ソリダオン   作:真将

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15.あるべき魂

 吹雪は更に強く、『匈奴』を支配していく。まるで、怒っているかのような酷い荒れ模様だった。

 

 「…………ノワール!!」

 

 『シランス』の洞窟前で、二人が戻ってくる様子を外で待っていた『吸血鬼』のサーシャは、誰も乗っていない黒馬のノワールを見て声を出す。

 

 「帰ったか!」

 

 その声に、洞窟の中からゾロゾロと出て来るが、

 

 「二人ともいない……」

 

 落胆するサーシャは、まだ終わっていないと吹雪に包まれた『匈奴』へ視線を向ける。そして、

 

 「待て」

 

 サーシャが迷いなく雪原へ向かおうとしたところで、『ドワーフ』のドノフが静止する。

 

 「今の『匈奴』は、単于なしでは歩き回れん。雪原で迷い、死ぬまで凍える事になるぞ!」

 「……でも! じっとなんてしてられないわよ!!」

 

 今まで、こんなに『匈奴』が荒れた事はなかった。上手く事が運んだとしても、単于の手に負えない天候かもしれない。全てが上手く事運んで、今は身動きが取れずにノワールだけ、こっちに寄越したとも考えられる。

 

 「なら、行くしかあるまい」

 

 そこで、説得力を持つ発言をしたのは『鷹』のクレアだった。彼女も風のエーテルと共に生きて来たので、単于の行っていた事には心得がある。

 精度は彼よりも劣るが、同じ方法で準じて状況を探っていた。

 

 勘違いかと思えるほどに異常な反応を感じ取ったが、同時に単于の反応も感じとっているので間違いない。

 彼は、一人で100以上の反応と戦っている。

 

 「あたしは行くわよ!」

 

 サーシャは向かう意志を見せるが、一人では単于の戦っている地点に辿り着く事も出来ない。

 

 「俺も行くぜ」

 

 彼女に賛同したのは『狼』のカルロだった。彼はこういう劣悪地帯の進行には慣れている。

 

 「久しぶりに、血が滾(たぎ)っているんだ。発散させないとな」

 「当然、私も行こう」

 

 クレアは進むにしても戻るにしても、自分の風のエーテルは役に立つと告げた。

 

 「私も同行する」

 

 次に声を上げたのは『白竜族』のクレールだった。彼は、今の状況と過去の悲劇を重ねていたのだ。眼が見えなくても、『擬人』を解けずとも、戦う事はできると告げる。

 

 「俺も行こう」

 

 『戦鬼族』の孤塁(こるい)も前に出た。この時の為に、繋ぎとめた命であり、この場こそが役に立てる時だと悟る。だが、

 

 「孤塁(こるい)、お前は残れ。いざとなれば、必要になる」

 

 彼を止める様にドノフが前に出る。ドノフは、孤塁のここに居る理由を知っている。それ故に残った者達に着いていて欲しいのだ。

 

 「やれやれ。代わりにワシが行くわい」

 

 そして、代わりにドノフが後頭部を掻きながら聞き分けのない若者たちを告げた。まともに戦場に出た者が、クレールとカルロしかいない状況は危険すぎると判断していた。

 

 「シーザー。皆を落ち着かせて、待機していてくれ」

 「待って、私も行くよ!」

 「あたしも!」

 「私も……」

 「トマも!!」

 「ボクも!」

 『わたしも……』

 

 他の者達も声を上げるが、全員を連れて行くわけにはいかない。

 

 「アンネ、お前の義肢は長時間の寒気に晒されると凍傷になる。トマと一緒に待っててくれ」

 「……解りました」

 「うー」

 

 ドノフは『黒龍族』のアンネと『スキュラ』のトマを説き伏せた。足手まといになると二人は察したのか、彼の言葉に従う。

 

 「ロット。君は何時でも食事を出せるように用意をしていてほしい。単于殿に“美味い”と言わせるのだろう?」

 「……わかった」

 

 クレールは『白竜族』のロットが相当無理をしている事を察した。今の状況は彼女の持病に強く作用している。何もしていないのに息が切れて、顔色がかなり悪い。

 

 「フランツ、お前も残れ」

 「何故ですか!」

 

 ドノフの言葉に『吸血鬼』のフランツは下がらない。彼もじっとしては居られないのだ。

 

 「もし、誰かが怪我をして戻ってきた場合だ。一人でも多く、医療の知識が必要だ。医者が怪我をしては意味が無い」

 「…………わかりました」

 

 悔しそうに俯くが、その頭をサーシャが撫でる。

 

 「アンタは待ってなさい。ユーリと単于は、ちゃんと連れて帰るから」

 「やれやれ。じゃあ、私も御留守番しますか」

 

 『ラミア』のシャルルは、自分も足手まといになると告げて引き下がる。

 

 「お腹冷えるからねぇ。それに、チビ共をアンネだけに任せるのも心配だし」

 

 シャルルは『猫』のジェフリーとフランツを両手に掴まえた。

 実際は『ラミア』特有の“赤外線視界”は、この吹雪でも有効に機能する。もし、先に向かった者達が単于たちの後を追う形となった場合、シャルルの能力が最後の砦なのである。

 

 「ごめん。まかせる」

 「任された。まぁ、代わりにサベットでも連れて行ってよ」

 

 シャルルは横目で『魔道機人』のサベットを見る。

 

 『我はそのつもりだ。単于殿の位置は、少し近づけは範囲に捉えるだろう』

 「シーザー、すまんが」

 「医者の儂が『赤沙』を離れるわけにはいかんだろう。残りの者は儂が看ておく」

 

 『黒龍族』のシーザーは皆の帰りを『シランス』で待つことに決めていた。本当は一番に駆けつけたい様子だったが、医者として、それだけは絶対に出来ないとも理解していた。

 

 「ノワール。すまんが、もう一度行ってもらえるか?」

 

 黒馬のノワールは状況を理解しているように鼻を鳴らす。

 

 「よし、ノワールに荷台をつける。それまで、すぐに出れるように各々準備しておけ!」

 

 

 

 

 ドノフは工房で使える武器を選別していた。

 単于が使える武器もだが、最悪サーシャやクレールも扱える武器を選ばなくてはならない。

 

 「何を突っ立っている?」

 

 選別しながらも、背後に立つ『獅子』のデリックと『妖精』のアリスに気が付いていた。

 

 「ドノフさん……僕も……僕も行きます!」

 「わたしも……連れて行ってください!」

 

 デリックとアリス。二人は戦える資質は持っていない。戦いを本能的に拒絶するデリックと、戦闘力を一切持たないアリス。

 戦うには足手まといになるかもしれないと考えた者は皆、留まる事を選んでいた。

 しかし、この二人は決心していた。絶対に足手まといにならないと。

 

 「デリック、クレアの話だと戦う可能性が高い。それでも行くのか?」

 「……僕は、単于さんを見捨てられない。戦えなくても……助ける事はできる!」

 「……アリスはどうしてだ?」

 「……え?」

 「え、じゃない。『妖精』は捕まればワシら以上にまともな扱いは受けん。それでも良いのか?」

 

 きつい言い方だが、中途半端な覚悟では、間違いなく命を落とす。これから向かう所は、ただの吹雪が吹き荒れる『匈奴』ではない。

 

 今まで経験の無い猛吹雪に、それを物ともせずに進んでくる敵の大軍。

 

 間違いなく狙いは自分達だ。だから単于はユーリだけを連れて行った。この中で一番、実力のある彼女を。

 

 「……わたしは……」

 

 アリスはヴォーグ村での事を思い返す。

 『人間』の振り撒く“悪意”に逃げる事しか出来なかった。

 おじいさんに逃がされて、雪の中を必死に歩く最中、ずっと考えていた。何もできずに……死ぬんだと……でも――

 

 「諦めて逃げる……そんな思いはもう嫌なんです!」

 

 もう、失うのは嫌だった。少しでも、自分に出来る事があるのなら、力になりたい……強くなりたいと―――

 『匈奴』に来て、皆と一緒に過ごして、その中で……単于さんが、どれだけ大きな存在であると知った。だから、また――

 

 「皆で笑える、『赤沙(ここ)』に帰ってきたい! その……お手伝いをさせてください!!」

 

 デリックとアリスの覚悟にドノフは無言で準備を終えた。他の者もノワールの所に集まっているハズだ。

 

 「デリック、コレをお前が持ってろ」

 

 ドノフは頑丈な箱を開けて、その中に固定されている一本の刀『無月』を渡す。

 

 「え……これ――」

 「必要になるかもしれん。その時まで、お前が持っていてくれ」

 「は、はい」

 「いくぞ、二人とも。単于たちを迎えに行く」

 

 

 

 

 『ドワーフ』のドノフ。

 『白竜族』のクレール。

 『魔道機人』のサベット。

 『鷹』のクレア。

 『吸血鬼』のサーシャ。

 『狼』のカルロ。

 『獅子』のデリック。

 『妖精』のアリス。

 8人の『魔族』は黒馬のノワールに取り付けられた荷台に乗ると、サベットの指示とクレアのエーテルを頼りに、『赤沙』の屋敷を発つ。

 

 単于の元を目指して――

 彼らは希望となるのか。それとも……終わらぬ悪夢に入り込むだけの生贄となるのか。

 

 それを知る者は、誰一人として居なかった。

 

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