天使の飲食店   作:茶ゴス

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第43話

 モニターに映るその戦いにアースラ内の魔導師達は絶句し、立ちすくんでいた。

 誰が見ても不利な状況。2人、いや3体対1万という劣勢にも関わらず戦況を有利に進めているのはヴィヴィオ達であった。

 

 ヴィヴィオは白と黒に彩られた機械を手足に纏い、左手の銃で相手の動きを止め、右手の剣で近付いてくる敵をなぎ払う。

 それだけではない。ヴィヴィオの身体から時折照射されるレーザーは闇の欠片が放つ魔力弾を尽く撃ち落としている。

 

 そんなヴィヴィオを青い機体が後方より確実な動作で敵を打ち落とすことで守っている。

 接近すらも許さぬその射撃は凄まじいもので、フェイトを模した闇の欠片が高速で移動してもあっけなく撃ち落とされている。

 

 しかし、そんな2体よりも目を引く機体。漆黒と呼ぶべきその機体はヴィヴィオたちよりも数段身体が大きく、敵のいる最前線にてその猛威を振るっていた。

 ヴィヴィオのような全方向への対応性があるわけでもない。青い機体のような精密な射撃を行っているわけでもない。それどころか、武器らしい武器が小さな銃だけというその機体。

 それは恐るべき速度で飛び回り、ヴィヴィオの銃撃により動きを止めた相手を優先して巨体の特性を活かした体当たりを行っていた。

 

 圧倒的な質量を誇っているのは容易に想像できる。そして、フェイトの姿をした闇の欠片のソニックフォームですら振り切れない速度。当たれば途轍もないダメージを負うのだろう。巨体に触れる傍から闇の欠片が霧散していく。しかもその機体の空間が少し編曲して見えるのも何かの力がかかっているからだろう。黒い機体に当たる前に少しだけ魔力弾が曲がっているようにも見える。まるで空間を捻じ曲げているような……

 

 

 リインフォースが出撃前に告げた言葉は真実のものであった。彼女にとって1万という闇の欠片という存在はただの雑魚でしかなく、守るべき者が存在しても物ともせずに戦う姿ははやての隣りにいるリインフォースにはない力だった。

 何故自分にはあれだけの力が無いのだろうか、主を守れるという自信が無いのだろうか。そんな疑念が身に降りかかる。違う世界の自分が戦う姿。青い機体か黒い機体のどちらがリインフォースなのかは確証はないが、何故か不思議とあの黒い機体に乗り込んでいると思った。

 握っている拳に力が入る。この世界では自分はもうすぐに消えてしまうのだ。主を最後まで守れること無く……

 

 

 

 そんなリインフォースの様子に気づいたのは高町ヴィヴィオであった。彼女もまた違う世界の自分に戸惑い、その強さに驚愕していた。

 聖王としてでもなく、ストライクアーツでの技術でもない。見たこともない戦い方で敵を打ち落とすその姿に違和感を感じないはずがなかった。そして、それはリインフォースにも言えること。モニターを見ながらも何かを耐えるように腕を震わせている彼女に気づき、その腕を握った。

 

 

「……どうした?」

 

「……ただ、少し辛そうだったから」

 

 

 その心中を察することは出来ない。でも辛いのならそれを支えることは出来る。実際に会ったことはない。だが、聞いたことは有る。八神はやてから彼女の事を教えて貰ったことがある。

 ただ、それだけでよかった。それだけでヴィヴィオは彼女を支えることが出来る。どれだけリインフォースがはやてに想われていたのかを知っているから。

 

 

 

「闇の欠片は彼女達に任せても大丈夫そうね。皆さんは直ぐにでも砕け得ぬ闇の元へ行く準備を済ませてください。結界内への転移準備が整い次第向かってもらいます」

 

 

 モニターから目を外し、魔導師達へと視線を向けたリンディからの指示を聞いた後、リインフォースはその手に感じる温もりを感じた後、少しだけ笑うと高町ヴィヴィオに向かって口を開いた。

 

 

「違う世界の自分に負ける訳にはいかないな」

 

「はい!」

 

 

 黒い感情が渦巻く心中は晴れた。あそこで戦う自分もここにいる自分も同じなのだ。ただ護りたいもののために戦う。何よりも大事な事を自分に言い聞かせリインフォースははやての元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 なのは達を砕け得ぬ闇の元へと送ったリンディはクロノが使用したサーチャーからの映像を見ながら戦いが無事に済むことを祈っていた。

 ヴィヴィオ達と闇の欠片の戦いは戦況は変わらずに有利なままである。そちらは心配する必要は無いのだが、結界内はそうと言えなかった。

 

 まずなのは達が送られてから直ぐに彼女達を大量の赤黒い魔力弾が襲った。

 それを回避したり防御したりと誰もが被弾する事は無かったのだが、問題は攻撃が止まらないことだった。

 

 近づこうとも動けない状況。このままでは刻一刻と砕け得ぬ闇の暴走を止める事が出来なくなってしまう。

 

 それは結界内にいる者達も気づいていたことで、なんとか近づくために、攻撃を仕掛け始めていた。

 しかし、なのはのディバインバスターを始め、どの砲撃も効果がない。攻撃の雨は耐えず降り注ぐのみ。

 

 

 そこで動いたのはクロノとユーノであった。

 ザフィーラが巨大な障壁を張り、そこから行動は開始する。

 打ち合わせをしたのだろう、クロノにはシグナムが、ユーノにはヴィータが付き、砲撃を防ぎながら近づき、バインドで砕け得ぬ闇を拘束する。

 

 そのバインドも直ぐに破壊されたが一瞬攻撃は止まった。そこからザフィーラが障壁を解き、急接近して鋼の軛により更なる拘束を行う。

 

 ザフィーラの背後で固まっている者達は新たな障壁を展開し、再び始まる攻撃から魔法の準備をしている4人を守った。

 一人は高町なのは。大量展開された魔力弾の残していった魔力をかき集め集束砲撃の準備を。

 一人はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。ザンバーフォームの魔力刃に己の魔力を集中させる。

 一人は八神はやて。リインフォースとのユニゾンにより増加している魔力を高め、夜天の書に記されている魔法の詠唱を始める。

 一人はロード・ディアーチェ。自身に力を託し、消えていった二人のマテリアルの思いを胸に紫天の書の魔力を集中させる。

 

 魔力弾の量は減っていた。鋼の軛によって身動きを抑制されているのが原因だろう。

 しかし、それもあまり長くは持たない。ザフィーラは自身を守る障壁は最小限に、鋼の軛を維持しようとも、砕け得ぬ闇の力に耐え切れずに音を立ててヒビの入っていく軛を見て苦悶の表情を浮かべる。

 

 無論、ユーノ達は何もしていないわけではない。

 絶えずバインドをかけ続け少しでもなのは達の準備を長引かせるために、彼女達の攻撃を当てる為に戦っている。

 ヴィータやシグナムも障壁を張りながらも牽制程度ではあるが砕け得ぬ闇へと攻撃を行っている。

 

 

 モニターを見ているリンディにもわかる苦しい戦い。闇の書の闇の時以上に苦しい顔をしているなのは達に自分が何も出来ないことに歯がゆく感じる。

 あの時のようにアルカンシェルを使うわけにもいかない。この戦いは彼女達だけが決着を付けられるもの。自分が言っても足手まといにしかならないことを理解し、彼女達の戦いを見守る。

 

 

 そして、なのは達の攻撃の準備が整った。

 

 ザフィーラは合図に対し、新たな軛を生成し、射線上から離れる。

 ユーノ達も最後にとバインドを唱え、少しでも砕け得ぬ闇の行動を阻害する。

 

 

 障壁でなのは達を守っていた者達も二分に別れ、彼女達の射線を空ける。

 

 

 そして放たれる4つの魔法。スターライトブレイカー、プラズマザンバー、ラグナロク。そしてジャガーノート。

 

 

 砕け得ぬ闇はそれらの魔法に対し、ただ無言で見続け避ける素振りも見せなかった。

 バインドで縛られていたからかもしれない。軛が邪魔だったからかもしれない。だけど、それでも不自然なほどに不動であった砕け得ぬ闇にリンディは言い知れぬ不安を感じた。

 

 4つの魔法が砕け得ぬ闇に直撃する。

 魔力弾による攻撃が止まり、被弾した砕け得ぬ闇に煙が立ち込める。

 

 

 ここで終われば後はロード・ディアーチェがシステムを掌握して終わり。

 

 

 

 

 

 

 しかし、そう上手く行くものでもなく。煙が晴れ無傷である砕け得ぬ闇の姿にリンディは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 あれだけの攻撃が効かないとなると既に打つ手はないのかもしれない。少なくとも結界内のなのは達ではどうすることも……

 

 ならば今結界外で戦っているヴィヴィオ達は……

 

 いや、まだ闇の欠片は残っている。もし殲滅できたのならば直ぐにでも増援に向かってもらいたいのだが、結界内に入るには一度アースラに戻ってきて貰う必要もある。

 その為の転移装置の設定の変更等を考えれば時間はもう無い。

 

 どうすればいいのか。そんな疑念がリンディの頭のなかを取り巻く。

 

 

 

 

 そして自体は更に動く。

 

 

 

 

「艦長!上月ヴィヴィオちゃん達の上空より巨大な魔力反応!」

 

「なんですって!?」

 

 

 新たなイレギュラー。エイミィの報告にモニターを確認したリンディは絶句する。

 

 決して巨大ではないが、ハッキリと確認できる空に浮かぶもの。

 

 

 何かの魔法陣が展開されていた。

 

 




ユーリちゃんが強くなっているのには理由がありますよ。
何故典矢君がヴィヴィオ達の不在を直ぐに気付けたのかにも関係していることです。

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