主に、『人の大陸』全体に影響を及ぼす事柄が発生した時に、二ヵ国以上の召集要請が発令された際、他の三ヵ国も要請に応じる必要がある。
その召集によって大国の代表が集まる集会が『世界会議』と呼ばれ、過去に12回の召集が行われていた。そして、その感覚は半世紀毎である。
しかし、今回の『世界会議』は前回の7年後という異例の事態であり、五か国全ての承認と召集速度は過去最速であった。
二代目【魔王】が残した爪痕が癒えぬ『人の大陸』で、再び『世界会議』が行われる、と言う事は宣言しているようなものなのだ。
再び【魔王】が現れた、と――
第13回『世界会議』。たった7年という時間にもかかわらず、各国の代表達の顔ぶれは半数以上変わっていた。
「三代目【魔王】――」
言葉を発したのは、フランシス・レード。彼が代表とする国――『ラクリアール』は、『人の大陸』の中でも、一つの大陸を統治下に置き、巨大な軍事力と生産力で世界に莫大な影響を及ぼす国である。
「もう、『レジェンディア』の召集は世界にかけているんでしょう?」
次に、その場の面子に確認する様に、“その事”で声を発したのは『ジパング』の頭目の若い女だった。
独特の和服に身を包んだ彼女は――
「『レジェンディア』……世界中から集めた、“魔狩り”の精鋭たちの事ですね。二代目【魔王】の時は二代目【勇者】本人が拒否したので、召集は空振りに終わりましたが」
無視できない『レジェンディア』と言う単語を補足する様に説明したのは、若い雰囲気を持つ中年の男――ロード・ジーナスである。
彼は7年前に、『境の山脈』に造られた国――『グランジア』の管理領地長である。『人の大陸』と『魔の大陸』を隔てている国である為、自ずと『魔族』との関わりは強い。7年間で、この場に召集されるほどの影響力を示した事柄には、『魔族』の持つ技術の正当性を世界に伝えたと言う事からだった。
「ですが、突発的に判明した……かつての【魔王】よりも、三代目は自身で“居る”と公開しましたからなぁ。【勇者】が有無を発言したとしても、『レジェンディア』は防衛の為に組織しておくのは間違った判断では無いでしょう」
フランシスの二度目の発言に、まだ一度も発していないアリエースは沈黙を守っていた。
『人の大陸』に広大な影響力を持つ大国同士の会合。また一つ、【魔王】によって『人の大陸』が揺らぐ――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
単于たちは、王都――サンタリアンに一番近いウィオラの囚われている坑道の入り口へ訪れていた。
『第二希少鉱石採掘場』
採掘の作業模様が連想できる道具に、その作業に適した『ドワーフ』や『獣牙族』の作業員たちが存在して居た。近くには宿舎や簡易な入浴場まである。
そして、その一番奥に存在する坑道の入り口は、侵入者を喰らう魔物の様に不気味に闇を見せつけていた。
この坑道は宝石坑として機能していた。その為、多少離れている場所でも、サンタリアンの領地内までレールは引かれ、出口には小さな作業場と警備が設けられている。
「ここか」
その場所にノワールは到着し、その鞍には単于とクラリスが同乗していた。到着と同時に確認したのは多くの兵士と、駐屯している『アウローラ』の兵である。中には武器商人まで露店を開いていた。
「不謹慎ですね」
「武器は必要だ。相手が伝説級の奴らだからな」
単于は、現実的に状況を見回した。
武器を損傷したのか、ほとんどの者が武器を持っていなかった。持ってはいても、刃が欠けたり、折れたりした物を下取りで武器屋と交渉している。
「皆さん、武器がボロボロですね」
マントの背に回したフードに入っているアリスは、顔を出して単于と同じように周囲を見回していた。
「相手は『魔族』の中でも一線を画する『竜古族』だ。普通の武器なんて蚊に刺された程度にしか効かん」
彼らの鱗は、ただ硬いだけではない。
無論、剣や槍は通さない硬度を持ち、砲丸や投石も物ともしないが、その大きな要素は自らの『王』から与えられる『精霊王の加護』だと言われている。
つまり、彼らの鱗を傷つけるには、同じ『精霊王の加護』が施された武器が一般的である。だがそれは【勇者】の使う『伝説の武器』以外に存在しなかった。
後は龍の属性に合った『魔法武器』により、攻撃が通る可能性がある。しかし、『竜古族』に刃を突き立てる行為は、自殺にも等しい為、後者の選択はほぼ無い物として考えられていた。
「護れば陥落不可。攻めれば通った後は灰燼と化す。それが『竜古族』……そして、その中でも“地の支配者”と称されるのが『黒龍族』です」
クラリスは、丁寧にアリスへ『竜古族』について説明する。常識の範囲なのだが、そう言ったこともあまり関わりの無いアリスにとっては新鮮な情報だった。
「それで、単于さんじゃないと突破出来ないんですね!」
「一応はね。単于さん、もしかして、そっちが管理していたりします?」
「『伝説の剣』は『ゴルド王国』に返した。必要ないからな」
「あ、やっぱりですか」
唯一の武器である『伝説の武器』を既に単于は手放していた。本来の場所に、今でも厳重な警備の元で安置されている。
「あ、すみません! 失礼っ! 失礼!」
と、その三人に追いつく馬が在った。その馬はノワールが此処に来るまでに何人か追い越した者の一つである。その借馬に乗った男は三人を引き留める様に声を張り上げていた。
「……クラリス、負傷者が居るかもしれん。手当のついでに情報を集めてくれ」
「わかりました。では、後ほど」
単于は、これから入る坑道内部を知る為に、クラリスに情報収集を任せる。
「で、お前は誰だ?」
アリスをフードの中に入れて、馬から降りる狐眼の男に問う。明らかに自分たちを呼んでいたからだ。
「失礼。私は『クライルス』にて【魔法剣士】として登録されております、リーガル・デュケーンと申します」
「『クライルス』……教会か?」
その単語は、世界で最も耳にする言葉だった。
『クライルス』……正式には『神導教会』と呼ばれる、この世界に存在する最古の組織である。【精霊王】の在住の地とされるゴルド王国に本部を持ち、頂点の『神導使』は【精霊王】の声を聞く事が出来ると言われており、予知能力も持ち合わせる事から、その信憑性は絶大で信者は世界中にいる。
最も、『魔の大陸』という脅威から、心の支えとして人々の生活にも浅く浸透しており、本来は『魔族』も『人間』も差別の無いモノとして教えていた。
「実は、『クライルス』は、クラリッサ殿の所在を捜していまして……出来る事なら復帰していただきたいと思っているのです」
クラリッサ。クラリスの本名である。彼女は【魔王】討伐の恩賞を全て断って、『アウローラ』で一から生活を始めていた。本人の意向で、教会には在住を知られない様に考慮してもらっていたのだ。
「それだけじゃないだろ?」
無論、単于としてはソレだけが目的ではないと、リーガルの装いを見て判断していた。
立ち振る舞いや、持ち合わせている雰囲気。馬を降りた時に判明した利き手側と反対に剣を携え、僅かに下げた片足は即座に抜刀できるように自然と置いているようだった。