天使の飲食店   作:茶ゴス

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第42話

「と、今の状況はそんな感じよ」

 

 

 顔合わせも滞り無く終わらせたリインフォースは、何故自分達が過去に来たのか、また今何が起こっているのかの全容を聞いた。

 永遠結晶エクザミアを核としたシステム、砕け得ぬ闇。システムU-Dの暴走、それを手に入れんがためにエルトリアという世界からやってきたアミティエ・フローリアンとキリエ・フローリアンの次元超越の際に次元が歪んだためにあらゆる時代から呼び出されたのだと。そして、今は砕け得ぬ闇の暴走を止める為の最後の作戦会議を行うところだったと赤と青の翼が生えた八神はやてに似たマテリアル、ロード・ディアーチェより伝えられたのだ。その間、ヴィヴィオとハコは特にすることもなく、つまらなかったからなのかブリッジからいなくなっていた。

 

 

「その事件の解決に力を貸すのは問題ありません」

 

 

 リインフォースの言葉にはやての顔が綻ぶ。戦力が増えるのは彼女達にとっても願ったり叶ったりなのだ。と言っても、恐らくは最大の戦力になり得る二人がこの場にいないということにリインフォースは苦笑いを浮かべる。

 かたや管理局の陸上部隊を壊滅に追い込み、かたや管理局のエースオーブエースを一対多という状況で打ち破る程の実力。

 

 この場にそれを知るものはリインフォース以外にはいない。もしかすれば高町ヴィヴィオもそれくらいの力を持っているのかもしれないと考えるが典矢がいないという事より戦い方から違うのだろうと結論づけ、実力の断定をやめる。

 

 

「リンディ艦長!大変です!」

 

 

 ブリッジに砕け得ぬ闇を監視していたエイミィの声が響く。

 すぐさまリンディが駆け寄り、砕け得ぬ闇の映ったモニターを凝視した。そこにあるのは赤黒い結界。封時結界のようなものかもしれないが、問題なのは結界よりも違うこと。

 

 

「これは……!」

 

「闇の欠片の大群……だと!?」

 

 

 数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの数の闇の欠片が出現していた。その姿は多種多様でなのは達を模した者も存在している。

 転移装置で砕け得ぬ闇のいる結界内に行ったとして、結果以外の闇の欠片が暴れまわれば唯ではすまないだろう。となれば必然的に戦力を分担させなければならなくなった。

 

 戦えるであろうリーゼ姉妹もこの場にはいない。ただ戦力を分担しても砕け得ぬ闇の力は強大なのだ。闇の欠片を止めることに割きすぎては暴走を止めることはできないだろう。

 

 悠長に構えていることは出来ない。刻一刻と状況は悪くなる一方なのだ。直ぐにでも向かわなければいけない。

 

 

「リンディ艦長!転移装置が起動しています!」

 

「なんですって!?」

 

 

 だからこそ、更に追い打ちをかけるような報告に頭が回らなくなる。アースラの艦員で転移装置を使うものはまずいない。使ったとしても何かしらの報告がある筈だ。報告もなしに使いそうななのは達はこの場にいる。だとすれば一体誰が転移装置を起動させたのか……

 

 

「………まったく」

 

 

「転移装置の設定先のモニターを移します!」

 

 

 モニターの一つの映像が切り替わり、丁度闇の欠片の大群がいる上空を映し出す。

 あまりの数に絶望すらも感じる光景の中、一人の人間の姿が見えた。

 

 両腕に嵌った腕輪が淡く光り、自由落下の法則を無視し、傍らに球体の機会を連れ、ゆっくりと降下している少女。

 

 

「やはり、無茶をするな」

 

 

 ヴィヴィオの姿がそこにはあった。

 それはリンディを困惑の渦に飲み込む。転移装置、あれを動かすとなれば多少の手順が必要となる。以前ユーノ・スクライアに勝手に起動されたことを反省し、初めてではまず動かせない程度にはしていたはずだが、彼処にいる以上ヴィヴィオが転移装置であの場に向かったこととなる。

 

 

「ちょっと!はやく助けに行かないと!」

 

「なんであんなとこにヴィヴィオちゃんがおるんよ!!」

 

 

 ブリッジ内のモニターを見ていた者達はヴィヴィオを助けるために転移装置へと向かう。

 あれほどの数の闇の欠片がいてたった一人の、魔導師でもない少女ではとてもじゃないが無事で済むわけがない。最悪の場合命を落とす可能性すらも有る。それは高町ヴィヴィオ自身も懸念していた。

 自分のことだから解る。オリヴィエのクローンであり、自身は失った聖王の鎧を持っていようともあのヴィヴィオがどの程度使えるのかは解らない。今でこそ自分はストライクアーツの修行により力を手にしているが、あのヴィヴィオはそんな物は無いだろう。更に言えば彼処にいるのが高町ヴィヴィオであっても窮地という状況は変わらない。

 

 数は少なく見積もっても4桁。もしかすると5桁を超えているかもしれない。そんな中にヴィヴィオという少女がいて助けに向かわない者はここにはいなかった。

 

 

「待て」

 

 

 しかし、たった一人だけ、ヴィヴィオを助けに行く者達を止める者がいた。

 転移装置がある通路に立ち塞がるように立つリインフォースにはやては困惑する。

 このままではヴィヴィオが危ない。リインフォースもそれを理解している筈だと……リインフォースにとってヴィヴィオは妹のようなもの。なのに何故じゃまをするのか。それが解らない。

 

 

「そこをどいて!」

 

「……なんと言えばいいのか」

 

 

 対するリインフォースも言葉を濁していた。

 確かに心配ではあるが、ヴィヴィオがやられることはまず無い。攻撃力こそなんとかエースオブエースを倒せるといった程度の物だが、その防御力はエースオブエースの一撃を持ってしても外傷を受けないほどになっている。

 そんなヴィヴィオの元へこの人数で行ってしまえばそれこそ当初の目的でも有る砕け得ぬ闇の暴走を止めるということが出来なくなってしまう。

 

 

「まあ、ヴィヴィオのことは私に任せて主達は砕け得ぬ闇の元へ向かってください」

 

「そんなん、無理に決まってるやろ!!」

 

 

 やはり簡単にはいかない。それも無理はない。ヴィヴィオの実力を知らないのだ。

 しかし、このままいかせるのは問題だ。

 

 何故ヴィヴィオがあの場に行ったのか、何故ハコは何も言わずに付いて行ったのか。その真意は解らないまでも、リインフォースは己のやるべきことを頭のなかで理解させ、はやてへと語りかけた。

 

 

「あの程度の雑魚相手に苦戦はしません。ヴィヴィオの救援には私が向かいますので、主達は決戦の準備を」

 

「何言ってるんや!」

 

「主は見ていてください。そして、砕け得ぬ闇の元へ」

 

「でも、でも!」

 

 

 あくまでもヴィヴィオを守ろうとするその姿勢。違う世界とはいえど家族であるリインフォースの妹。つまりヴィヴィオすらも家族なのだという意思をもったはやての言葉にリインフォースは一度目を瞑った後、息を吐いて少しだけはやて達から離れた。

 

 

「安心してください。道は私達が切り開きます」

 

 

 そう伝えたリインフォースは小さな声で何かを呟くと、光を纏って姿を消してしまう。

 魔力の痕跡すらも残さずに消えたリインフォースに驚きつつも、はやて達はリンディから呼び止められ、ブリッジへと戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「やっときた!」

 

『チコク!チコク!』

 

 

 突如真横に現れたリインフォースにヴィヴィオは笑みを浮かべ待っていましたと言わんばかりに右腕を回す。

 

 

「私を待っていてくれたのだな」

 

「勿論だよ!一緒にやっつけよ!」

 

 

 ヴィヴィオの明るい声に苦笑し、視線を前方に向けた。

 

 

 眼前に浮かぶは万の軍勢。対するは一人の人間と二体の機械。数の上での戦力差は一目瞭然だといえるだろう。彼女達を知らない誰に問うても勝負にすらならないと答えるだろう。

 

 傍から見ればどうしようもない絶望的な状況。だが、そんな状態でも彼女達は笑っていた。

 

 

 己に授けられた力は一騎当千の証。いや、それ以上の力を秘めていると理解している。

 

 

 三人の身体が光に包まれる。

 目的は殲滅。目の前にいる者達は全てが有象無象の存在。

 

 彼女達の心に、敗北という文字は存在しないのだ。

 

 

 

 

 

「お願い!チェインバー!アルちゃん!」

 

『ハングドマン!』

 

 

 

 

 二人に比べればリインフォースの力は弱いのかもしれない。だが、それでもヴィヴィオの姉として彼女を守らなければならない。

 

 姉としての意地を張るため、リインフォースはその力を開放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行こうか、ブラックサレナ」


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