人通りが多いのにここはあまり人がいない。
「……え?」
目の前の光景が信じられなくてとさりと手に持った荷物を落としてしまう。
日差しが照りつける中、その暑さがこの光景が現実のものであることを証明づけていることに只々呆然とする。
「……なんで、店が…」
色んな形に変化する店。変な機械に変な店長がいる店。自分の愛娘がいる店。
天使はじめましたというおかしな店の名前は忘れる筈も無い。
だからこそ、この光景には絶句するしか無かった。
「店が、ない!?」
店があった筈の場所は空き地となっており、売り地と連絡先だけ書かれた看板が立っている。
まるで最初から何も無かったかのような風貌の場所。
私はただ立ち尽くすしか出来なかった。
これにて第1部は終了
果たして消えた店や主人公の行方は?なのは達はどうするのか?果たして再会できるのか?
後、まだなのは達は主人公が天使だと知りません。でもまあ、2部の最初の方で知ることになるかなぁ。
第2部も普通に続けて行きます。と言ってもリアル事情で遅くなるかもしれません。