ソリダオン   作:真将

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26.中立都市

 円形の高い城壁に囲われた都市があった。

 

 まるでケーキの様に、滑らかな城壁はあらゆる攻撃を防ぎ、傷一つ付ける事は不可能な素材で作られている。都市の土台には見た事も無い様な“魔道機関”が使われており、都市内の生活環境を外部の環境に影響されない仕様を創り出していた。

 

 『人の大陸』中立都市『オベリスク』。

 

 その都市は世界の法律や条約に左右されず、都市内での独自の法によって管理されている都市国家である。

 宗教も、民族も、持ち入る技術も、魔法も『オベリスク』の中では独自の理が展開されている為、都市統括守護者――ロギア・ハーロックの許可なしに、戦闘行動を起こす事も禁じられていた。

 

 都市内の技術は、『人の大陸』と『魔の大陸』の両方が使われ、どの国の思想に左右されず、絶えず世界中を“移動”している事もあり、他国の軍事的な関与も不可能な都市である。

 世界中の国や文明と同盟関係を結んでいるほか、その確実な安全性から他国間の代表達が集まる場として利用されていた。

 

 

 

 

 視界を埋め尽くす砂と、僅かな水源が存在している砂漠の地『サンドラ』。

 その灼熱の大地にて『オベリスク』は“移動”を停止していた。位置は、砂漠を横断する民族や、遭難者以外には決して近づく事の無い、砂漠のど真ん中である。

 数週間前までは、何も無かった砂の大自然の中に、不釣り合い現れた文明都市は異様な神秘さを醸し出していた。

 外が昼夜で灼熱と極寒の環境を繰り返するのに対し、都市内は暑さと寒さを完全に制御下においており、昼夜通して動きやすい環境を創り上げていた。

 

 「技術の塊なんだけどね~。よく解らないと興味も湧かないね」

 

 日中の強い日差しの照りつける砂漠。外側を日光対策にローブを羽織って歩く一人の女は、『オベリスク』内部から外壁を見上げていた。

 ただの“壁”ではないと彼女は理解している。だが、その原理はどうやっても解明できそうにない。上空が開けて意味にもかかわらず、都市内は涼しく活動しやすいのだ。唯一気を付けるのは、日焼けをしない様にローブを羽織るくらいである。

 普段なら、見た事も無い様な技術は大好物なのだが、毎回のごとく超技術(オーバーテクノロジー)である『オベリスク』は、探究心がそそられない事に退屈を感じていた。

 

 「ハザードちゃんは、いつも楽しそうだね」

 

 そんな彼女の隣に立つ、無精ひげの男も同様に日光対策のローブを羽織っている。背に槍を持った、戦士であった。戦術の関係で、鎧や防具と言った装備は好まない為、比較的軽装である。

 

 「グランのおっさんは、やる事あるからいいじゃん。あたしは、探究する事が行き詰って、毎日が退屈だよ」

 「いやいや、人を育てるって言っても一筋縄ではいかないもんよ? その点は君の方がしっかりしてるじゃない」

 

 男は若くして多くの弟子を持つ彼女を称賛していた。昔から、面倒見のいい性格の彼女は常に仲間に気を配って、助けられた事も少なくない。

 それに比べて、槍を使った生き方しか出来ない自分としては、彼女のように力の無い者に多くの手段を教える事は、なかなかできない事だった。

 

 「やっぱし、クラリスみたいに身を隠せばよかったなぁ。気楽そうだし」

 「クラリスちゃんは、今先生をしてるんだよね?」

 「そー。アウローラで、単于も近いし、後をついて行けば良かったかなぁ」

 

 単于と言う言葉に、男はある事を思い出す。最近、独自の情報網から伝わってきた事柄であった。

 

 「そう言えば……『匈奴』が三代目【勇者】の標的になったらしいよ。従者の一人【賢者】のファーナーが赴いたそうだ」

 

 と、女はプッと思わず吹き出した息を掌で押さえる。

 

 「【賢者】って、あはは! 本気で!? 本気でファーナーの奴は、【賢者】って名乗ったの!? 傑作だね! あははは!」

 

 腹を抱えて爆笑する彼女に、男は困ったような眼で呆れた。

 

 「あらら。そんなに?」

 「そー。【賢者】なんて、名乗るのは本当にバカよ。だって、ほら、よく物語であるでしょ? 正義のヒーローのカッコイイ名前。【賢者】って自分で名乗るのは、それと同じだって」

 「あれ? 君は【賢者】じゃない?」

 「周りが勝手にそう言ってるだけ。ちょっと、人と違うだけで、特別扱いするからねぇ。世間は」

 

 かつて、自分たちの前を絶えず歩く単于もそうだった。どんな敵にもひるまず立ち向かう姿は世界が求めた【勇者】そのものであったのだ。

 目的しか見えておらず、後ろを振り返る事を知らない彼には、時に戦慄さえも覚えた程である。ソレを裏付ける力を持っていたことも起因し、彼だけが血を浴び続けたのだ。

 

 彼の瞳は誰も見ていなかった。誰も見えていなかった。すぐ横で戦っている仲間の姿さえも、彼にとっては余計なモノでしかないと、告げているように……ただ前だけを見て歩を進ませていた。

 

 「隣にさぁ、こーんな美女がいるのに、見えてないなんて酷い話だと思うでしょ?」

 

 呆れたように肩をすくめるが、彼女が単于の事を話している時は、何よりも幸せそうな表情をしている。それだけで、今もまだ彼に恋焦がれているのだと容易に察する事が出来た。

 

 「僕が単于ちゃんを見た時は、人とは思えなかったよ」

 

 例え、赤ん坊であっても敵ならば一切油断しない視線に、即座に周囲の状況を確認する警戒心。知らぬ者と話す時は、相手の挙動一つ一つに注意を払う。まるで、獲物を仕留める獣。誰も信用していないという眼は、孤独な狼を彷彿した。

 

 「まぁ、ホワイトちゃんに会ってから大分変わったよね」

 「まったく……ソレはあたしの役目だったんだけどなぁ」

 

 不服そうに呟く女は特殊なエーテル反応を感じとり、その方向へ視線を向けた。

 それは、巨大な飛龍。翼を広げて影を作る全長は空を自由に羽ばたく『白竜族』の眷属――飛行龍(スカイドラゴン)である。

 

 「おっと、“天の守護者”『白竜族』ですか。『グランジア』管理領地長――ロード・ジーナスのお出ましだ」

 

 『人の大陸』と『魔の大陸』を領土に収める五大大国の一つ――『グランジア』の代表が『世界会議』の為、『オベリスク』に到着した証だった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 『アウローラ』。

 

 穏やかな気候と豊かな自然に、“人”と“魔”が共存している国――それが『アウローラ』という国だった。一般的な移動手段は、他国への移動用に造られた道を通る馬車や、馬などの乗馬による手段が主である。

 そして保有する戦力である正規軍――『疾駆騎兵団』と『天飛騎士団』の存在が他国に知れ渡っていた。

 

 地の疾駆――戦馬。

 空の疾駆――グリフォン。

 

 この二つは特に国内を最速の移動が可能であり、軍事行動時のみ展開されるのだ。

 

 「ここが、『アウローラ』ですか」

 

 単于はノワールから降りて、その手綱を引いて共に街中を歩いていた。

 彼とアリスは更に数日かけて、出来るだけ最速で『アウローラ』の主都へ足を踏み入れていた。時間帯は人が活動を始める午前である。

 

 『アウローラ』主都――サンタリアン。

 大噴水を中心に形成されている街並みは、王宮よりも高い建物を造る事は禁じられている。平坦で、特に高価な建物は無く、貴族や市民といった階級は殆ど形だけのモノであった。

 通りに売られている果実や作物は、殆どが国内で作られたモノであり、高い栄養価や安値で手に入ると言う事から他国でも評価は高かった。同時に、自然の中で作られると言う事で『魔族』にも好評である。

 

 「正確には主都『サンタリアン』だ。代々、『アウローラ』の王族は“サンタリアン”を襲名する」

 

 『アウローラ』の王は民の選出によって襲名する為、王ごとに政策が変わる事で有名だった。7年前、単于が旅を始めて最初に立ち寄った国であり、今とは別の王が統治していた。

 だが、当時の『王』は病に伏しており、彼は単于を次の『王』として選出の中に入れるつもりだったらしい。

 

 単于はそんな事に微塵も興味は無かった。

 代わりとして、選出を自らの意志で辞退した、宰相のアリエースを推薦。彼女とは幼少から父を通して何度か接触があったので、信頼に足るべき者であると知っていたのである。

 むしろ、あまり『アウローラ』の内情は知らなかったので、彼女以外に信頼して推薦する者も居ないと言う事も大きかった。

 

 「そもそも、当時16歳の子供(オレ)を『王』に推薦しようとした、あのジイさんの事は今でも解らん」

 

 前王は既に、この世を去っていた。アリエースが女王となってから数日した後に、国の行く末に安心して笑顔で亡くなったと聞いている。

 

 「……なんだ? ニヤニヤして」

 「なんでもありません」

 

 アリスはその話を聞いただけで理解できた。きっと前の王様は単于さんなら、この国を強く正しく導けると解っていたのだ。

 多種族の暮らす『匈奴』を、決定的な諍い無しに管理していた彼のカリスマを理解していたのだろう。本人が気づいているかは別として。

 

 「それにしても、少しばかり変だな」

 

 王宮の見える通りを歩きながら、妙に武器を持った者が多い様子に疑問を感じていた。よほどの事が無ければ、帯剣をする事など考えられないくらい『アウローラ』は平和な国なのである。

 まず考えたのは三代目【勇者】による『魔族殲滅宣言』。ソレによって、どこかの大国に宣戦布告されたのかもしれない、という事だ。

 

 その場合に濃厚なのは……世界的にも多くの同盟国と領土を持つ軍事国家『ラクリアール』である。あの国は、王族を『魔族』に殺されている為、数百年に渡って遺恨がある。

 

 「戦いになるんでしょうか?」

 

 アリスも、ただならない雰囲気に自ずとそんな懸念を口にする。

 

 「さぁな。戦争だとしても、街中に少し緊張感が足りない気もするが」

 

 それに、主都に入る時もさほど警戒された様子もなく、すんなり入れた。女王が、こっちが来る事を先読みしていて通す様に言っていた可能性もあるが、どうも腑に落ちない。

 

 「とにかく、人の多い所に行くぞ」

 

 単于は肩にアリスを乗せて、皆が歩いて行く先を見る。人だかりはサンタリアンの中央広場で出来ていた。

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