ソリダオン   作:真将

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9.意志の有り方

 「ドノフさん。ここに鉱石置いておきます」

 「おう」

 

 デリックは『ドワーフ』のドノフの工房へ、鉱石を運んでいた。元々、頼まれていた物であり、デリックの『匈奴』での役割は、体格を生かした力仕事である。

 

 「ちょっと飲んでいくか?」

 

 ドノフは釜の火で温めた湯に、薬草を入れて薬茶を作っていた。自身の古傷と疲労にも効く飲み物であるのでシーザーから材料と作り方を聞き、定期的に飲んでいた。

 

 「あ、いただきます」

 

 近くの頑丈な箱に腰を下ろして、湯のみを受け取る。二人の身長差は一メートル近くあり、体格は比べるまでも無く、デリックの方が上だった。

 

 「何かあったのか?」

 

 何か、いつもと違うデリックの様子から、こちらの事情に詳しくないライナスに何か言われたのではないかとドノフは気にかけていた。

 

 「やっぱり、このままじゃダメだなって思うんです」

 「と言うと?」

 

 ライナスの言葉に、デリックは自分が『獅子』であると言う事と、それに伴った働きをしていないと思い始めていた。

 

 

 

 

 デリックは『獅子』として生を受け、産まれながらに『獣牙族』の中でも最強と言われる猛士の血筋を継いでいた。

 彼の兄は『魔の大陸』に暮らす、伯父の元へ向かい、『人の大陸』に名が届くほどの戦士として、今は【ナトゥーラ】でも高い実力と地位を持っている。

 

 『人の大陸』生まれだとしても、兄は誇り高く生きている。だが、デリックはソレが当たり前のように考えられなかった。

 『獅子』として最も強く強靭な肉体を持っていながら、デリックは戦う事に価値を見出すことが出来なかったのである。その臆病とも見られた彼の性格は、兄が集落を出た後で強く表れ始めた。

 

 父は、デリックを次期族長にしようと考えていたが、あまりに消極的な立ち振る舞いに、ソレを正そうと無理難題を押し付け続け始める。

 しかし彼にとって、そう言った物事は本心から避けていた為、ショック療法とはならなかった。

 強引な荒療治は、更に彼の考えを消極的に押し込める事となってしまった。

 結果、何よりも争い事に怯え、血などを見れば身動きが取れなくなる性格になってしまったのだ。

 

 そして、カルロの事で『人の大陸』の『獣牙族』の集落を回っていた単于に出会い、『匈奴』に来ないかと誘われたのである。

 

 “産まれつき決まっている事は仕方ないだろう。しかし、ソレとはいくらでも向き合える。後は……お前が、自分自身とどう向き合うかだ”

 

 単于は、デリックが『獅子』という理由で特別、扱いを変えたりしなかった。

 

 

 

 

 「単于さんは、平等に出来る事をやればいいって言ってくれたけど……やっぱり、それじゃダメだと思ったんです」

 

 『獅子』に生まれた事は変えられない。そしてやっぱり争い事も慣れない。

 けど、もし『匈奴』の仲間が危機にさらされたときに、自分だけ縮こまるのは嫌だった。

 

 「なら、週一の組手に参加すればいい」

 

 基本的には生活に必要な事を行っているが、サーシャの進言によって単于が希望者と組み手を行っていた。しかし業務に支障が出る為、毎日ではなく週に一回と決めている。

 

 「まぁ、サーシャが言い始めた事だが、カルロや孤塁も参加している事は、知っているだろう?」

 

 事の始まりはサーシャが単于に突っかかった事だった。しかし結果は惨敗。延々と転ばされ続け、それ以来意地になっていた。

 未だ一度も単于を地に手を着かせる事すら出来ず、それを見て参戦したカルロと孤塁の二人でも相手にならない。

 三人同時に向かった事もあるが、それでも結果は変わらない。

 

 カルロと孤塁は、純粋に単于の強さを讃えたが、サーシャだけは歯を噛みしめて本当に悔しそうにしていた。

 その後、時間が余った時は、彼女は自身で出来る限り鍛えているようで、その戦闘力は肉弾戦を得意とする『獣牙族』と『戦鬼族』にも引けを取らないモノになっている。

 

 「……最初は見てるだけにします」

 

 前に、無理に突っ込んだサーシャが頭を切る事故を起こしており、その時の流血がトラウマの一つだった。

 

 「それだけでも十分な進歩だ」

 

 ドノフは苦悩しながらも進む意志を見せた若人の事を、微笑ましく思った。

 

 

 

 

 「いいか? 治療する方法は『魔族』ごとに違う。特に『ラミア』や『スキュラ』といった種族は標準的な治療とは大きく異なる」

 「はい」

 

 『黒龍族』のシーザーは、勉強熱心な『吸血鬼』のフランツに『魔族』関係の医療を教えていた。

 

 「『獣牙族』や『鳥爪族』は人間とさほど処理は変わらない。そして、鋼鉄並みの高度の表皮を持つ『戦鬼族』や、強靭な鱗を持つ『竜古族』は自然治癒能力と生命力は高い。逆に、『ラミア』や『スキュラ』はそのどちらとも言えない」

 

 蛇の下半身を持つ『ラミア』は鱗を持つが、皮膚よりは固い程度なので標準的な刃物などでは傷を負う。

 『人間』よりは治癒能力は高いが、移動する為に下半身全体の筋肉を使わなければならない事から、傷を手当てしても再び傷が開き易いのだ。

 

 「特に『ラミア』は縫う処理は危険だ。彼女たちの下半身の筋肉は、殆ど性質と筋が同じ。その為、縫ってしまう行為は傷を増やす行為になってしまう」

 「それでは、どう手当てすれば?」

 「傷口を覆い、剥がれぬようにガーゼとテープで固定する事が標準的だな。緊急事態にはその限りではないが」

 「なるほど……臨機応変な対応が必要ですね」

 「ああ。『スキュラ』なんかはもっと特殊だ。彼女たちは足の怪我は無視していい」

 「え?」

 「一日で新しい脚が生えて来るからな。気にするのは上半身の怪我のみだ。この辺りは他の『魔族』と変わらない。とりあえず、基本的な事を頭に叩き込め」

 「はい」

 

 シーザーは机から鍵を取り出した。『赤沙』の屋敷内の二階にある、本を管理している部屋で使う鍵だった。

 

 「あまり自由に見れるようにする物じゃないと単于から言われていてな。本部屋の中にある一番奥の引き出しの鍵だ。儂は頭に入っているが、知る限りの医療記録を書き出した本を仕舞ってある」

 「はい」

 「基本的な事だけだが必要な事だ。他の処理は、次に『アウローラ』に行った時に手伝ってもらう」

 

 そう言いながらシーザーは鍵を渡し、フランツは大事そうに受け取った。

 

 「単于以外の者には見せるな。特にデリックとトマにはな」

 「すみません」

 

 そこへ、『妖精』のアリスが訪れた。彼女は屋敷内の連絡係を務め、薬関係を扱うシーザーから指示を貰っている。

 

 「クレールさんが、相談したいことがあるそうです」

 「そうか。ありがとう、アリス」

 

 シーザーは立ち上がると、クレールの居る食堂へ向かう。

 

 「フランツ、彼女は先ほど上げた例よりも、更に特殊だ。ユーリは治療法を知っていたが、実際に見て、聞いて、考える事も大切だ」

 「わかりました」

 「え? なんですか?」

 

 一人、状況の解らないアリスはフランツに説明を求めた。

 

 

 

 

 「【賢者】ですわ」

 

 単于とウィオラは食堂を後にすると、エントランスに向かって歩いていた。そして、彼女は言い残した事柄を思い出したように補足する。

 

 「今度、『アウローラ』に来るのは、【勇者】が最も信頼する従者の一人――【賢者】のファーナー殿ですわ」

 

 【賢者】。この世の理を全て理解した者が名乗る事の出来る称号であり、ソレを名乗る者は世界に三人しか存在して居ないハズだった。

 

 「奴が『山の隠者』か?」

 「さぁ。詳しくは解りませんが、【賢者】に匹敵する力を持つことは間違い無いようですわ」

 

 ファーナーは『理』ではなく、『光』と『闇』の魔法を得意とする魔道士であった。その真価は疑似人形軍団と呼ばれる、自らの命令を忠実にこなす“兵士”を生み出す能力であるらしい。

 

 最大1000対の兵士を同時に生み出す事が可能で、エーテルが尽きない限り、無尽蔵に作り出せる。単身で国を落すことも可能なほどの能力を持ち合わせている。

 

 「『アウローラ』も警戒されているようだな。その場で望の返答が得られないなら、そのまま戦争に移るつもりかもしれんぞ」

 

 しかも、【勇者】の従者に手を出したと知られれば、間違いなく反逆国家として世界中から非難を受ける事になる。

 『アウローラ』も十近い周辺諸国を統治する大国であるが、他の大国を敵に回すほどの戦力は持ち合わせていない。

 

 「クラリスも動くだろうが……アイツでは手が足りないだろう。ハザードは立場を押してくるかもしれん。グランファスもそうなったら、傍観はしない」

 

 二代目【勇者】の仲間たちが割れる様な戦争に発展すれば、『人の大陸』は本当に立て直す事が不可能になる。実質、滅びと言っても過言ではない。

 

 「解っています……出来るだけ、戦争になるような事は避けなければなりませんわ」

 「綺麗事では現実は生きていけない。全てを救おうとしても、救えるモノなんて何一つ存在しないんだ」

 「失礼。わたくし、貴方が自分に言い聞かせているように聞こえるのだけど?」

 

 少しだけ感情の入った単于の言葉にウィオラは聞き返した。

 

 「気の所為だ。だが、二代目【勇者】の仲間が出て来るとなると、三代目【勇者】も無視できまい」

 

 何が引き金で、『人の大陸』が滅ぶか解らない。一番良い選択は“人の意志”が一致団結することだ。

 かつて、二代目【勇者】は、強く、揺るがない意志を世界に証明し、『人』も『魔』も越えて一つになる事で二代目【魔王】討伐を達成した。

 

 しかし、『魔族』を強制的に敵として排除するやり方――三代目【勇者】のやり方には……とても賛同できない。

 

 「国が亡べば、多くの民人が路頭に迷う。奴隷に落ち、他に蹂躙される」

 「解っていますわ」

 「なら、オレに答えを求めるな。何も救えなかったオレにな」

 

 ウィオラが今回わざわざ出向いた理由は、単于の賛同と協力であり、それが達成できれば全ての問題が解決するハズだった。

 女王は単于の事に関して、気難しい人なので賛同は難しい、と言っていた。

 

 だが、ウィオラとしては、過去に、この『赤沙』の屋敷に世話になった事もあり、条件と状況が揃えば彼も協力してくれると思ったのだ。

 しかし、立場を持って彼と話して解った。彼は既に……全てを諦めている。

 

 「なら教えてください。貴方は……何をそこまで自分を追いつめているのですか?」

 「…………知ったところで、何も変わらない。いいか? オレはもう、この世界に諦めてるんだ」

 「なら、この場に【勇者】が来たらどうでしょう? 貴方は戦いますか?」

 

 『魔族』殲滅を唱えている【勇者】にとって、この場所は間違いなく標的となる。

 このまま、何も変わらない状況が続くと、遠くない未来に、ソレは確実に訪れるのだ。

 

 「遅いか、早いかの違いだ。だが、そうなるなら……盛大に歓迎するつもりだ」

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