「人類には、はっきりと言って足りないものが存在する」
それはある一人のお客さんの告げた言葉だった。レストランとして開店している今夜、ここにいるのは自分と目の前のお客さん一行のみ。
夕飯時を少し超えている為他にお客さんが来店してないだけであって、レストランなのにお客さんが少なすぎるというわけでは無い。断じて無い。
「この停滞した世の中に私は物申したいのだ!」
余程興奮しているのだろう。お客さん、白衣を着て声高々に宣言している男は娘に止められても構わずに右腕を振り上げて決してその言葉を止める様子はない。
一体彼を駆り立てるのは一体何なのだろうか……
「究極系の萌えと最強の燃えの探求を人類は必要としている!!!」
……何故だろう。言っていることは変なことなのにあの気迫は凄いと素直に思ってしまう。言っていることは変なのに……
「だからこそ店長!この矢澤ハコの秘密を教えて下さい!!」
「………」
店の看板がわりのロボットを掴んで此方に向けてきた。
当のロボットは楽しげにニコニコとした顔で笑い声をあげている。作った時はただ情報を提示するだけの物を作っていたつもりだったんだけど、神様からの指示であのフォルムにし、味気ないと感じてしまい少しばかりAIを搭載してみた結果。よくわからない物になってしまった。
必要はない筈なのに睡眠を取り、目を離していると勝手に自分を改造している。まあ、改造内容は掃除機能をつけるとか簡単なものだし、別にいいのだけど……
店の前を転がりながら掃除している姿は見ていて中々滑稽だったと記憶にある。というよりも疑問なのは腕もないのにどうやって自身を改造しているということだ。しかも碌に道具や材料を使わずに……
「ドクターが迷惑をかけてスミマセン」
「い、いえいえ。大丈夫ですよお客様」
珍しい家族だなぁ。父親のことをドクターと呼んでるなんて。まあ、あの白衣からしてドクターって呼ばれるのはわかるけど……
「こほん、熱くなりすぎていたようだ。それで店長、一つ聞きたいがいいかね?」
「何でしょうか」
「そこまでの技術、君はどうやって身につけたのだ?」
えっと、技術ってことはこのロボットを作った事とかかな。それだったら下級の神達と転生者の産物なんだけど……どう言ったらいいものか。
「えっと……」
「いや、全ては言わなくてもいい。余程の理由があるとみえる。だが解せないのは君は科学者でありながら何故探究心が薄いのかということだ」
え?探究心?考えたこともなかったなぁ。ロボットに関しても作り方の基本を知っているから作れているだけだし。そういう意味では科学者という言葉は僕よりも今も楽しげに飛び回っているロボットのほうが向いている気もする。
「何、ただ疑問に思っただけだよ。同時に惜しいともね。君程の者ならば歴史に名を残せるということがだ」
いや、あまり目立ちたくないのですけど……一応仕事とはいえ本来自分はこの世界に存在していないはずのものなのだ。それを世界を変革させてねじ込むという荒業を神様がしたわけであって、自分の行いにより世界がとんでもないことに成る可能性もあるわけだ。
「そこでどうかね?私と共に人類の課題への探求を行わないかね?」
人類の課題ってさっき言ってたことかな。えっと、究極系の燃えと最強の燃え。可燃物を量産する事が課題なのだろうか。人間って中々ユニークな課題を抱えているね。
でもまあ……
「すみません。僕はここでこの店の経営を続けたいと思います」
「……そうか」
「はい。僕自身科学者ではなく、ただ知っているものを作っただけです。あのロボットも便利そうだから生み出したにすぎません」
「いや、本来創造とはそういうものだ。何も間違ってはいないよ………って少し待ってくれるかな?」
「はい。何でしょう」
「知っているとは、あの矢澤ハコのようなロボットの作成方法をか?」
「まあ、そうなりますね」
「君のような若い男が?」
「はい」
む?お客さんが考え込みだした。何か変な所でもあったのだろうか。
「……これは良い事を聞けた。良ければだがいつか色々と研究に詰まった時に助言をいただけないかね?」
「ああ……まあそのくらいなら大丈夫ですよ」
まあ、そうなると言葉で説明するよりも文章のほうが説明しやすいだろう。
取り敢えずロボットをこっちに呼ぶ。
『ヨンダ?ゴシュジンヨンダ?』
「ああ。認証モードになって」
『リョウカイ、リョウカイ』
頭がパカリと開き一辺10cm程度の薄く光る板が出てくる。まあ携帯電話の赤外線での連絡先交換のようなものだ。
「ほう、それは今から何をするつもりかね?」
「えっと、この板の上に指を置いてくれますか?」
「これでいいかね?」
「はい……ジェイル・スカリエッティさん認証できました」
「……っ!!」
「これで貴方が何かしらのメール機能を持った端末でこちらに連絡を取りたいという時にこのロボットが連絡します。それで情報のやり取り等を行いましょう」
「……一体どのような原理なのかは理解できない…しかし一ついいかな?」
「何でしょうか?」
「私の名に心当たりはないのかね?」
名前か……ジェイル・スカリエッティ……確か管理局における犯罪者の名前だっけか……普通なら驚いたり怖がったりするものなのかな。でも……
「貴方が何者であろうと関係ないですよ。この店にお客様としてやってきている時は犯罪者も一般人も変わりありません。もし犯罪者として来るのであれば違いますけどね」
「……そうか。わかったよ、あと願わくば通報等はしないでおいてくれるかな?」
「はい。折角のお客様を逃す手はないですから」
犯罪者と言っても所詮はこの世界の生物にあることに変わりはない。自分達にとって善人も悪人も大差無いのだ。倫理観の違いに善悪は大きく変貌するし、存在として違う人間たちを自分達天使は慈愛の心でしか接していない。僕達天使や神というのは、人間が人間を裁くためにその名前を貸しているのであって、それ以外では基本的に不干渉だ。
たまに神殺しという意味のないことを目指す人間もいるけど、この世界で殺せたとしても神自体が死ぬことはまずない。天使も一緒だ。天使が死ぬという時は神様や上司の天使によってでしか死ぬことはないのだから。
「君は不思議な男だね。若く見えるがその達観した様子はとても子供には見えない」
「そうですか?」
「……君を調べたくはなったが、敵わなそうだしやめておくことにしよう」
調べるか……いや、調べてもあまり情報は出ないんじゃないかな。地球で調べてもあまりわからないだろうし……
「じゃあ、そろそろ帰るとするよ。ウーノ、勘定を頼む」
「はいドクター」
「えっと、食事とお弁当しめて2000Gです」
「はい。丁度あります」
娘さんからお金を受け取り頼まれていたお弁当を渡す。容器は使い捨ての物で中身は洋風の物で統一しておいた。
何でもこのお客さん、娘がまだいるらしく、家で待っているそうだ。今度はみんな連れて来てくれてもいいんですよ?
「……それで経営が成り立っているのかい?」
「大丈夫ですよ」
こうして風変わりなお客さんの来店が終わった。
話を進ませる前に主人公の掘り下げをもっとしたい。でもネタが思いつかない。
本編の方は少しずつ思い浮かんでいるのに何時になっても入ることが出来ないなぁ……
あ、次回は別視点の話をするつもりです。