それから少ししてなのはちゃんとヴィータも食堂にやってきた。急いできたのだろう、少し服が乱れていて息も絶え絶えな状態だ。
まあ、六課におってこの短時間で来るのは無理しやなあかんからなぁ……フェイトちゃんは異常なのは置いておくとしよう。
フェイトちゃんはまだ典矢を抱きしめている。と言っても体勢は変わっており、ラーメンを食べる典矢の背中から抱きついてるという感じだが……
それにしても典矢は本当に男なのか?普通今も形が変わるくらい押し付けられている柔らかいものに何かしらの反応を示すはずやけど……興味もなさ気に箸でラーメンを食べている。
取り敢えずなのはちゃん達の息が整うのを待ってから頭の中で整理しておいた事項について問いかける。
典矢が答えてくれない質問もあるだろう。それを追求した所で口を割ることはない。典矢は頑固なところがあるから仕方ないだろう。それなら聞けることはなんでも聞いといたほうがいい。
「ハコは何してる?メールが届かなくなったけど」
典矢は私の質問に視線をこちらへと向けて箸をテーブルに置いた。
そう言えばどうして典矢は箸を使っているのだろうか、ミッドチルダに箸なんて文化はない。あっても地球などの外部世界の出身者がやっている店やろうけど、地上本部の食堂では無かったはずだ。
そう思えばラーメンもそうだ。地球の食べ物がなんであるんやろ。周りを見てみればこちらの様子を伺いながらカレーを頬張る局員の姿もある。美味しそうなのが腹立つ。
「ハコはヴィヴィオについて回ったり店の手伝いをしてくれてるよ。メールは僕が止めておいた」
変わりは無し……ってことか。
にしてもメールは止めたかぁ……
「どうしてそんなことを!?」
「……それは言えない」
なのはちゃんの質問とも言えない叫びに典矢は応えない。以前の典矢では考えられない表情をしている。彼ならば都合の悪いことは軽く流していただろうが、今は正面から受け止め、申し訳無さそうな顔をしていた。
でもなのはちゃんは納得ができないみたいで、今にも掴みかかりそうに息を吐いている。
取り敢えずなのはちゃんを羽交い締めにしておこう。
「どうして何も教えてくれないの!!」
「……実は、なのはちゃん達には言っても大丈夫なんだ」
なのはちゃん達は大丈夫?だけどどうして教えてくれないのか……他の誰かに聞かれるのが駄目ってことか……管理局に知られるのは駄目……とか?
考えられる事はいなくなる前にあったある事件。ジェイル・スカリエッティやけど……
あかん、確証は持てやん。
「じゃあ、どうして!?」
「……はやてちゃんに知られるのが駄目だからね」
「へ?私?」
何で私に知られたらあかんの?意味がわからん。地上本部とか他の管理局員に知られたらあかんってのならわかるのに。
「なのはちゃん達に教えてはやてちゃんに伝わらないわけがないからね」
「いやそれよりも、どうしてはやてちゃんに知られたらダメなの?」
少しだけ落ち着いたのか、声の勢いを抑えて質問するなのはちゃん。正直助かる。私達が騒いでいるのに周りの局員たちのひそひそ話はどんどんとエスカレートしているからだ……妖精の恋人を取り戻すってなんやねん。
「言えないよ」
「……誰だったら教えてくれる?」
「プレシアさん……はダメか」
プレシアさんの名前を出したけど、ちらりと後ろにいるフェイトちゃんを見て訂正した。そうやね。あの人はフェイトちゃんには激甘やから聞かれたら答えちゃうよね。そう考えたらヴィータ達もダメになる。
でも、どうしても気になる。何で私に知られたらあかんのか、それがどんなことなのか……
「……随分母さんを信頼してるんだね」
黒い!なんか典矢に抱きついてるフェイトちゃんの顔が黒みを帯びてるで!笑みを浮かべてるはずやのに目は笑ってないやん!何?プレシアさんに嫉妬でもしたの?
「そ、それはおいといてや!取り敢えず居なくなったことも気になるけどもう一つ大事なことがある!」
うん。大事なこと。ミゼットさんの話に一人の若者が最高評議会に新しく入ったっていうこと。この場に居るってことは典矢がその若者であることは間違いない。
でも、そんな事は全く知らへんし、そんな様子もなかった。一体いつの間にそんな立場に……
「つい最近だよ。その立場に立った理由としては、彼らに協力したくなったからかな」
「……相変わらず人の考えを読むんやね」
もう慣れたわ。
にしても協力したくなったか……私は最高評議会を見たこともないから知らへんけど、そういうんやったらあってみたいかな。
典矢はよくも悪くも純粋だ。それでいて己をしっかりと持ってる。そんな典矢が協力したいということは芯が通った人物たちに間違いないのだろう。それに彼らには色々と言いたいこともある。
「まあ、流石に会えはしないかな。でも伝言くらいなら大丈夫だよ」
「……そう言えばメッセンジャーやったんやっけ」
「ちょっと待って!話についていけてない!」
ああ、そう言えばなのはちゃん達は知らんかった。というか教えてなかったか。
私は簡単に典矢が最高評議会の人間であること。メッセンジャーを務めていること。そしてこの時間にここでご飯を食べていることを伝えた。
「成る程、ここに来れば毎日典矢に会えるって事だね」
「まあそうやけど、それはそこまで大事なことじゃないで?フェイトちゃん」
「一番大事だよ!」
うん。フェイトちゃんは暫く休んだほうがええかも知れやん。ちょっと仕事をさせすぎたかな……
「ヴィヴィオはここにこれないの?」
「まあ、ちょっと厳しいかな。ヴィヴィオも色々とあるし」
「そっか……何時会えるようになるの?」
「それは本人次第。でもそう遠くないうちに会えるよ」
「……わかった。待ってる」
なんや、なのはちゃんも随分といい顔するようになったんやね。あれこそ母って顔やわ。でも今の会話聞いた局員がなのはちゃんのことを子供連れて逃げられた妻って言ってるで。
「そう言えば典矢はちゃんとご飯は食べてる?毎日3食食べないとダメだよ?ここのご飯は美味しそうだからって好きなモノばっかり食べてたらダメだよ?」
フェイトちゃんはダメになってる。典矢は食事に関してはちゃんとしてるんだしそう心配せんでもええのに。
「昨日もラーメンだったし大丈夫だよ」
「全然大丈夫ちゃう!?」
あかん。そう言えば典矢も天然やった。それに食事でまともっていうのは客やヴィヴィオに関してや。自分のことは思ったよりもずぼらやったわ!
「だったらこれからは私が……作っても典矢よりおいしくないよね。ごめん」
フェイトちゃんがしょぼくれてしまう。確かに典矢は料理がとんでもなく上手い。正直女として自信をなくしてしまうくらいにはうまく、料理に自信がある私も逆立ちしても勝てやんと思えるほどに……
しかし、それは味の話。フェイトちゃんに作ってもらえるというのであれば世の男の殆どはどんな激まずだろうと喜んで受け取るだろう。まあ、フェイトちゃんは料理できるからそんな心配はないけど……
といっても典矢にそんな常識は通用しない。不思議な顔をするだけだ。
「頼む!妖精さん!テスタロッサ執務官のお弁当を食べてやってくれ!」
「あんたが食堂のメニューを良くしてくれたって噂は知ってるが、彼女の曇った顔を見たくない!」
「彼女を幸せにしてやってくれ!!」
何故か周りで見ていた局員が近づいてきて典矢に頭を下げていた。色々と突っ込みたいところがあるよ。怪しいって思ってたこの食堂は典矢が手を加えてたんかい!とか。妖精ってなんやねんとか。それにこういうのって男の人は普通嫉妬するもんとちゃうの?もうわけがわからなくなってきた。
「みんなありがとう。でもいいよ。私のお弁当を典矢にあげれないのなら私が典矢よりも美味しいごはんを作れるようになればいいだけのことだから……」
「くぅぅ!!なんて健気なんだ!」
「悔しいがお似合いのカップルだぜ!」
「ちょっと待て、テスタロッサ執務官は高町一等空尉と恋人だって噂を聞いたことがあるぞ!」
「なに!?まさか三角関係か!?初めて見た」
「なあなあ典矢。アイスねえか?ちょっと暑くなってきた」
「はい、ヴィータちゃん」
「おい、あれ。妖精さんとヴィータ三等空尉いい雰囲気じゃないか?」
「まさかの四角関係か!?」
「なんてこった!我等がロリ教官が見たこともないような笑顔を浮かべてるぞ!?」
「おい、今ロリって言ったやつ表出ろ」
「「「「「こいつです!!!」」」」」
「おいてめえら!」
「ちょっと待って!」
「た、高町一等空尉……」
「私が旦那に逃げられたんだって噂をしてるのは誰か教えてくれるかな?」
「救いの手だと思ったら魔王の誘いだった!!」
暫くして姿を消していた典矢に皆が気付くまでこの騒ぎは続いていた。
今年最後の投稿。もっと早く投稿するつもりが、酒飲んで居眠りしちゃったので結構遅くなりました。
新年明けてからは少し忙しいので、落ち着くまで更新できないかもしれません。といっても1月中旬頃には更新できると思いますが。