ソリダオン   作:真将

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17.絆の咆哮

 後は、まるで濁流に飲み込まれたようだった。

 

 ユーリを取り戻す為に、単于は【賢者】のファーナーへ立ち向かう。

 だが、前に立ちふさがった500の“兵士”達は、一体一体の強さはソルガとは比べ物にならない性能となっていた。

 

 振り下ろす剣は重く、腕を斬り落とされても怯まずに向かって来る。連携に、前衛と後衛の役割を持ち完全に統率された動きは、先ほどとは次元の違う実力で迫ってくる。

 

 対して単于は、今まで有利に働いていた『風のエーテル』の支配権を全てファーナーに取られ機能していなかった。結果、単于の引き起こしていた攻撃力の超過は全て無効化されてしまい、まともに斬り合う事さえも出来ない状況に追い込まれている。

 

 しかし、追い込まれた最大の要因は数であった。

 

 500対1。本来ならまともに戦えるモノではない。当初はソルガを討ったら、退却するつもりだったので、時間稼ぎを考え、十分な装備も揃えていなかった。

 巨大な鉄槌を持った兵士の攻撃を、単于は刀で受ける。武器は折れ、彼の身は吹き飛ばされた。

 

 「――――……」

 

 巨大に陥没した穴。もはや自力で脱出する体力も残っていなかった。視界全てに行進してくる500の“兵士”。もう指一つ動かなかない。

 

 ああ……何も……無かった……五年間だった……

 

 一体の剣を持っている“兵士”が単于の前に立つ。そして、処刑するように剣をゆっくり振り上げた。

 

 ごめん……ユーリ……ごめん……みんな……もう……オレには何も無い……

 

 袈裟懸けに振り下ろされた剣は、単于の首を刎ねる為に向けられ――――

 

 「うぉぉ!!」

 

 その声と共に、雪原の大穴に辿り着くと同時に、その中へ侵入した影が剣を振り上げた“兵士”を吹き飛ばした。

 

 『ドワーフ』のドノフが、自らの手に持つ鉄槌で、単于の前に立つ“兵士”を殴りつけたのである。

 

 その他の面子もそれぞれ、各々に出来る事を決めて、遂行する為に戦場へ入る。

 

 「久しぶり過ぎて、武者震いするぜ!!」

 

 『狼』のカルロは、『擬人』を解いていた。灰色の狼となって、穴の中に居る“兵士”達へ側面から攻撃を開始する。

 

 「っ! 何よこれ!?」

 

 視界を全て埋め尽くす敵に、『吸血鬼』のサーシャは驚きを隠せない。単于はこんな敵と戦っていたのか……

 

 「なんだ、サーシャ! ビビってんのか?」

 

 カルロは意気揚々と、変わらない軽口をサーシャへ叩く。

 

 「うっさい! ユーリは? ユーリはどこよ!?」

 

 爪と、充血する赤い眼。完全な戦闘状態で、カルロと共に“兵士”たちの整列を乱していく。姿の見えない親友の様子に焦りを見せた。

 

 『全てエーテルで構成されているな。ただ散らせても意味は無い』

 

 『魔道機人』のサベットは、上半身の機能を全て展開し、軍団に穴を開ける様に強力な衝撃波を叩きつける。

 衝撃をくらった“兵士”は、雪と共にバラバラに吹き飛んだ。

 

 「貴方が……軍の指揮者ですか?」

 「チェックメイト……とは行きそうにないな」

 

 『白竜族』のクレールと『鷹』のクレアは“兵士”たちを統括している、ファーナー本人へ対峙していた。

 

 「単于さん!」

 

 『獅子』のデリックと『妖精』のアリスは倒れている単于へ駆け寄る。

 

 状況は最悪だった。ドノフは駆けつければ何とかなると思っていたが、現在、有利な要素など何一つない。

 

 目の前を覆うほどの大軍。カルロ、サーシャ、サベットに牽制させているか、状況が悪くなったら他を気にせず、すぐに離脱する様に告げている。

 

 大穴の上にはその軍団の指揮官。

 単于が常に纏う、『風のエーテル』がまともに機能していない所を見ると、あの指揮官は魔法使いか、それ以上の『人間』だ。

 クレールとクレアが注意を引きつけているが、この大軍以外に、どのような“魔法”を行使できるのか分からない。

 

 「かなり危険な状態だ! デリック! 単于をノワールの元へ連れて行け!」

 

 ドノフは、身動き一つ取らない単于の様子から、かなり危険な状態であると察した。大穴の上で待機している黒馬のノワールの元へ彼を連れて行くように指示を出す。

 

 「ドノフさんは!?」

 「ワシはここを死守する!」

 

 “兵士”の一体が、単于を狙って斬りかかる。あくまで狙いは単于であるとドノフの事は無視していた。

 

 「ふん!」

 

 だが、それをドノフは許さない。阻止する様に雪の積もった地面に鎚を打ち付けて雪を吹き飛ばすと、その破片で“兵士”を足止めする。

 

 「早く行け!!」

 

 デリックは単于を抱えると、振り向かずに走る。

 

 「単于さん……しっかりして! 死んだらやだよ!」

 

 ドノフが無事に走り出した様子を後ろ目で見た隙を、二体の“兵士”が捉え、彼に剣を斜めに振り下ろす。『風のエーテル』が送付された剣で斬られ、皮膚が裂けて血が流れ出る。

 

 「ぐ……うぉぉぉ!」

 

 それでもドノフは力を振り絞り、単于へ向かおうとした“兵士”を後ろから掴むと、地面に叩きつけた。

 

 「ここは……死んでも通さん!!」

 

 

 ……やめろよ――

 

 

 「ドノフ!」

 

 その様子を見ていたサーシャは、思わず隙を晒してしまった。その機を逃さなかった“兵士”は彼女へ持っている斧を振り下ろす。

 

 「馬鹿野郎!!」

 

 カルロがサーシャへ体当たりし、位置が変わると身代わりになって戦斧を背中で受けた。

 

 『カルロ!』

 

 サベットは、戦斧を振り上げた“兵士”を殴りつけて吹き飛ばすと、庇うように駆け寄る。

 

 「油断すんなって……これだから戦場を知らない甘ちゃんは……痛てて」

 「……ごめん」

 

 カルロは上手く斧を受けていた為、傷は浅い。しかし、一時的に動きが麻痺していた。サーシャもカルロを庇うように“兵士”と対峙する。

 

 「クレアさん。時間を稼ぐだけではダメになりました」

 「ああ。やるしかないな」

 

 クレールとクレアは【賢者】に向かって踏み込む。目的は司令官の無力化。それだけでこの状況をひっくり返すことが出来ると判断していた。

 

 しかし、ファーナーの身を護る両脇の“兵士”は大穴の下で戦っている“兵士”達とは別格の性能を持っている。

 素手で、クレールとクレアを殴り伏せると、持ち上げて再び雪原に叩きつける。

 

 「か……」

 「ぐ……あ……」

 

 すると、【賢者】が立ち上がった。そして、その場に現れた『魔族』全員に言い放つ。

 

 「あー、もう、めんどくさいなぁ。もう本当に止めてくれない? めんどくさいの、嫌いなんだけさぁ。僕としては、そこの彼の首があれば、もうこんな寒いところには様は無いんだよね」

 

 空気を振動させて、的確に言葉をその場に響かせた。全員の耳にファーナーの言葉が入って来る。

 

 「だからさ。君たちで彼を差し出してよ。そうすれば、僕と僕の“兵士”への不躾(ぶしつけ)な行為は特別に許してあげるからさぁ。いい話でしょ? もともと、君たちは死ぬしかないんだからさ。特別に見逃して―――」

 「ふざけんじゃないわよ!!」

 「……は?」

 

 ファーナーは、躊躇いなく声を発したサーシャを、信じられないと言った表情で、見る。

 

 「単于は……アンタなんかとは比べ物にならないわ!」

 「よぉ! 『人間』様よ! 何も知らないだろ! 俺達の事!」

 

 『擬人』で人の姿になっているカルロは不敵に笑って見上げた。

 

 「……生きる命なんて―――」

 「当に彼に救われている……」

 

 雪に押し付けられているクレールとクレアは出来る限り抵抗しながら言葉を繋ぐ。

 

 『愚かな『人間』だ。世界に拒絶された我らの苦しみを知らぬだろう!』

 

 サベットは“兵士”を吹き飛ばしながら続ける。

 

 

 ……お前らは……逃げろ……オレなんかの命に……命を賭けるな……

 

 

 「あぁ。もう……うるさいなぁ。後方50、一斉射」

 

 ファーナーの指示で、“兵士”の一部が弓を持ち、山なりに打ち上げると、デリックに運ばれる単于へ矢の雨が降り注ぐ。

 

 「!? デリック!」

 

 ドノフは目の前を押さえるだけで精一杯だった。後ろへ逃げていくデリックとアリスを庇う余裕はない。

 

 「――――」

 

 デリックは立ち止まって単于を庇うように矢の盾になると、その中へアリスも避難させる。

 

 「デリックさん!!」

 「僕は……誰にも……」

 

 背に無数の矢が突き刺さる。絶え間なく降り続ける矢の雨をデリックは、単于とアリスへは一本も通さずに受けきった。

 

 「……うぐ……『人の大陸』にも、『魔の大陸』にも、居場所の無い……僕達だけど!」

 

 デリックはそこで片膝を着いて立ち上がれなかった。背にはハリネズミのように矢が突き刺さっている。

 

 「デリックさん……」

 

 アリスは彼の事を心配するが、デリックは単于を連れて逃げる様にノワールを指差す。

 

 「ワシらはな……単于に生かされた。そして、居場所をもらった!!」

 

 ドノフは“兵士”を叩き潰す。そして傷の痛みをこらえながら肩で息をしていた。

 

 「単于は……ワシらの生きる意味だ! 絶対に……死なせはせん!!」

 

 

 やめてくれ……オレは……ホワイトも……『匈奴(こきょう)』も……救えなかったんだ……

 

 

 「……あー聞いてて、すごく不快だよ。君たち。もういいや」

 

 ファーナーは一度、パチンッと指を鳴らした。そして、その場にいるアリス以外の『魔族』は叩きつけられるような重みを感じ、雪の地面へ押し付けられる。

 

 「君達みたいな、標準の『魔族』はいくらでもデータがある。この吹雪だ。動きが阻害されない様にエーテルを纏っているんでしょ? 書き換えて、闇属性に切り替えるくらい造作は無いよ」

 

 闇のエーテル。ファーナーが得意とする分野の一つで、今は彼らの重力を通常の数倍に引き上げていた。

 

 「まぁ、安心してよ。君たちには有益な礎になってもらう。君たちと同じ『魔族』が……どうすれば簡単に死ぬとか、どんな“魔法”が効果的なのか……君たちで何度も試してあげるよ」

 

 すると、“兵士”たちは身動きを完全に封じたドノフ達へ近づき、抱えるとファーナーの元へ運び始めた。

 

 「単于……! ふざけるんじゃない……わよ!! あたしたちを……連れてきて! 生かして! なのに……あんたは勝手に死ぬなんて! そんなの……ふざけるな!!」

 

 サーシャは、未だに身動き一つしない単于へ感情をぶつけた。

 デリックは気を失って倒れ、アリスと上から降りてきたノワールが何とか引きずるが殆ど意味の無い行動である。

 迫る“兵士”は確実に全てを蹂躙する……“悪意”だった。

 

 「立ちなさいよ! 立て! 立てよ!! 立ってよ……死なないでよ……単于……」

 

 サーシャは涙を流していた。大切な者が目の前で死ぬ……そんな事、二度も耐えられなかった。その為に少しでも力を持とうとしたのに、何もできない。

 

 「単于さん……単于さん!!」

 

 アリスも涙を流しながら彼へ語りかける。しかし、単于には皆の言葉は届いていない。

 彼は、立ち上がる意味さえも失い、ただ死にたかったのだから、誰の声も届かない――

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