ソリダオン   作:真将

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エピローグ

 慣れた風。慣れた雪。この二つが混ざり合った、慣れた吹雪の吹き荒れる夜。

 

 単于は雪原突破用の軽めの防寒具に身を包み、路銀の入った皮袋と、前の旅でも終始世話になった、愛刀の『無月』を腰に着けていた。

 

 ユーリの結晶は、失くさない様にペンダントの金具を取り付け首から下げ、『アウローラ』までの食料も、ノワールへ乗せる。

 そして手綱を握って先導すると、一度『赤沙』の屋敷を見上げた。

 

 「…………フー」

 

 元々、彼らを救うつもりなど、これっぽっちも無かった。何も護れなかったと絶望し、ただ最初は自分と同じような奴らを集めただけだったのである。

 

 劣悪な環境に好き好んでくる者などいない。故郷に来ないかと誘っておいて、見れば必ず逃げ出すと思っていた。

 死んだ『匈奴』に生きるしかないと思っていたのはオレだけだったから。

 

 けど、彼らは違った。世界に否定されても……こんな場所しか還る場所が無くても、必死に立ち上がり、目標を見つけ、生きる事に努力したのである。

 

 「行くのか?」

 

 屋敷の裏口から、『黒龍族』のシーザーが姿を見せていた。

 下手をすれば止められる危険もあったので、なるべく他の者が寝静まったタイミングで出る事にしたのだが、シーザーには悟られていたらしい。

 

 「サーシャが煩いからな。旅は長くはかからない」

 「なら、これを持って行け」

 

 シーザーは単于に一つの印籠を渡す。

 

 「なんだ?」

 「『龍薬』と呼ばれる『竜古族』に伝わる薬だ。『白竜族』と『黒龍族』の男と女の鱗を混ぜて出来る秘薬。一時的に自らのエーテル許容量を引き上げる効果がある」

 「昔、旅で必要だったことがあったが……ずいぶん素材が違うんだな」

 「それは嘘の情報だな。こっちは本物だから安心していい。危険な兆候が出たら飲め。そして、出来る事なら許容値以下までエーテルを発散させるといい」

 「その場合は、周囲はただじゃ済みそうにないだろうが……まぁ、考えとくよ」

 

 印籠を腰の道具袋に入れると、ノワールに跨った。

 

 「最後になるかもしれないから言っておく」

 

 【勇者】として世界を救った。

 だが、世界はオレを何一つ救わなかった。オレを救ったのは―――

 

 「お前達に、再び歩く意味を教えてもらった。ありがとう」

 

 単于は吹雪に視界を潰されない様にコーグルをかけると、手綱を握った。

 

 「単于さん!」

 

 その時、シーザーの後ろから急いで駆け付けた『妖精』のアリスが息を切らしていた。

 

 

 

 

 

 「もう、寝てる時間だぞ?」

 

 単于はアリスの出現を期待していた方でないとして捉えていた。

 彼女は世界の悪意に追われ、『匈奴』に逃げ込んだ。他の者達のように、助けた者の意志を尊重して連れて来たのではないのだ。

 

 「お前は、まだ何も知らない。オレを含めて『匈奴』の皆は、この世界がどれだけ“救われない”のかを知っている」

 「だからです! わたし……もうたくさんなんです!」

 

 何もできずに、ただ脅威にさらされたら逃げるしかない。そうやって逃げ続けて……いつか死ぬんだと……単于に助けられるまでそう思っていた。

 

 「わたしは! 貴方達のように……強く、在りたい!!」

 

 小さく、武器も持てない身でも、きっと彼の元なら強くなれる。

 それで、大切な者を護れるかは解らないけど……今のわたしを彼は必要としてくれている。

 わたしにも、他の人のように彼の為に出来る事があるのだと。皆が帰ってきてほしいと願う彼が、無事に旅を遂げる為に、わたしが必要なら――

 

 「だから! わたしも連れて行ってください!!」

 

 アリスの言葉は本来単于にとっては願っても無い申し出だった。だが、それでも彼には彼女を連れていく事に抵抗がある。

 

 「世界は、ヴォーグ村や『匈奴』に来た【賢者】と向き合うよりも辛い現実がいくつもある」

 「解っています!」

 「特に『妖精』は希少の的だ。捕まったらただでは済まない」

 「覚悟しています!」

 「オレに見捨てられるとは考えられなかったのか?」

 

 単于は今後起こる可能性を幾つか提示する。無論、自分が就いている以上、そんな事は絶対にさせるつもりはない。

 しかし、最初から疑心を持った者達が旅をするのは、危険な結果となりやすいのだ。複数で旅をする以上、信頼関係が絶対となる。

 

 「それは無いと思います」

 「なに?」

 「だって単于さんは――」

 

 身の上話を聞かせてもらった皆が言っていた。

 二代目【勇者】――『撐犁孤塗単于(とうりことぜんう)』は――

 

 「良い人ですから」

 「…………ぷっ、アッハハ!」

 

 ノワールの上で単于は笑った。その様子にシーザーは驚いたように眼を見開く。何故なら、ユーリでさえ、彼が笑った所を見た事が無かったのだ。

 

 唯一、彼が笑顔を見せたのは、ヴァイスと呼ばれるユーリの従姉だけであったらしい。

 

 「完全に不意打ちだ……アリス」

 

 単于は彼女の存在を求める様に手をかざした。

 

 「お前の力を貸してくれ」

 「はい!」

 

 

 

 

 夜の吹雪が吹き荒れ、死んだ大地『匈奴』から一つの影が走り出す。

 黒馬のノワールに乗った【勇者(ぜんう)】と、封じられてしまった家族(ユーリ)

 そして、『妖精(アリス)』は彼と共に家族(ユーリ)を助ける為に世界を見る事を選んだ。




あとがき

 剣と魔法ものを書いてみようと、挑戦した作者の真将です。
 今回『ソリダオン』を読んでいただいた方、お気に入り登録をつけていただいた方、未熟な作品でありましたが、楽しんでいただけたでしょうか?

 剣や魔法は出てきますが、どうしても理論的になってしまい、中途半端なリアリティを設けてしまってます。
 本来は、単于が二代目【魔王】を倒す、大冒険のような形(劇中では7年前に始まり5年前に終わった冒険)を書いていたのですが、色々と膨らませ過ぎている所が有り、未だに一章が完結しない始末です。
 なので、今回はその後の物語を書き投稿する事にしました。

 よく他の方の小説で出てくる“勇者”ものとは少し違う形で物語を組み立ててみようと考えた事がこの小説を書くきっかけとなりました。

 “勇者”とは、人の脅威に対して希望となる存在だが、“勇者”もその生き方に誇りを持つか?

 という勇者自体の存在意義もテーマとなっており、単于自身も故郷にかけられた【魔王】の呪いを解くために【勇者】として旅をする決意をします。
 彼は【魔王】討伐後の名声は何も興味が無く、【魔王】を倒した後は元の生活に戻るつもりでした。
 しかし、結果は作中でもお察しだったため、全てに悲観してしまう結果となってしまいます。

 次に、タイトル『ソリダオン』とは、“孤独”や“寂しさ”を意味する言葉であり、劇中の単于、又は登場人物たちの『魔族』の方々の事を意識して決めました。

 物語は、『俺達の戦いは、これからだ!』と言った感じで終了しましたが、これは不定期連載にならない為の処置であり、第二部を書上げた時点で再び投稿を開始します。
 色々と機会が無く、過去が開かされなかった者たちもいますので、外伝と言う形で書き出せればと思考しております。決して放置はしませんよ? ただし、いつお届けするかは、制作意欲によります。
 
 執筆進行状況は、活動報告などでちょくちょく出すつもりなので、機会があれば覗いてみてください。
 それでは、第二部『黒龍王降臨』で会いましょう!
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