ソリダオン   作:真将

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14.死の願望

 『極限寒気』

 

 『匈奴』に連日起こり続ける寒気と強風はそう呼ばれる術であり、【魔王】にかけられた“呪い”だった。

 

 かつて『匈奴』は、視界いっぱいに伸びる地平線と、吹き流れる穏やかな風に包まれた広大な草原の大地だった。雪を見る時期は寒気だけで、よほどひどい時期以外は高い積雪となる事は殆ど無い。

 国も多数の部族がそれぞれで身を寄せ合って暮らしており、小さな小競り合いがあっても、大きな争いは起こらない、比較的、平和な国だった。

 

 『匈奴』の民は皆、遊牧民。馬と共に生き、血肉となってくれる獣たちや、大地の恵みに感謝する。

 『人間』の旅人には退屈な風景が続く大地だったが、『魔族』にとっては居心地のいい場所だと褒め称えられるほど、偏屈な場所でもあった。

 多種多様の『魔族』と『人間』は、『匈奴』で、笑って、生きて、悲しみ、『人』も『魔』も隔てない共存の縮図がそこには存在していたのである。

 

 その草原を取りまとめる王は、代々“単于(ぜんう)”の名を継ぐ事が決められており、総民族長として、時に民の指針となる存在なのだった。

 

 

 

 

 確か……最初に旅に出た理由は『匈奴』を救う為だった。

 【魔王】によって『匈奴』にかけられた“呪い”。

 それを解く為に【魔王(やつ)】の命を目指した。物好きな仲間と共に、多くの大地へ旅をした。

 

 笑う余裕なんて無かったし、背負っている『匈奴(そんざい)』も大きかった。

 呪いによって『匈奴』を追われた部族を……再び草原に戻したい。その思いだけで戦い、最短距離で【魔王】を目指した。

 

 だが、それでも毎回無事に事が運ぶわけでは無く、【魔王】の配下との戦闘に、瀕死の重傷を負い、『天使』の住む『白の都市』へ運ばれた。

 身動きの取れない身体に、焦る気持ちが日々大きくなる。その様子に見かねたのか、『天王』はオレを呼び、ある場所へ連れて行った。

 

 「こんにちは、単于様」

 

 『白の聖域』と呼ばれる、その場所で……初めてアイツと出会った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 魔法には多くの定義が存在し、主に三つの種類に分別されていた。

 

 『理魔法』『光魔法』『闇魔法』

 

 この中でも、比較的に人の身近に存在し、必要不可欠となっている魔道理論は『理魔法』である。

 

 火、水、土、風。

 

 『理魔法』は更にこれらの属性に分類され、その中で最も扱いの難しいのが『風』だった。

 火、水、土は、目に見えて学ぶことが出来るので比較的取り入れやすいが、風は不可視の状態から学ぶため、極めた者は少ない。

 

 風のエーテルを、眼と感覚で捉えて行使する代名詞が『鳥爪族』である。

 彼らは飛行の際には、風のエーテルを身に纏う事で、最小限の負荷で自由自在に空を駆けることが出来るのだ。

 更に、グリフォンなどと言った、飛行を行う“魔物”は図らずとも、本能で風のエーテルを使用している。

 

 未だに空の移動手段や、航空戦力が『人の大陸』に乏しい理由は、風のエーテルの“完全制御の理論”が成り立たない事にもあり、ソレを行使する者達も殆ど感覚で使用しているのだ。

 

 

 

 

 『匈奴』へ不正侵入を行っている敵を討つ。

 敵は大軍だが、吹雪によって強く吹き荒れる風は自分に大きな優位性をもたらしている。

 単于は自らの風のエーテルを解放した。

 すると、向かって来る敵の“兵士”たちは限定的に襲った強風に、捲れ上がるように吹き飛んでいく。

 

 「…………」

 

 目印となる風の結晶で、彼はソレの位置を理解していた。

 単于は少し歩くと、その地点に手を突く。そして、打ち上がるように周囲の雪の中から無数の何かが飛び出してきた。

 刀である。飛び出したのは抜身の(ぶき)だった。強風の中を舞うと、雪に混じって穴の中に刃の雨が降り注ぐ。

 

 「―――」

 

 50本ほどの、刀の雨に晒された“兵士”たちは、何体か貫かれ機能を停止すると、風にさらわれるように消えていく。

 

 エーテルだけで創られた、疑似的な存在である“兵士”達は、行動不能になると情報を与えない様に自壊する能力がついているようだ。

 その場に残ったのは、雪地に突き立っている刀だけ。それを――

 

 「…………」

 

 単于は走る。

 そして、一番近くに降ってきた刀を掴むと、まだ行動可能な槍兵の首を斬り落とし、その身体に刺さっている刀を回収する。

 

 両手に一刀ずつ持ち、左右から命を狙って突きだしてきた槍を、片方は上に弾き、もう片方は下に弾いた。

 その二体の槍兵に持っている刀を手を交差する様に投げる。鉄を越える強度の鎧を物ともせず、左胸を貫くと、“兵士”は消え去った。

 

 風のエーテルの特徴の一つである、攻撃力の超過。

 斬撃の効果を引き上げ、更に物理攻撃距離以上の両断を可能にする。本来は使い慣れた武器や、魔法効果を送付した、使い込んだ武器の方が対応しやすい事で知られている武器強化魔法だった。

 

 だが単于は、握るのも初めての武器でも、刀ならば天性の『風』の素質によって、問題なく魔法効果の送付を可能にしていた。

 

 「…………やはり――」

 

 『魔道機人』のソルガは、一振りで確実に3体以上屠っている単于の戦いぶりに戦慄する。

 

 人は、いかに鍛えようとも5人以上とは、まともに相手は出来ない。

 遮蔽物や障害物の多い場所ならばその限りでは無いが、こうも拓けた場所で、常に囲まれながら戦うなど正気を疑う。

 

 しかし単于は、その常識に囚われていない。

 

 彼は目の前の敵を見てはいるが、死角からの攻撃を全て見ずに躱し、最も自分の命に近い“兵士”から順に消しているのだ。

 刀が折れるか、敵に投げれば、近くの刀を拾ながら移動し、いつでも囲いを抜けられる位置を常に陣取っている。

 

 多数の戦いに慣れているというレベルではない。まるで上から全体を見て、最前の動きをしているような……二つの眼で正面しか見えない『人間』とは思えない動きだった。

 

 「意識が別を向いていますよ?」

 

 単于へ気を取られていたソルガへユーリの声が届く。

 

 光の輪。『天使』のユーリの頭上には、煌々と光る円が浮いていた。

 背には猛禽類の物とは違う、白い羽を揃えた美しい翼が開き、彼女の全身も、淡く少しだけ発光している。

 持っている刀も、その身の光が移るように発光する。ソルガは滅多に見る事の出来ない、『光のエーテル』の送付を目の当たりにしていた。

 

 「知っていますよね? 『天使』は――」

 

 ソルガは見誤った。『天使』と対峙したことが無かった事も……光のエーテルを、その身に纏った時の効果も全て知らなかった故のミスである。

 

 光のエーテルによる、短距離の転移移動。

 

 『天使』がエーテルを使う際に、頭上に展開される輪――『天の輪』。これは天使特有の秘術であり、周囲のエーテルを集める為の蓄積術だった。

 『天の輪』の出ている『天使』は短距離の転移移動を可能とし、その高密度のエーテルを武器に宿せば、一撃で大陸を割るとも言われていた。

 

 しかし『天使』の中でも『天の輪』の持続は困難を極め、熟達した者以外では発動する事も不可能であり、使った後の消耗も大きい。

 現在ユーリは『天の輪』を展開しているが、この程度なら通常の業務と変わらない疲労である。彼女もまた、『天使』の中では、類稀なる“才”を持った天才であるのだ。

 

 「敵に回してはならないと……」

 

 時間にして瞬きをする間もなかった。ソルガの目の前に居たユーリは、一瞬で彼の後ろへ転移移動し、刀を横に薙いでいた。

 

 刀身に高密度のエーテルを集め、疑似的に何物も防ぐことのできない武器へと昇華している。『天の輪』を展開した『天使』と敵対した瞬間から、ソルガの敗北は決まっていたのだ。

 

 「ワタシの負けだ――」

 

 ソルガから光が溢れ出す。

 それは、ユーリを殺すモノではなく、彼女のエーテルがソルガに触れて逆流したモノだった。

 

 「!?」

 

 逆流する自らのエーテルに包み込まれると、圧縮する様に光は収束し、一つのひし形の黄色い水晶が雪の上に落ちる。

 

 「もし、貴女がただの刀で、ワタシの首を落したなら、な」

 

 『封印機関』。ソルガに装備されている隠された機能の一つだった。

 エーテルその物を結晶化し、設定によってはその発生体を結晶の中へ閉じ込める事も出来る。

 

 『魔族』を廃止する【勇者】にソルガが見逃された理由。それは、【勇者】にとって有益となる『魔族』を捕獲する事でもある。

 この方法で、ヴォーグ村では数多くの『妖精』を結晶化して捕獲していたのだ。

 

 「最強の攻撃が、常に最良とは限らない。焦りが出たな」

 

 ソルガは結晶となったユーリを拾い腰のパーツに引っかける。

 

 そして、150の“兵士”と戦っている単于へ、死角から奇襲する―――

 

 

 

 

 単于は気づいていた。

 向かって来るソルガの気配からユーリは負けたと察している。だが、目の前の“兵士”からは眼を離すわけにはいかなかった。

 

 前方より向けられる、武骨な『殺意』達。単于はソレを感知し、どこから発せられているのかを感じ取ることが可能だった。

 これは幼少より、彼が生きる為に得た技量であり、誰でも持っているモノではない。

 

 エーテルの感知でもなく、気配の察知でもない。他にはない、独立した感知感覚を単于は獲得しており、戦場でも完璧に機能している。

 四方から向けられる『殺意』。特に背後から強大な『殺意』が向いた事で、ユーリは敗れたのだと感じ取った。

 

 「…………」

 

 消えない……

 七年前に始まって……五年前に終わった事だ……

 なのに……なぜ……悪夢が消えない……?

 悲しみが……消えない……?

 終わらせてくれ……誰でも良い……オレを――

 

 「殺してくれ……」

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