ソリダオン   作:真将

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11.迫る悪意

 「ドノフ。ちょっといいか?」

 

 『黒龍族』のシーザーは『ドワーフ』のドノフの元へ訪れていた。その理由は単于の抱る症状の事である。

 

 「単于の事だ」

 

 ドノフは切れ味の悪くなったと、ロットに押し付けられた包丁を研いでいたが、親友から出た単于に関する事柄作業を止めた。

 

 「最近、彼から何か……造る事を言い渡されなかったか?」

 「ああ。だが、何を造っていたのかは言えん」

 

 ドノフは単于に厳守された事を優先する。横に置かれた頑丈な箱にソレは入っているのだ。魔法を追加送付した武器――『無月』がその中で、外にエーテルを出さない様に封印されている。

 

 「彼の言伝なら仕方ない……儂も全てを知ろうとは思わない。だが……もし彼の容体に、その“造った物”に関わっているのなら、お前の方で使用を止めてほしい」

 「そんなにひどいのか?」

 

 シーザーは無言で頷いた。

 単于は産まれつき、『魔族』に匹敵するほどの強いエーテルの取り込む特性を持ち合わせていた。

 属性は風。数あるエーテルの中でも、最も扱いの難しい部類であった。

 

 本来、『人間』にそのような取り込み特性を天性で持つ者は多く無い。

 そして持っていたとしても、幼少の内に封じるような処置をし、心身共に整った年齢で改めて解放し、使役する術を学ぶのだ。

 

 それが、一般的な手順。特に『人の大陸』で強い力を持つ者達は、産まれつきそう言う素質を持った者達が大半である。

 単于も、その特性を持っているが、彼は過去に一般的な手順を受けたと言っていた。そして、心身共に問題ないと言う年齢で重点的に己の風のエーテルと向き合い、学んで、体得したと言っていたが、彼の特性は更に加速した。

 

 自らに取り込み続けるエーテルが、年々増加し始めたのだ。

 

 『人間』では『魔族』のようにエーテルに耐えられる強靭な肉体を持たない。空気を入れ過ぎた風船が破裂してしまう様に、単于自身も、増加し、取り入れ続ける風のエーテルに身体が耐えられず、いずれ死を迎える。

 

 シーザーは暫定的に軽減する方法として、『擬人』に慣れない『竜古族』が使う、内部エーテルを発散する薬を調合して渡していた。

 だが、それでも気休め程度でしかなく、二年ほどで追いつかなくなり、今では『天使』の秘術であるエーテルの結晶化に頼るしかなかった。

 

 「ユーリに頼んで結晶化しているが、彼女に負担がかかりすぎる。半年前の結晶化では、三日も危篤状態になった事は知っているだろう? 次は、本当に命を落とすかもしれん」

 「その事は単于に―――」

 「伝えておらん」

 

 しかし彼は察しているだろう。だが、それを口に出して伝える事はユーリから止められていた。

 言わなければ誤魔化せる。だが言ってしまえば……今後彼は、絶対に結晶化を行わない、と言うからだ。単于はユーリよりも間違いなく自分の死を選ぶだろう。それだけは、ユーリ自身が何よりも望まない。

 

 「余っている結晶が減っていた。恐らく武器に使ったのだと思ってな」

 「読みは当っている」

 

 『無月』に使った風の結晶は、何所から調達したのか不思議だったが、そんな経緯があったとはドノフは知らなかった。

 

 「だから、その武器を単于に使わせない様にしてくれ。下手をすれば、使った時点で周囲の風のエーテルを直接取り込み、最悪その場で――――」

 

 と、シーザーは扉の前に感じる小さい気配に気が付いた。

 

 「アリスか」

 「あ、あの……ご飯でお呼びしたんですけど……ごめんなさい!!」

 

 シーザーとドノフの会話を『妖精』のアリスは、ほとんど聞いてしまっていた。

 

 「いや、こっちも不注意だった。ただし、今の話は他言無用で頼む。皆に余計な心配をかけたくない」

 「は、はい!」

 

 皆が慕い、頼りとしている存在である彼が、近い内に命を落とす。それだけは絶対に避けなければならない。単于の死は、皆、何よりも望まない結末だ。ソレを回避するのは医者である自分の役目であるとシーザーは責任を負っていた。

 

 「食堂へ行こう」

 

 

 

 

 「4月19日……うーん。何の日だろう?」

 

 就寝前。アリスは『ラミア』のシャルル、『黒龍族』のアンネ、『猫』のジェフリー、『スキュラ』のトマと同じ部屋だった。

 そして、アリスに誕生日が出来た事を食堂で聞かされて、その日が来たら盛大に祝う事で盛り上がったのだが、その就寝前にシャルルが疑問を感じたのである。

 

 「単于さんが言うなら、なんとなくって事は無いと思うからなぁ」

 「サーシャとフランツも誕生日が思い出せなかったから、1月1日と12月25日にしたよね」

 

 寝る前の絵本をトマに聞かせていたアンネはシャルルの疑問に補足した。

 

 「サーシャは、不満がってたけど、あの子、毎年本気で喜んでるよね」

 「トマは! 5がつ5にち、です!」

 『わたしは5月6日』

 

 トマは元気に、ジェフリーは紙に書いて自分の誕生日を伝える。

 

 「4月19日……何かの祝日でもないし……うーむ」

 「誰かの誕生日……とか?」

 『ありえるかも』

 「ぜんうの、おにーちゃんにきいてくるー!!」

 「ちょっ! トマ、ストップ!!」

 

 部屋を出ようとしたトマをシャルルは尻尾を巻きつけて持ち上げる。そのまま、ベッドの上に降ろした。

 

 「なにをするー!」

 「トマ。そう言うのは直接聞いたらダメ」

 

 アンネは注意する様にトマへ説く。

 単于は普段から自分の事を聞かれると誤魔化しているが、あまり良い顔をしない。本人が話さない限り、過去を詮索しないのが『赤沙』の暗黙のルールなのだ。

 

 「トマも、自分の嫌な事だったら聞かれたくないでしょ?」

 「やー」

 「なら、単于さんが話してくれるまで待とう?」

 「はーい」

 「皆さんまだ起きてたんですか?」

 

 すると、扉が開いて『天使』のユーリが姿を現した。彼女は日の最後の役割である、『赤沙』の屋敷内の戸締りと作業場のチェックをしていたのである。

 

 「うお、もうこんな時間かぁ」

 

 この部屋の面子は『魔族』の中でもさほど睡眠を気にしない者たちであるので、寝るタイミングが遅くなりがちだった。

 

 「もう消しますよ」

 

 と、入り口の近くにある光のエーテルを操作して遮断しようとすると、

 

 「あ、ユーリ、一つ聞いてもいい?」

 

 シャルルは単于と付き合いの長いユーリなら、何か知っていると思い何気なく聞いた。

 

 「4月19日って、何の日か知ってる?」

 

 その日付を聞いたユーリの表情が変わった。食堂では驚いた表情を単于に向けていたが、やはり二人はこの日について何か知っているのだろうか?

 

 「……そうですね。あの方にとって、とても大切な日です」

 「あ……ごめん。ちょっと軽率だった」

 

 シャルルはあまり見せないユーリの悲しい笑みを見て、彼女と単于にとって何か強い意味の日であると察した。

 

 「いえ、興味を持ってくれてありがとう。きっと、単于様の方で説明してくれると思います。その時まで、待っていてください」

 「うん。本当にごめんね」

 

 ユーリはいつもの笑みを浮かべて一礼すると、全員がベッドに入るのを確認する。

 おやすみなさい、と言うと照明を落とした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 『匈奴』から帰りついて二日後。

 『アウローラ』の主都へ戻ったウィオラは、一週間後の【賢者】の訪問をどう切り抜けようか考えていた。

 今【賢者】は『アウローラ』に北から入った。

 『匈奴』を横切る形になるだろうが、極寒の地の奥地に人が住んでいるとは思わないだろう。

 

 残り五日もしない内に、この王都へたどり着く。その時までに、せめて本国内の『魔族』を引き受けてくれる諸国を探さなければならない。

 

 「一時的でも良いのだけど……」

 「姫様! 大変だぁ!!」

 

 考え事をしながら廊下を歩いていると、鎧を着たライナスが走ってくる。

 

 「ライナス! 夜の宮殿を、大声を上げて走り回るような真似は止めなさい!」

 「す、すみません! と、大変っす! これ!」

 

 ライナスは、先ほど届いた郵便を見て急いで持って来たのだ。それは何の変哲もない封書だが、魔法で封をしてある特殊な物だった。そしてその印は―――

 

 「【勇者】の印!?」

 

 印は【勇者】のモノだが、差出人は国境付近を通過したばかりの【賢者】からである。内容を読むと、思わず驚愕した。

 

 「……ライナス!」

 「うっす!!」

 「急いでイグナートを呼びなさい! わたくしの親衛隊を招集して、中庭へ整列!」

 「う、うっす! 姫様はどこへ?」

 「女王殿下に出動許可を取ります。いい? わたくしの親衛隊だけ集めるのよ?」

 「了解っす! 隊長ー!!」

 

 ライナスは走っていく。イグナートは王宮内の見回りをしているハズ。彼の声なら、すぐに捕まるだろう。

 ウィオラは、乱暴に手紙を握る。そして、早足で女王の書斎へ向かった。こんな夜に不躾だが……まだ起きているハズだ。

 手紙の内容は流し読みだが、間違いのない単語はいくつかある。

 

 【勇者】の思想に逆らったため、ヴォーグ村を粛清。地図から抹消せし。

 『匈奴』と呼ばれる国に『魔族』が居るとの情報から、調査と粛清に向かう。

 貴国も【勇者】の思想に賛同するならば、『魔族』討伐に賛同を願い出る。

 

 「……本当に、世界はどうしてしまったの?」

 

 この情報を即日で『匈奴』に伝える術は無い。

 しかも、この手紙は一日以上かけて届いた。つまり、既に【賢者】は『匈奴』に入っている可能性が高い。

 ウィオラは女王の書斎の前に立つと、見張りをしている兵の静止に、緊急事態と告げて、その扉を開けた。

 

 

 

 

 深夜より少し進んだ時間帯。

 『匈奴』では雪が降り始め、少しずつ風が出て来ていた。その危険な時間帯と天候の兆候にも関わらず、『匈奴』へ足を踏み入れる存在がいる。

 

 その場に創り出された鎧姿の500の“兵士”。

 

 【賢者】ファーナーは、その最後尾の馬車にて、寒さと強風を引き起こしている、風のエーテルを周囲のみ操作して自らにかかる吹雪を一時的に無力化していた。

 そして、『魔道機人』のソルガは、500近い“兵士”の先頭に立ち陣頭指揮をとる。

 

 「ソルガ。まずは、先行したまえ。200の指揮権を渡そう」

 「解りました。全体前進。後に続け」

 

 目指す先は、17つの『魔族』の反応が固まっている場所。

 彼らは20キロほど雪原を進んだ先に在る、一つの屋敷――『赤沙』へ向かって進軍を始めた。




次回予告

 「全員に告げます。わたくしたちは……わたくしたちの意志を貫くのだと、世界に知らしめましょう!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 前方には200を越える敵の兵士。
 進行してくる敵に対して、単于は力尽きたように身動き一つしない。
 その地獄でアリスは、彼を連れて何とか、この場所から脱出しようとしていた。

 「単于さん……単于さん!!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 誰かが呼んでいる……誰だったか――――
 ……25年の人生で……最も覚えている事があった……
 それは……五年前に失った……もう取り戻せない……美しい記憶だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ソリダオン 第11話『悪夢の終わり』
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