天使の飲食店   作:茶ゴス

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第7話

 それは突然のことであった。

 今日も仕事を終え例の店に向かい、店長であるあの子と語り合いながら遅くまで酒を嗜んでいた。

 

 少し前に自分の娘とその友人からあの子のことの相談を受け、色々と思い出したのが理由なのか、私はらしくもなく酒を呑むペースを上げていた。

 否定するあの子を否定するように。自分は確信を持って接しているのだぞと言うように。

 

 ただ、あの子の少し困っている顔を見たかったのかもしれない。

 ただ、何かを言い訳にして仕事のストレスを吐き出したかったのかもしれない。

 

 真相は自分でもわからない、ただ、今思うことは……

 

 

 

 

「気持ち悪い……」

 

 

 

 この吐き気をどうにかしたいということだった。

 飛び飛びな記憶に覚束ない足取りで自宅へと向かう。既に周囲の店は営業を終えているのだろう、普段とは違って見える光景にまるで自分が初めてこの場所を訪れているかのような錯覚を覚えてしまう。

 

 時刻は既に深夜の3時、飲み始めたのが7時ということを考えれば随分と長く飲んだものだ……

 

 

 何も私だけが悪いわけではない。あの子の作る料理、あの子の作る酒が美味しいのが行けない。

 確かに抑えはしなかったが、私の話を聞きながらトクトクと注いでくれる酒を断れるわけがなかった……

 

 

 帰る時にはあの子は送っていくか聞いてきたけれども流石に子供にそこまでされる筋合いは無いと断っておいた。

 

 それから店を出たはずなんだけど、あまりその後の記憶は無い。

 

 

 少し歩いて酔いも冷めたおかげで意識がはっきりしているのだろう。自身に襲いかかる吐き気と頭痛に悩まされながらも見覚えのないような道を歩く。

 

 

 

 

 いや、本当に見覚えがない気もする。もしかすると私は迷ってしまったのではないだろうか……意識がない間に知らない道に来てしまった可能性は十分にありえる。

 これは不味い。今日は仕事はないにしろ、休んでおかなければ明日の仕事に響いてしまう。昼間に寝ていたらアルフに文句も言われてしまうだろうし、早く帰宅したいところなのだが……

 

 

 

 

「本当に、どこなのかしら……」

 

 

 

 頭を振り意識をはっきりとさせる。

 まずは周囲の状況を確認しよう。もしかすればただ、いつもと違う街に困惑していて自分の知っている道なのに知らないと思い込んでいるのかもしれない……

 

 ほら、あの看板なんて見覚えが……

 

 

 

【海鳴商店街】

 

 

 

 

 

 

 

 

 目をこすりもう一度見てみる。

 いつも街で見かける文字ではないけどはっきりと読める言葉。娘の友だちの出身地でもある地球にある日本の言葉で書かれたそれは見覚えのある地名を指している。

 

 どうしようもなく酔っ払っているのだろう。どう考えたって夜も明けていないのに短時間でミッドチルダから地球に来れるはずがない……

 

 これは真面目に不味いかもしれない。取り敢えず24時間やっている青色の小さな店に入り、酔いを覚ますためにウコンの力というものを購入。それを持って近くにあった公園に入りベンチに座って購入したものを一気に飲む。

 

 

 

 

 

 

 そして頭を抱えた。

 

 

 私、普通に日本のお金で買い物したし、ミッドチルダにコンビニなんてある筈がない。

 

 何かあった時の為に色んな世界のお金を少しだけ持ち歩いていたのが幸いだったのだけれど、今ので自分が地球にいることが確定してしまった。

 

 

 理由はわからない。こんなことが出来るのは店長くらいだろうけど、あの子はこんな無駄なことはしないだろう。

 

 

 どうしよう、これじゃあ家に帰るの大変じゃない……

 

 

 

 

 

 

 

「また現れたね!偽物!」

 

「……母さん」

 

 

 

 

 

 

 ああ、自分は本格的にダメなようだ。上空からアルフとフェイトが降りてきたのだけど、アルフはいつも通りで問題はない。

 

 問題なのはフェイトの方だ……何故私の目には幼いフェイトの姿があるのだろうか……結論から言えば私の酔いが酷すぎるからだろう……

 

 

 

 

「覚悟しろ!」

 

「……五月蠅いわよ、頭痛いんだから大きな声ださないで頂戴」

 

 

 

 

 ああ、吐きそう。目の前のフェイトにそんな醜態を見せるわけにはいかないから吐くのは我慢してるけど、アルフの声がガンガン頭に響いて気持ち悪い。

 

 しかもこの気持ち悪さが一番希望のあった夢を見ているという選択肢を無くしてくれている。

 つまり目の前のフェイトは幻覚、もしくは酔っ払って幼く見えるっていう私の脳が異常をきたしているのだ。

 

 

 

「母さん?」

 

 

 

 何故か悲しそうな顔で此方を見るフェイトに私も少し悲しくなる。

 そうよね、こんな母親の姿見たら幻滅するわよね……

 

 死のうかしら……

 

 

 

「フェイトを惑わすな!」

 

「頭が痛いって言ってるでしょ!!吐くわよ?私が可愛い娘の前で醜態晒していいの?そんなに私の醜態が見たいわけ?」

 

「………は?」

 

 

 大声出して更に気持ち悪く……ああ、やばい。コンビニでついでに水も買っとくべきだった……

 

 

「アルフ、頼むから大急ぎで水を買ってきてくれないかしら……」

 

「あ、あんた一体何のつもり……」

 

「いいから早く!!」

 

「は、はい!!」

 

 

 直ぐ様その場を立ち去るアルフを見てふと考える。お金持っているのかしら……

 

 

 

「あぁ、気持ち悪……」

 

「え、えっと。母さん?」

 

「……どうしたの?フェイト」

 

「……母さん!!」

 

 

 

 急に抱きついてきてどうしたのかしら。もうすぐで20歳になるっていうのにまだまだ甘えたりないのかしら……

 あまり力を入れ過ぎないでくれると助かるわ。吐きそうだから……

 

 

 あれ?この子ってこんなに軽かったかしら。この間あった時はもう少し重かった記憶もあるのだけれど……

 

 

 

 

 ……何か嫌な予感がするわね……

 

 

 

「ねえフェイト、一つ聞きたいのだけどいいかしら」

 

「うん!どうしたの?母さん」

 

「貴方、今何歳?」

 

「えっと……9歳だけど…」

 

 

 

 酔いとは違う意味で目眩がした。

 

 いや、酔いすぎて幻聴なのかもしれないわ。

 

 

「今は新暦何年?」

 

「えっと……65年?」

 

 

 

 幻聴幻聴……

 

 

 

「プレシア!!金なかった!!」

 

「………」

 

 

 

 この幻聴は許せないわね……

 

 

 

「アルフ……母さん、私ので良かったら飲む?」

 

「勿論。ありがとう、フェイト。優しい子ね」

 

 

 

 やっぱりフェイトは天使だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……スピピピ』




本編に主人公が絡む前にまさかのプレシアさんGODに突撃。

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