ソリダオン   作:真将

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20.欠けた家族

 二日後。ウィオラ達『天飛騎士団』は『匈奴』の空を飛行していた。

 

 「……どういう事?」

 「こんな天候は初めてですね」

 

 ウィオラとイグナートは風も雪も荒れていない『匈奴』の状況に驚いていた。ライナスを除いた『天飛騎士団』の騎士たちも同様である。

 

 「そうなんすっか?」

 

 もし、【賢者】が『匈奴』の深い場所まで入り込んでいれば、単于たちと挟撃しようと思っていた。だが、その最大の障害は時間と天候だった。

 

 例え間に合ったとしても、常に吹雪が巻き起こっている『匈奴』を飛行するには自殺行為だからである。

 それでも、兵を一度に最速で移動させるには、空を飛ぶしか方法が無く、『匈奴』侵入はより強い『風のエーテル』を纏う予定だった。

 しかし現状は、優しく撫でる程度の風が吹いているのみで、飛行にはまったく問題ない。むしろ、飛びやすい空である。

 

 「雲は相変わらず覆っていますが……」

 

 イグナートは空を厚く覆う雲を見上げながら飛行を続ける。すると、

 

 「あ、あれ! 単于さんじゃないっすか?」

 

 ライナスが、雪原に不自然に空いた大穴の近くに居る単于に気が付いた。

 

 「わたくしが接触しますわ。イグナート、皆を引き連れて、先に『赤沙』の屋敷に向かいなさい」

 「はっ!」

 

 そして、ウィオラはグリフォンを降下させると、単于の近くに着地した。

 

 

 

 

 

 「シーザーさんに怒られちゃいますよ」

 「いいんだよ。回収しておかないと、誰かに盗られるとまずいだろ」

 

 単于は肩に『妖精』のアリスを乗せて、黒馬ノワールに跨り、二日前の戦場跡に舞い戻っていた。

 理由は、『無月』の回収。相変わらず『風のエーテル』を発生させているので発見は容易だった。痛々しく包帯を巻き、本来なら彼も肉体的にも精神的にも重体の見である。

 刀を拾って、先に拾っていた封印用の鞘に納めた。

 

 「単于さん、体調は?」

 「問題ない。【賢者】との戦いで、ある程度発散で来た事もあるかもな。死にかけたのは事実だが」

 

 空の消滅した雲は、あの後、数時間で元に戻った。しかし、何か変化があったのか、今までは毎日のように荒れていた天候は、嘘のように停止している。

 おかげで最低限の装備だけで、最速の行き来が出来るわけだが、またいつ前の状態に戻るのか解らない為、出来るだけ雪原には長居をしないつもりだった。

 

 「とは言っても、散らかした武器は今度片付けに来ないとな」

 

 この地点に仕掛けていた数多くの刀は、かつて『匈奴』に暮らしていた者達が故郷から出ていく際に置いて行ったものだった。

 

 「……空、また曇っちゃいましたね」

 「仕方ない。【魔王】の呪いだ」

 「でも、【魔王】は単于さんが倒したんですよね!」

 

 五年前、二代目【魔王】を単于が討った。仲間と共に対峙し、激闘の末に討ち取ったのである。

 

 「まぁ、三対一だったからな。倒せない方がおかしい」

 「単于さんの旅の話、今度、聞かせてください」

 「つまんない話ばかりだぞ?」

 「そんなことありません! 皆さん、単于さんの事、聞きたがってますよ?」

 「……ユーリも戻ったらな」

 

 色々と終わり、新しく見直すことも多くある。その中で最も優先することはユーリの事だった。

 

 「その話、わたくしにも聞かせていただけます?」

 

 そこへ、グリフォンに乗ったウィオラが二人の前に降り立った。

 

 

 

 

 

 「ウィオラか」

 

 翼をはばたく音と、上を横断する数多くのグリフォンの気配を単于は感じ取っていた。

 『アウローラ』特有の航空戦力『天飛騎士団』であり、100人程度の騎士団だが、戦闘力は随一だ。

 

 「色々と聞きたいことがありますので、質問に答えていただいてもよろしいですか?」

 「その前振りは必要か?」

 

 単于は降りてノワールの手綱を引いていた。鞍にはアリスを乗せて、その横には同じようにグリフォンを歩かせるウィオラが続く。

 

 「【賢者】はどうしました? 着たハズでしょう?」

 「死んだ」

 「なぜ、『匈奴』はこんな環境に? 前は穏やかな時でも、雪原を渡る事でさえ困難でありましたが?」

 「近い内にまた元に戻るけどな」

 「あの雪原の大穴は一体? まるで陥没したような……」

 「戦争の跡だ」

 「単于さん!」

 

 王女のウィオラに適当に受け答えしている単于にアリスが注意する。

 

 「良いんだよ。こんな感じで」

 「でも……」

 「だいたい解りました。それでは、最後の質問です」

 

 わかったの!? と驚くアリスを差し置いて、ウィオラは単于の雰囲気の変わっている様子に、ソレを確認した。

 

 「再び、【勇者】として世界に立つのですか?」

 「ノーコメントだ」

 

 

 

 

 

 『赤沙』の屋敷では、先に辿り着いた『天飛騎士団』の20人はこき使われていた。

 

 「いやー助かったよ。男手が足りなくてさ。とりあえず、屋敷の周りの雪かきお願いねー。じゃんじゃんやっちゃって」

 「「「了解です! シャルルの姐さん!!」」」

 

 『ラミア』のシャルルは、雪かき要因として『アウローラ』の精鋭を取り扱っていた。グリフォン達は『猫』のジェフリーが様子を見ている。

 

 「お帰り、単于さん。と、こんにちは、ウィオラ姫」

 「こんにちは。シャルル」

 

 ウィオラはシャルルに礼を返す。

 

 「ああ。ノワール、自分で行けるな?」

 

 ノワールは一度鼻を鳴らして意思表示すると、単于が手綱と鞍を外すのを待ってから馬小屋へ歩いていく。

 

 「……シャルル、サーシャはどこだ?」

 「あー、サーシャなら……」

 

 本来は、彼女も雪かきの当番なのだが、今はこの場に居なかった。そして眼を逸らすシャルルを見て、単于はため息を吐いて察する。

 

 「次は無いぞ」

 「は、はーい。さーて、私も雪かきするかなー」

 

 アリスは単于の肩に移ると、ウィオラと共に『赤沙』の屋敷に入った。

 

 「カルロ……動くと死ぬ」

 「馬鹿言うな! この程度でくたばるような身体じゃねぇ!」

 

 いきなり重傷者である『狼』のカルロが、肉を加えて逃走していた。それを静止しているのは『黒龍族』のアンネである。

 

 「栄養食じゃ、『獣牙族』の怪我は治らねぇ。肉だよ! 肉――」

 「医者の言う事は聞け」

 

 プス、と麻酔を的確に血管に撃ち込まれ、カルロは即効で眠りに落ちた。じっとしているのが苦手な彼を強制的に制圧したのは『黒龍族』のシーザーである。

 

 「病室に連れて行け」

 「イエッサー」

 

 アンネはカルロを一階の療養室に引きずって行った。

 

 「ウィオラ様。見苦しい所をお見せしました」

 「いえ、元気そうで何よりです」

 「ありがとうございます。それで、単于。医者の指示に従わず、勝手に出て行った理由を聞こうか?」

 

 シーザーは単于に対しても珍しく怒っていた。

 言う事を聞かなければ、医者として成り立たないのだ。彼は常に、どうすれば早く完治できるかを模索している。

 特に『赤沙』の屋敷は、全員が動くことが出来てようやく機能するのだ。その中で、一番主軸となる存在が、ルールを守らない事は他の者にも示しがつかない。

 

 「『無月』を取りに行ってた。こればっかりは、オレ以外に触るのはマズイからな」

 

 鞘に納めた『無月』をシーザーに投げて渡す。今は鞘によって完璧に封じられているので、刀身を鞘から抜かない限り、『風のエーテル』が溢れる事は無い。

 

 「お前も本来は絶対安静だ。内臓の損傷は予想以上に酷い―――」

 「解ってるよ。少し疲れたから、ちょっと寝る」

 「単于殿! わたくしの話は―――」

 「起きたら聞くよ。どうせ、夕飯の時間まで居るだろ? どうせなら騎士団も全員泊まって行け」

 と、単于はそれだけを言い捨てると、面倒くさそうに二階に上がり、自室へ入って行った。

 

 

 

 

 

 一階の診察室の隣の部屋に『ドワーフ』のドノフと『獅子』のデリックは絶対安静を言われていた。

 身体を斜めに通る傷を手当てされたドノフと、背中の矢傷の治療をされたデリック。二人は、ただベッドに横たわっている。

 

 「……暇だ」

 「そうですね」

 

 ドノフは手を動かして問題ない事を確認していた。鍛冶用の鎚を持っていないと落ち着かないのである。

 

 「ダメですよ、ドノフさん」

 

 取り替えた包帯を捨てる為に、『吸血』のフランツは彼らの身の回りを片付けていた。

 

 「気持ちは解りますけど、無茶して後遺症が残ったら、それこそ事なんですから」

 「解った解った。便所以外で、フランツの許可が無ければベッドから降りんよ」

 

 デリックは俯せでベッドに横たわっていた。『獣牙族』の治癒能力は、重傷でも適切な治療をされれば数日で完治できる。

 

 「……サーシャに頼んで、本でも持ってきてもらうか」

 

 今、彼女は二階の『本の部屋』に居る。比較的軽症だったため、軽い手当だけで後は他の皆をサポートしていた。

 そして、暇があれば普段は行かない『本の部屋』に入り浸っている。

 

 「ドノフさん」

 「なんだ?」

 「僕……少しだけ強くなれた気がします」

 

 デリックは今までずっと、自分は何もできないと思い込んでいた。体格に合った仕事は出来ても、何かに立ち向かう事は、ずっと恐かったのである。

 

 「馬鹿言うんじゃねぇ。元々、お前さんは強い。ただ、ソレを振り絞る勇気があれば、いつでも前を向いて歩ける」

 「……はい」

 「あんせー! あんせー!」

 

 そこへ、ベッドの端から顔を出してドノフとデリックを覗く少女が居た。『スキュラ』のトマである。

 

 「安静にしとるわい」

 「しーざーがあんせー!」

 「囚人連行」

 

 二人が逃げない様にトマが見張っている所に、アンネがカルロを引きずる様に連れて来た。

 

 「捕獲完了。トマ、フランツそっちのベルト取って」

 「いえっさー」

 「カルロさんには……痛み止めは、打たない方が良いかなぁ」

 

 三人は、白目で眠っているカルロを背中の傷を圧迫しない様に、俯せでデリックの横のベッドに乗せると、ベルトで逃げない様に固定する。

 本人では絶対にはずせないような位置に固定部分を設置した。

 

 「次、カルロが逃げたら二人とも同罪」

 「どーざい!」

 

 相変わらず天真爛漫なトマを見て、ドノフとデリックは笑った。

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