ソリダオン   作:真将

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23.彼らの選択

 「単于さんってどんな人か?」

 

 アリスは『シランス』の洞窟で、収穫作業をしている者達に尋ねていた。

 昨夜、寝る前に単于に言われた事。それを決断する為に、遠まわしで彼の事を知ろうと思ったのである。

 

 「ほほぅ。アリスって結構、踏み込んでくるね」

 

 ふふ。と『ラミア』のシャルルは肩に鍬(くわ)を担ぎながら笑みを浮かべた。

 

 「わたし……考えて見れば、皆さんから聞いたばかりで、単于さんの事知らないなって思いまして」

 「まぁ、私やトマとしては命の恩人ね」

 「トマさんも……ですか?」

 「そうよ。『ラミア』や『スキュラ』みたいな種族はね。一般的な『魔族』の中でも特に希少な存在だったし、『人の大陸』では更に酷い扱いを受けてたからなぁ」

 

 

 『ラミア』という種族は元々絶対数が少ない『魔族』であるのだ。

 『魔の大陸』の三大文明の一つ【霊峰】の麓に存在する集落に、他の希少一族と共に身を寄せている。

 

 そんなある時、その集落に一人の『人間』が訪れた。集落の者達は『人間』という存在と接触したことが無かったため、彼を疑問に感じることなく受け入れたのだ。

 しかし、彼は産まれたばかりだった『スキュラ』の赤ん坊であるトマを、かどわかして集落から逃げ去った。

 集落の中でも更に二人といない『スキュラ』のトマは、『魔族』でも『海神の末裔』と称される程に特に珍しい存在であり、皆で世話をしていたのだ。盗人は、その交代の隙を突いたのである。

 

 シャルルは独自のルートで彼を追い、『魔の大陸』を出るギリギリの所でトマへたどり着き彼女を取り戻す事に成功する。しかし、そこで更なる『人間』に二人とも捕まってしまう。

 その後、希少な『魔族』であったことで鎖につながれ、半年の間さらし者にされた。

 

 『人間』という種族を恐いと感じる一方で、トマを護らないといけないと言う使命感と、その場所で出会ったサーシャやフランツとの交流で、何とか自分を保つことが出来たのだ。

 

 その後、ユーリとアンネ、そして単于によって彼女たちは解放された。

 幼子であるトマを連れて『人の大陸』から、【霊峰】に帰る事は難しく、単于の勧めで、少なくともトマが自意識を持つまで『匈奴』で過ごす事にしたのである。

 

 

 「辛い事もあったけど、サーシャや単于さん達、『匈奴』に来ることが出来たのは生涯で二度と得られない出会いになってるよ」

 

 故郷の【霊峰】の集落には、シーザーが連絡を取ってくれたらしい。返しは来ないが、特殊な方法だったので少なくとも無事であることは伝わったと言っていた。

 

 「んで、アリスの質問に対する答えね。単于さんは―――」

 

 

 

 

 

 「単于さんの事?」

 

 『匈奴』の屋敷の二階。女子共同部屋にアリスは訪れていた。

 机に伏して涎を垂らして寝ているのは『スキュラ』のトマ。彼女に懐かれている『黒龍族』のアンネは、裁縫で皆の服の修繕作業を行っていた。そして、手を止めてアリスを見る。

 

 「私は一方的に助けられたばっかりだった。単于さんが居なかったら今、私は生きていない」

 

 二代目【魔王】が倒れても、【魔王】派の『魔族』は『人の大陸』に対して進行を改めなかった。

 

 

 アンネの種族である『黒龍族』は、二代目【魔王】に対して、さほど良い印象を持っておらず、その残党には参列しなかった。

 元より、『人の大陸』で生きるアンネは家族と共に傭兵として戦場を点々としていた事もあり、『人間』とはほとんど関わらず各地を移動していた。

 

 『竜古族』は『人間』よりも圧倒的に長い時を生きる。

 その為、『人の大陸』で生きる時は、『人間』と関わらない様に、ひっそりと暮らすか、各地を点々として移動する『竜古族』が多い。アンネの家族は後者だった。

 

 【魔王】の戦列に、生活費を目的で参加したアンネの家族は、戦争では皆生存し、元の戦生活に戻った。

 だが、その後……裏切り者と告げて迫ってきた残党に『擬人』を解けない状況に追い込まれてしまったのである。

 

 絶体絶命の瞬間、その場に参戦した単于によって、彼女はギリギリのところで窮地を脱出した。

 しかし、彼女の家族は間に合わず全員が死に絶えていた。加えてアンネ自身も右腕と左足を無くしたショックで『擬人』が解けなくなってしまう。

 

 “まだ、生きる事を諦めていないのなら、命は有意義に使え”

 

 そう告げた単于は、アンネを『匈奴』に連れて来た。

 片手片足のない自分に何が出来るのか……と、松葉杖を突きながら『赤沙』の屋敷を徘徊していると、工房で単于がドノフと話し合っていた。

 彼の手には、今まで見た事の無い義手義足の設計図が握られており、それは今となってはアンネの足と腕となっている。

 

 

 「単于さんは、最初から私を生かすつもりで連れて来てくれた」

 

 リハビリは大変だったが、ドノフは義肢の調整をしてくれた。シーザーは体調管理に気を使ってくれた。クレールも眼が見えないのに歩くコツを教えてくれたり、ユーリは歩けるようになるまでずっと付き添ってくれた。

 

 そして、一人で食事ができる様になり、走るようになった頃、彼は尋ねてきた。

 

 “まだ、死にたいか?”

 

 私は無言で頭を横に振り、そして、心から彼に感謝した。

 

 「私は……まだ彼に何も返してない。彼はソレを望まないかもしれないけど……彼が私に何か望むのなら、私は……私の意志で彼の望みを叶えてあげたい」

 

 人としても不完全。そして、『黒龍族』としても生きられないアンネは、単于と言う『人間』に救われ、そして生きる場所を与えてもらったのだ。

 

 「アリス、質問の答え。単于さんは――」

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