「ふむ。『黒龍族』に攫われたお姫様……ですか。まるで絵本になりそうな物語。せっかく、ファーナー殿の代わりに来たのですが……それどころでは無さそうですね」
サンタリアンの広場で、民の混乱を少しでも軽減する為に、ゆるく重要事態が書かれた立札を見ている糸のように細い目をした男が居た。
旅用のマントに身を隠し、その中の服には『神導教会』の紋章の着いた、魔法剣と腰布を装備している。
「正規軍も敗れたらしい」
「本当かよ。姫様はどうなるんだ?」
ふと、男は看板の件を話している者達へ耳を傾ける。
「ラディウス殿下は、クラリスさんに救出を頼むと言っていた」
「本当か? クラリスさんなら間違いなく、助け出してくれるな! なにせ、二代目【勇者】のメンバーだった人だ」
「ちょっと、そこの御二方。ちょっと聞いても良いですか? 二代目【勇者】の仲間――クラリッサ・ハリアンが、この国に?」
「ん? ああ。いきなりなんだ? アンタは――」
本来は旅人にも親身である『アウローラ』の国民も、今は様々な事が重なってピリピリしている。自然と見知らぬ者には警戒していた。
「これはすみません。私はリーガルと申します。三代目【勇者】殿の『従者』でして、此度の召喚に応え、赴きました」
「さて、ボクから君たちに提案をしたい」
「断る」
王子――ラディウスの懇願を、考える間もなしに一蹴する。その単于に、アリスは唖然とし、クラリスはお茶を人数分入れて戻ってきた。
「じゃあ、頼みごとにしよう」
「断る」
「話だけでも聞いてくれない?」
「断る」
「じゃあ、依頼にしよう。それでどう?」
「断る」
「報酬は、望むだけ用意するよ?」
「断る」
「単于さん!」
永遠に続きそうな問答に終止符を打ったのはアリスだった。彼女は一般的な思考から、このやり取りが不毛であると感じたのである。
「耳元で怒鳴るな。だいたい解るんだよ」
と、断られ続けているにも関わらず、ニコニコしているラディウスに、単于は呆れていた。
「ボクはね。王とか、国とか、そこまで大きな“責任”を背負うつもりはないんだよ。でも……
ラディウスの王族として役割は『アウローラ』の正規軍の総司令官であった。主に『疾駆騎士団』の総司令あると同時に、『天飛騎士団』の作戦行動の有無も決定している。
「国には『王』が必要だ。そして、これからの世代では……妹がこの国には必要不可欠なんだ」
今、世界の『魔族』に対する賛否が起こっている中、国のトップが国を空けるという事態に民は不安になると言うものだ。
「それに、少しでも有利な要素が必要不可欠なのも事実――」
ラディウスは必要な事だけを告げて、その言葉の裏を読み取らせない様に喋っていた。
「婆さんは、もう『世界会議』に行ったのか?」
「ああ。妹(ウィオラ)が攫われる前に出発しているし、この件は伝えてない」
伝えたところで事態が解決する訳じゃない。むしろ、不安にしてしまうだけだと、ラディウスは判断し、自分の所で情報を止めている。
「……クラリス、準備は出来てるな?」
「大丈夫です」
5年間、使ってなくても手入れを欠かさなかった“戦杖”をクラリスは自室から持ってくる。
「単于さん?」
「ウィオラには借りがある。ソレを返すだけだ」
アリスの言葉に単于は真意を返す。ウィオラは立場を押してでも『匈奴』に侵入しようとした【賢者】を攻撃しようとしていた。不発に終わったとは言え、こちらの為に軍を動かしたのは変えられない事実である。
「いいのかい? 敵は【勇者】を求めてる。君は、ソレに当てはまらないんじゃない?」
「
7年前に初めて単于と出会った時をクラリスは思い出す。あの時よりは近寄りがたい雰囲気は消えているが、世界を救った【勇者】がそこに居た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
中立都市『オベリスク』。
その都市へ今の時期に集まるのは『人の大陸』に存在する五大大国の統括者達である。
国の代表者達は、『オベリスク』停止地の砂漠――『サンドラ』へ様々な方法で訪れていた。
そして、『世界会議』が始まる時間。『オベリスク』の巨塔の、最も警備の行き届いた場にて、各国の代表がそれぞれの護衛を横に携えて円卓に着席する。
老若男女。各国の代表は、それぞれの顔を見ながら他国の様子を推測し牽制する。各自の思想を持つ切れ者ばかりであった。
無論、その中には『アウローラ』の女王――アリエース・サンタリアンの姿もある。
『各代表が、不当な圧力を受けない場として『オベリスク』を提供した。諸君らも、ソレを踏まえた上で、心ある発言をしていただきたい。私、ロギア・ハーロックからの話は以上だ。では』
その言葉だけが室内に響き、ロギアの言葉は消えた。そして――
「さて、三代目【魔王】だそうで」
初代【勇者】の所属国にして、『勇者協会』本部を持つ五大大国筆頭の国――『スタリス』。
その国王――クラングル・コクマが『世界会議』の開始を宣言する様に口を開いた。