ソリダオン   作:真将

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30.“神徒”と“崇められる者”

 未だに、実力を隠していると判断し、単于は坑道に入る前に、リーガルの本質を推し量っていた。

 

 「お前は『クライルス』だと言うのに、この場に慣れ過ぎている。例の『黒龍族』を討伐しに来たのか?」

 

 立ち方から視線の運ばせ方に至るまで、ただ教会で経本を読んでいる司祭とは思えなかった。寧ろ、戦いに身を置く戦士の風格を問題なく身に着けている。そして、腰に差している『魔法剣』も、どんな属性かは抜くまで解らないがソレ一つだけを武器としているのなら、相当な使い手だろう。

 

 「正直な所、二代目【勇者】の仲間である、クラリッサ殿の『王女救出』へ微力ながら協力したいと思ったのです」

 「…………」

 「ところで、貴方も彼女の仲間ですか?」

 「……二代目【勇者】の協力者だった者だ。クラリスとは知り合いでね」

 

 まだ、リーガルは得体の知れない存在である。その腹の内に何を抱えているのか、流石に初対面では判断できない。

 

 「貴方も相当な実力者ですね。その『魔法剣』も『黒龍族』用でしょう?」

 

 単于の腰に有る刀――『無月』を見て彼も高い実力を持っていると判断する。出来れば手を出したくない存在は互いであるようだ。『魔法武器』を使う者は、自ずと人の実力には当てはまらない事が多い。

 

 【魔道士】ならまだしも、武芸者が魔法を使うと言う行為は、普通の人間よりも立ち回れる幅が広い事を意味している。人では対応しきれない複数戦も難なくこなし、単身でも戦略的にも重要な場所で起用される。

 貴重な戦力であり、同時に一人で一個師団並みの影響力を持つ存在でもあるのだ。

 

 「最初から『黒龍族』と戦うつもりなら、こんな所には来ない。ただ、借りを返しに来ただけだ。王女には家族が世話になったからな」

 「ふむ。独特な民族着のようですが、『アウローラ』の方ですか?」

 「この国へは移住してきた者だ。前の集落の名残でね。オレは老上(ラオシャン)と言う」

 

 適当に名前も偽りながら、そんな事を話していると、

 

 「戻りました。どうやら坑道内はいくつか別れ道があるようで、炭鉱関係者によりますと、奥へ500メートルほど進んだところで拓けた、トロッコの中継地点があるそうです」

 

 一通り場を見回り、情報を持ち帰ったクラリスが現れる。

 

 「こちらの方……って! リーガル大司教!?」

 「知り合いか?」

 

 クラリスの様子に単于は尋ねる。反応からして、だいぶ上の位か?

 

 「は、はい。彼は『クライルス』本部所属のリーガル・デュケーン大司教です。私も何度か、典礼をお受けした事もあります」

 「お前も、最後は司教だったか?」

 「はい。ですが『クライルス』本部で登録されている者の階級は暫定的で、称号以上の権限を持っています」

 「光栄ですね。世界を救った【勇者】の仲間である貴方に、そう評価されるなんて」

 「あ、いえ……私は、そんなに大それた事は……」

 

 どうやら、リーガルは『クライルス』の中でも名のある者のようだ。確かに7年前……『アウローラ』の『クライルス』の支部で【魔王】討伐の旅に推薦された中で、彼の名前があったような気もする。

 

 「どうやら、そいつは二代目【勇者】の仲間である、お前の実力を見に来たらしい。加えて、お前を『クライルス』に引き戻したいんだと」

 「え、それは……申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

 

 リーガルの目的を、間接的に単于の口から聞いたクラリスは、丁寧に頭を下げて断りを入れた。

 

 「理由を聞いても良いですか?」

 「……私の“神”は別の場所に居ると気が付いたからです」

 

 その言葉が誰に向けられているのか、リーガルは察したような、そうで無い様な曖昧な表情で諦めた。

 

 「解りました。本部にはそう伝えて、今後貴女に対しての干渉を外す様に働きかけましょう」

 「ありがとうございます」

 「話は終わったな。行くぞ、クラリス」

 

 単于はノワールを近くの兵士に預けて、坑道の入り口へ足を向けた。

 

 「もう、入るのですか? 少しは休んでからの方が良いのでは?」

 

 歩き出した単于と、それに疑問を抱かずに後に続くクラリスへ、リーガルは問う。相手は伝説の『魔族』――『黒龍族』だ。万全の準備が必要だと思っていた。

 

 「必要ない。ただ、足を運ぶだけだからな」

 

 躊躇いの無い、その言葉は無策では無いだろうと察し、かつて世界を救った者達が、現在で最も危険なダンジョンを切り抜けるのか興味が出ていた。

 

 「ふむ……では、私も同行しても良いでしょうか? 後学の為に『黒龍族』は一度見ておきたいと思っていたのですよ」

 

 リーガルの提案に、単于は足を止める。そして、クラリスを見て意見を求めた。

 

 「足手まといにならないと思います。むしろ私よりも役に立つと思います」

 「……リーガル。その『魔法剣』の属性を教えてくれるか?」

 

 単于は、まるでソレが条件であるようにリーガルへ問う。

 

 「『土』です。なので、坑道内では大変役に立つと思いますよ」

 「なら、手を貸してくれ」

 

 その言葉に、一度狐目を開いて単于を確認すると、リーガルも二人の後に続く。

 

 「よろしくお願いします。老上(ラオシャン)さん」

 

 と、フードからリーガルに見えない様に顔を出したアリスは単于だけに聞こえる様に小声で話しかける。

 

 

 

 

 

 「単于さん。いいんですか?」

 「とりあえずは信用できる。お前からすればどうだ? 嫌な奴か?」

 

 『妖精』の持つ能力で、人の心をアリスは感じ取ることが出来る。それを信用するならリーガルからは悪意をまるで感じなかった。

 

 「いえ……悪意は感じませんでした。けど、私の姿は見えていないみたい」

 

 アリスは人の目が多い所では認識できる者以外には姿を不可視にしているが、エーテルを常に扱う者からすれば捉える事は難しくは無い。

 

 「どこまで魔法が使えるのかは解らんが、クラリスも信用している。多少警戒する程度で問題ない」

 「なら、連れて行かない方が良かったんじゃ……」

 「いま、この場所に居る“戦士”で一番厄介なのはリーガルだ。嘘か本当かは知らないが、あの『魔法剣』は出来るだけ眼の届く範囲に置いておきたい」

 

 本来、『魔法武器』の所持は正式な許可が無ければ違法であるため、戦場以外での運用と所持は、所属している国が許可しなければならない。例外として【勇者】に限り、そのあたりの法律は無視されている。

 今回リーガルが『魔法武器』を所持したまま『アウローラ』へ入れたのは、女王の不在と、王女誘拐による外部侵入者への対処が遅れている事にあった。

 

 「……ウィオラをさっさと王宮に戻さなければ、背後ばかり気になって先に進めん」

 

 『アウローラ』が脅かされれば、次は『匈奴』へ危険が及ぶ。【賢者】が『匈奴』で消失した事もあり、少しでも背後を気にする懸念は消しておきたいのだ。

 

 「わたしは単于さんの決定に従います」

 

 良く考えれば、最良となる状況に辿り着くための選択を単于は瞬時に見極めている。素人が見ても、迷いの無い英断は誰にでも出来る事ではないと解る。

 

 「そう言えば、さっきの“老上(ラオシャン)”って誰の名前なんですか?」

 「オレの(フー)の名前だ。もう、この世には居ないから気にする必要ない」

 

 

 

 

 「それでは、コレを頼む。超特急でね」

 「わかりました。ラディウス様」

 

 単于たちが(ウィオラ)救出へ向かってからすぐ、ラディウスは『オベリスク』に居る女王(アリエース)へ最も早く到着する飛鷹便で送っていた。

 飛んでいく鷹は、多くの中継地点に辿り着いて、それで『オベリスク』へ到達する。手紙を入れた筒は緊急の王族使用のモノなので他よりも優先してくれるだろう。

 だが、手紙(ソレ)が間に合うかは本当に賭けだ。時間的には会議が始まる時間ギリギリに付く可能性が高い。それも、発送状況で何も弊害がなく、最速でたどり着いた場合である。

 

 「……少なくとも、『レジェンディア』の主導権を握るのが『ラクリアール』以外なら、まだ何とかなりそうなものだけれど……」

 

 姿が消えるまで手紙を乗せた鷹を見ていたラディウスは、異常とも取れる『魔族』に対する圧力が緩和されることを祈った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「『レジェンディア』の召集は……まだ発令しておりません」

 

 『世界会議』の最中、その言葉を言い放ったのは、初代【勇者】の所属国で『勇者協会』本部を持つ、この場でも筆頭格となる大国『スタリス』の国王――クラングル・コクマだった。

 彼は、『魔軍殲滅師団(レジェンディア)』の召集が、未だ発令されていないことを、その場の面々に打ちあけた。

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