「うーん……やっぱりおらへんか…」
地球への渡航者リストに目を通しながら呟く。最近の渡航者は私達やなのはちゃん以外におらへん。
数年にわたって見ても同じ名前が2つあることはないし、地球の滞在期間が長すぎる。
「これは、黒かなぁ……」
思わずため息を吐いて資料を机の上に置く。
あの店長さん、個人的にはいい人やって思ってる。店もいい店やし、店長さんが犯罪者やとは思いたくはない。
「でも、見逃せやんなぁ……」
あの店で地球の物を売っているのは事実。業者が輸入しているという事も調べたから無いことは解っている。
違法なルートで仕入れてるか、密航しているかのどっちかか……
「どうしたの?はやて」
「フェイトちゃんかぁ……」
「これは……地球への渡航者リスト?」
六課の制服に身を包んだフェイトちゃんが資料を手にとって呟いた。
何か用でもあったんちゃうのかな……
「どうしてこんな物を見てたの?」
「ちょっと気になることがあってなぁ……」
「へぇ……」
いや、それよりもフェイトちゃんは用事……
「私で良ければ聞くよ?」
………もうええか。
「ある店の店長がな、違法な輸入してるか密航してるみたいなんよ」
「そうなんだ……ちゃんとした証拠はあるの?」
「資料の通り地球へは行ってないのは確認しとる。でもその店で地球の食べ物を取り扱ってるんよ」
「………成る程。でもそれだったらどうしてはやてはそんな悩んでいるの?」
「普通に良い店やし店長もいい人なんよ」
「そうなんだ……何ていう店なの?」
「天使始めましたっていう変な名前の店やよ」
あれ?フェイトちゃんが頭抑えとる。
まさかフェイトちゃん……
「知ってるん?その店」
「う、うん。この前なのはと二人で行ってきたし……」
「そうなんや。じゃあ私が悩んでる理由もわかるやろ?」
「そうだね……犯罪をしているなんて信じられないけど……」
普通に若くて礼儀正しいような明るい男の人なんよなぁ……私らより年下やし……
「もしかしたら違法に食材を輸入してる連中に騙されてる可能性も……」
「それがな、あの店長の口ぶりからして自分で買いに行ってるみたいなんよ」
二人揃ってため息を吐く。
どうしたらええんやろな……机の隅で気持ちよさそうに眠っているリインの頭を撫でて考える。
まず欲しいのは確証や証拠。流石にどんなええ人でも管理局員として犯罪行為を見逃すわけには行かへん。
「ああ、良い事思いついた」
「なんかあるの?フェイトちゃん」
「母さんがあの店によく行くらしいから話し聞いてみたら何か解るかもしれないよ」
「へぇ、プレシアさんがねぇ……」
じゃあ、一度聞いてみるとしますか。
◇
というわけで早速私とフェイトちゃん、そしてなのはちゃんの3人でプレシアさんの所に話を聞きに来ていた。
「どうしたの?3人で来るなんて珍しいわね」
「ちょっと聞きたいことがありまして……」
もう今日の仕事は終わらしてきて今は完全フリーな状態。
この後はフェイトちゃんとなのはちゃんの家に泊まる予定だからあまり長居はするつもりはない。
「取り敢えず話を聞こうかしら」
「あの天使始めましたって所の店長について教えてくれる?母さん」
隣に居るフェイトちゃんから聞いてもらう。やっぱりこういうのは家族の方が詳しく教えてくれるかもしれないし……
「フェイトが聞きたいなら好都合だわ」
プレシアさんは特に怪しむでもなく手を叩きながらそう口を開いた。
一体何が好都合なのかは検討もつかないけれど、これであの店長さんの事を聞くのは問題無いだろう。
「名前は
「そ、そうなんだ」
なんか思っていたよりも随分と沢山店長さんの事を聞けた……色々突っ込みたい所があるねんけど……
「年齢は15歳、肉体年齢は19歳程度。性格は真面目で色々と空回りもしちゃうわ」
「え、えっと……」
「女性に対する姿勢も紳士的で、多分一途な子だと思うわよ?フェイト」
うん?なんか雲行きが怪しくなってきた気が……
「自分のことをあまり大事にしない所はダメだけどそれ以外は優良物件だと思うわ。頑張りなさいフェイト」
「う、うん?」
「早く孫を見せて頂戴ね」
「孫!?」
やっぱりプレシアさん勘違いしてる。確かにフェイトちゃんの言い方だったらあの店長さんが気になってるって思われるかもしれないけど、実際はもっと違う意味で気になってるんやよ。
「あら、もしかして違ったのかしら?」
「はい。その上月さんが違法なルートでの輸入か密航している疑いがありまして」
「ああ、なるほど……」
うん、最初からちゃんと言っておいたほうが良かったね。もし言ってたらフェイトちゃんも顔真っ赤に成ることも無かったし……私達、男に耐性がないからこういう所に弱いんよね。
「ま、孫……」
「だ、大丈夫だよフェイトちゃん。プレシアさんがちょっとからかっただけだろうから」
取り敢えずなのはちゃん達は放っておいてプレシアさんの話の続きを聞くことにしよう。
「いくら調べても解るわけ無いわよ。それにあの子を捕まえるのは不可能ね」
「……詳しく教えてくれますか?」
「……レアスキルよ」
レアスキル……そういえば複数のレアスキルを持ってるって言ってたっけ。随分と珍しいこともあるもんやね。唯でさえレアスキル保持者は少ないっていうのに複数持ちなんて……
「どんなレアスキルなんですか?」
「……私が知っている限りでは時間停止と瞬間移動と言った所かしら」
「へ?」
なんやそのレアスキル。時間停止ってあの時間停止?時を止めるっていうんか……ありえんで。瞬間移動もどういうことなん?転移魔法とは違うんかな。
「多分まだまだ持ってるとは思うけど、この2つだけで捕まえるのは難しいだろうし、捕まえた後にもすぐ脱走されるわ」
「……でも、捕まえた後魔力を制限すれば……」
「そう、普通なら魔力を封じられれば脱走なんて出来ない。でもこの瞬間移動は別。魔力がなくとも使えるのだから……」
「な、なんでプレシアさんはその事を……」
いつの間にか復活しているなのはちゃんとフェイトちゃんもプレシアさんの言葉に耳を傾けている。
もし今の話が本当やったらあの店長さんとんでもない人になってしまう。
「色々調べたのよ。私の命を救ってくれた恩人のね……」
「それって、前に母さんが言ってた男の子の話?」
「ええ。本人は否定しているけど間違いなく彼でしょうね。あの時の子は……そう考えれば相手の肉体年齢を減らす……若く出来るっているレアスキルも持ってることに成るわね」
……成る程、ずっと前に言ってた実年齢と肉体年齢の差、プレシアさん60は超えてるらしいけど肉体は30代って言ってた事はこのことやったんや。
「面影もあった。年齢的にもあっている。再会出来たのは偶然だけどそれから色々と調べたのよ」
「そうだったんですね……でもレアスキルがあっても魔力が無かったら瞬間移動なんて出来なさそうですけど……
「普段、魔力を完全に抑えて働きながらレアスキル使ってる時点で無理だと思うわ」
つまり現状打つ手はないってことか……弱ったなぁ…
「まあ、何も出来ないことはないと思うけど」
プレシアさんは私の思考を予測したのだろう。なんだかそのまま心のなかで思ったことに対しての返答がとんできた。
「一体どうしたらいいかな」
「身内に引き込めばいいのよ!」
………帰ろか、二人共。