はやての目の前にいる一人の女性。銀色の髪に少し強張った表情を浮かべて人物。本来であれば存在するはずのない女性であった。はやてが唖然として立ちすくむのも無理はない。
約10年前、はやての目の前でその存在を消滅させた者。はやてによって
「……本当に、リインフォースなん?」
「はい主。恥ずかしながら、帰ってきました」
はやてはこの際右手に持つ物を視界に入れずにヨロヨロとリインフォースへと近寄る。
一体どうしてここにいるのかはわからない。どうやって生き返ったのかはわからない。
だけど、一つだけ言えることはある。失った家族が戻ってきたのだ。はやては一度息を吐いてからニコリと笑い告げた。
「おかえりなさい」
「……はいっ!!」
はやては両手を広げて自分より背の大きなリインフォースを抱きしめる。
久しぶりの家族は少し生臭いにおいがした。
◇
「そっか、まさかリインフォースさんを蘇らせたなんて思わなかったよ」
「私も驚いたさ。幽霊等を信じてはいなかったが、実際に目の前で見せられれば認めざるを得なかったよ」
所変わってバー【エンジェル】では高町なのはとジェイル・スカリエッティが典矢に出されたミルクを飲みながら話し込んでいた。
話し下手な典矢に代わってスカリエッティが話すのは典矢がミッドチルダから離れ、なのは達に何も教えなかった理由。
「でもさ、リインフォースさんってそんなヘタレだったっけ?」
「ああ!八神はやての所に行く決心を持つのに1年と3ヶ月も使うほどにはね」
「……典矢君がいなくなってすぐに蘇ってたんだね」
リインフォースを蘇生したはいいものの、本人が八神はやてと会う決心がつかずにこれ程の歳月が経過したというわけだ。
あのような別れ方をしたばかりでおめおめと戻るのは恥ずかしいだとか、今更合わす顔など無いとか、本人にとっては至極大事ではあるのだろうがなのはにとってはそんな理由でヴィヴィオと離れて過ごさなければならなかった事に物申したい気分であった。
リインフォースにとってすぐのことでもこちらとしては10年も前のことなのだ。再会して喜びはすれど恥ずかしがる必要などないのだ。
「典矢君って何者なのかな」
リインフォースに呆れ、典矢の力の深さが余計に見えなくなったなのはの視線の先にはすずか相手に接客をしている典矢がいる。
アリサは少し落ち着いたのかカクテルを典矢から受け取った後ちびちびと舐めるように飲んでいた。
「ふむ、それは私も気になるがあまり詮索をするのはおすすめしないよ」
「まあ、無理矢理聞いてもはぐらかされるだろうし、典矢君が話してくれるのを待つよ」
「それがいいさ。それに蘇生と言っても今回が特別だと典矢君は言っていたよ」
なのはは視線を動かしスカリエッティを見る。
いつの間にか彼の頭にはコック帽が乗っていたのだがなのはは何も言わない。
唯、早く続きを話せとばかりに目を細めてスカリエッティを見抜いていた。
「……リインフォース君は元々がデバイスだ。それでいて夜天の書という存在に深く関わっていた」
「……」
「夜天の書には主が死んだ時に次の主の元へ現れる転生機能が備わっているのは知っているね?」
「まあ、色々とあったからね」
「その転生は本来の輪廻転生という枠組みから離れた物らしくてね、リインフォース君の場合輪廻転生から離れ、この街に魂だけが留まっていたそうだ」
何やら雲行きが怪しくなってきた話になのはは身震いする。彼女は少しだけ、そう。本人曰くほんの少しだけ幽霊という物を苦手としている。スカリエッティの話が本当だとすれば、リインフォースという幽霊がずっと海鳴市にいたということになる。
「だから彼はその魂をひっ捕らえて機械の身体……まあユニゾンデバイスとしてリインフォース君を蘇らせたのだよ」
「………そっか」
なのはは心のなかで安堵する。どうやら幽霊については深く話さないようだ。魂くらいならば問題はない。
「まあ、会いたい気持ちはわかるが今は家族水入らずにしておこうではないか。心配しなくても暗くなったら帰ってくるさ」
少しだけスカリエッティは勘違いしたようだが会いたいというのは嘘ではない為なのはは特に気にしないことにした。確かに今は久しぶりの再会に八神家は大いに賑わっているだろう。そこに友人といえど自分が行くのは憚れる。
素直にこの店で待っていたほうがいいだろう。
「所でヴィヴィオは今は何処にいるの?」
「ヴィヴィオ君?確か今朝方リインフォース君とハコ君の3人で海に向かっていたが……恐らくリインフォース君は八神はやての元へ向かったし、今はハコ君と魚釣りでもしているのではないか?」
「大丈夫かな……」
「何を言っているのかね。君の砲撃でも傷一つ負わないヴィヴィオ君が早々怪我を負うことすら無いのだぞ」
スカリエッティの言葉に1年前の戦いを思い浮かべる。笑みを浮かべながらも必死になって戦っていた自分の娘の姿には心底驚きとその成長に喜びを感じた。些か強くなり過ぎだとは思うが気にしない方向でいこうと考える。
時空犯罪者がそのへんを闊歩しているわけでもないし大丈夫だろうと、なのははミルクを飲む。
この管理局員、目の前の男の存在を忘れているが、本人が気にしていないので問題はないのだろう。
「それにそろそろ昼食時だ。お腹が空いて帰ってくるさ」
「そうだね。おとなしく待っておこうか」
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「ねえヴィヴィオ?確かにこのスーツ温かいけどさ、普通冬に潜って魚はとらないんじゃないかな」
「でもまだマグロとってないもん」
「さっきハコがカジキマグロとってたよ?」
「あれはカジキだよ?フェイトママ」
「それはそうだけどさ。こんな所にマグロがいるわけ……」
『ヴィヴィオ!マンボウ!』
「え!?どこどこ!?」
「…………」
『ホラ!アソコ!!』
「本当だぁ!!でもマンボウって食べれるのかな」
『ワカンナイ!』
「うーん、お姉ちゃんは鰤とってたし、美味しい魚獲りたいね」
『トッタド――!!』
「おぉ!!カレイとヒラメの2枚抜きだぁ!!」
「………あったかいなぁ」
「石鯛獲ったどーーー!!」
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