ソリダオン   作:真将

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33.新たな先導者

 7年前に『境の山脈』に創られた国――『グランジア』。

 その領地管理長のロード・ジーナスは今回の『世界会議』での立ち回りは既に決めていたが、フランシスの発言は無視できないモノとして耳を傾けた。

 

 東の海に浮かぶ、四つの島が集まって出来た国――『ジパング』。

 その頭目――十六夜空(いざよいそら)は不意で軽率とも取れるフランシスの発言が、どのようなモノになるかを黙って聞いている事にした。

 

 そして、二人――ロードと空が、共通で思ったことが一つだけある。

 何を言うつもりだ? と――

 

 「今思えば……実に無謀な行為だった。初代【勇者】は当時20歳にも満たない青年と言われ、二代目【勇者】も16と言う若さで世界を背負って……我々(ひと)の為に世界を歩んだ。確かに【魔王】は【勇者】でしか倒せない。だが我々でも、幾分かは、やり様が、あったはずだ」

 「…………」

 

 フランシス以外は静かなモノだった。しかし、各員の内心は穏やかなものではない。今更何を言い出すのだ、と視線で告げている。

 

 「【勇者】が『人の大陸』に居る間に、我々で『魔の大陸』の探索をすればいい。【魔王】に関する有益な情報をこちらでまとめて、必要な物は確保してあげればよかった。大陸間の移動に安全で専用のプランを設けても良かった」

 

 そこまで告げた時点で、フランシスが何を言おうとしているのか、他の者達は理解した。理解する同時に……ソレは解っていながら、各国とも決して口に出す事をしなかった事柄であるのだ。

 それは一種の禁句(タブー)。見て見ぬフリをしてきた……『人の大陸』の罪でもある。

 

 「【魔王】のみならず、『魔の大陸』には一種族で『人の大陸』を滅ぼす事の出来る『魔族』も多数存在して居る。そんな危険な地へ、我々は【勇者】を送り込んだ――」

 

 『アウローラ』の女王――アリエース・サンタリアンも眼を閉じて、その言葉に耳を傾けている。対して『スタリス』の国王――フラングル・コクマは震える拳を机の下に隠していた。

 

 「20にも満たない青年たちへ……我々の“業”を押し付けた。全ては【魔王】による各々の国の被害を最小限に食い止める……保身に走ったが為に!」

 

 その言葉は、【魔王】を倒した二人の【勇者】の戦いと、ソレに支援した者達の存在意味を、完全に否定する言葉そのものだったのだ。

 

 彼らの歩みは偽り無きもの。【魔王】を倒した功績は、代々語り継がれ(ものがたり)として語られる。しかし、その中で国が大きく動いて【勇者】を支援した結果は無いのだ。

 むしろ、【魔王】に眼をつけられることを恐れた各国は、【勇者】は大丈夫だと、それらしい理由を掲げて、強い支援を行わなかったのである。

 それによって【勇者】は過酷な旅路を歩いたと“伝説”は記録しているが、ソレは全て国が十分な支援を行わなかった事による結果だったのだ。

 

 「今回の三代目【勇者】の支援に関しましては、我々『ラクリアール』が先導しましょう。既に我が国を挙げての精鋭――『魔導騎士団』の召集を行っています。【勇者】による『魔の大陸』の侵入と攻略の支援指揮を委ねていただきたい」

 

 他の四ヶ国の代表達は、何も言い返せなかった。

 

 筋は通っている。【勇者】が【魔王】を倒してくれればこそ、『人の大陸』は何も言う事は無い。過酷な旅路は必要ないのだ。

 ただ、【勇者】が【魔王】と対峙できる状況を作ればいい。その為には、万全の支援と『魔の大陸』でも、弊害なしに進める戦力を求めるのは当然の事――

 

 初代と二代目【勇者】は、その様な支援を求めず【魔王】を討ち取った。それは伝説となるべき事柄だが、その代償は【勇者】個人をあまりにも酷使してしまうと言う事態を引き起こしている。

 その結果、二代目【勇者】は世界に何も告げず、何も求めず、ただ失望して“失踪”していた。

 そして、指針を失った世界に現れたのが三代目【勇者】であり、過の者も声によって発令された――『魔族殲滅宣言』に、誰も強く異を唱える事は出来なくなったのである。

 

 “お前が先導するんじゃない”

 

 と、フランシスに対して言う事は誰も出来ない。

 三代目【勇者】の所属国である『ラクリアール』は『魔族』の殲滅を強く唱えている。過去に王族を『魔族』に暗殺され、それ以来『魔族』に対する嫌悪は国全体に浸透しているのだ。中では、『魔族』を奴隷として使用していると言う噂もある。

 

 それほどの迫害ぶりから、発令した『魔族殲滅宣言』も『ラクリアール』が強く関わっている事は明白。そして、『スタリス』の世界への復興支援作業にも、少なからず――

 

 “『魔軍殲滅師団(レジェンディア)』の召集は……二代目【魔王】による世界の損傷を修復中である為、未だ発令はしておりません”

 

 三代目【勇者】の『魔族殲滅宣言』によって『スタリス』の『魔族』を中心とした精鋭は、各国の被災地への侵入が困難になっていたのだ。

 その為、そう言った物事に対する専門家たちの立ち回りが困難になり、作業は大きく遅れている。中には既に配置についていた『魔族』が、その地から強制退去させられた事もあり、その場には『人間』の人材を送るしかなくなったのである。

 

 こう言った事態が、支援を行っている各地で起こったのだ。結果、支援作業は中断や遅延が多く引き起こり、今回の『魔王』出現による『レジェンディア』召集も手が回らない事態を引き起こしている。

 

 「…………」

 

 クラングルは思わず拳を円卓に叩きつけそうになったが、悔しそうに自制していた。なぜなら、ほぼ間違いないからである。

 

 “テメェの国の【勇者】の『魔族殲滅宣言』の所為で、未だに世界が傷だらけだ!”

 

 と、言う事は出来なかった。言えば間違いなく……『人の大陸』で対立戦争が起こってしまう。ソレは、【魔王】を正面に構える『人の大陸』として滅びに向かう序章でしかない。『人の大陸』不恰好ながらも一致団結しなければ、『人間』という種は容易く滅ぼされてしまう。

 そう言った発言も出来ない事を読んだ上で、フランシスは自国が今後の指揮を取ると、この場で告げたのだ。

 もはや覆る事は無い。『ラクリアール』が今後の筆頭国となり、『人の大陸』から全ての『魔族』は消え去る。フランシスは内心、勝利の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 「ハザードさん。仲間になる件は考えてくれたかな?」

 

 三代目【勇者】――リオル・カナイは、屈託のない笑顔でハザードへ言い寄ってくる。その様子に彼女は、とりあえず機嫌を取るか、と言った雰囲気で愛想笑いを浮かべた。

 

 「その件に関しましては丁重に、お断りいたしましたよ? 【勇者】様」

 「【勇者】? いえいえ、俺の事はリオルと、呼んで頂いても結構ですよ」

 

 と、流れる様に手を取ってくるリオルの行動にハザードは背筋に嫌悪感が走る。このまま凍らせてやろうか! それとも燃やすか?!

 

 「ハハ……そんな事は恐れ多いですわ。【勇者】様を呼び捨てなんて――」

 

 顔に出さずに、大人な対応をする。その様子にグランファスは、失笑を悟られない様に顔を逸らした。

 彼女は、単于の事を一度も【勇者】と呼んだ事が無いからである。まぁ、彼がその呼び方が好きじゃなかった事もあったのだが。

 

 「俺には解っていますよ、ハザードさん。貴女は死んだ二代目の事を今でも気に掛けているのでしょう?」

 「は?」

 

 その言葉に、思わずそんな間の抜けた声が出た。世間一般から見れば、確かに単于は失踪扱いであるが、死んだと確定したわけでもない。

 

 「確かに二代目は、【魔王】を倒した。ですが、それは優秀な貴女やグランファス殿が付き人として同行していたからに過ぎないでしょう」

 「どうも」

 

 と、グランファスは後頭部に手を当てて軽く会釈する。二代目【魔王】の討伐後も、世界に対して、ある程度の地位を設けている二人を見れば、そう思われても仕方ない。

 

 「俺は確実に【魔王】を倒せるように、個ではなく集団の理を提案されたのです。仲間には人にとって脅威となる『魔族』に対するスペシャリスト達も召集しています」

 

 リオルは三代目【勇者】として選ばれた時から解っていた。自分ならば問題なく三代目【魔王】を倒すことが出来る。他に邪魔されずに、【魔王】と相対する事が出来れば確実に討ち取れると確信していた。

 

 「過去の【魔王】たちにも配下に居た『竜古族』対策には、古くから【龍殺し】と称される者達も『従者』に居ます。深淵級の『闇魔導』の使い手も参戦しています」

 「あら。それでしたら、わたくしは必要ありませんわ。【勇者】様の戦力だけで十分、【魔王】を討ち倒すことは可能ですわよ」

 

 愛想笑いとは裏腹に、さっさと手を放せ! と、ハザードの心の声が響く。

 

 「けれど、俺は過信していない。物事には盤石を期すると言うモノです。そこで、その穴を埋める為に【賢者】である貴女に、俺の仲間になっていただきたい」

 

 この言葉は、『魔導結社』が行った、三代目【勇者】との邂逅式にて、初めて顔を合わせた時から言われている事だった。

 その時は、やんわり断ったが、その後も、手紙が届いたり、復興作業の現場にも、近くにいたと言う理由で寄ってきたりと、正直うんざりしている。

 

 今も、昔も、そしてこれからも、彼女の心は変わらない。

 今から10年も前の話だ……まだ、彼が【勇者】でなかった頃に救われた。

 誰もが諦めた……わたしの命を彼は何も迷うことなく救ったのである。

 

 「失礼、【勇者】様。彼女の心を動かすのは容易ではありせん。同じように旅をした者だからこそ、その過酷さは仲間全員の“絆”なのです。共に戦うと言う事は心が通じ合っていて初めて成り立つもの。今はハザード殿も、【勇者】様の懇願を即答できない立場でもありまし、今は日を改めるのが得策だと思いますよ」

 

 ハザードの気持ちはグランファスも強く理解している。そして、単于とホワイトが両想いと知っていても、ハザードの彼に対する気持ちが、少しも薄れない事も同様だった。

 

 すると、その場に居る全員にエーテルを介した通信が入る。

 内容は『厳戒態勢解除。各国へ帰還する為、撤収作業を開始せよ』といった物で『世界会議』の終了を意味していた。

 

 「……そうですね。今日は、お互いに役割ある立場と言う事を忘れないでおきます。それでは、ハザード殿。お返事は早めに」

 

 と、リオルは塔の入り口から出てきた、『ラクリアール』の総帥――フランシスと共に砂上船に乗った。

 

 「…………」

 

 心からリオルの事を好きに慣れないハザードは、道具の中から塩を出して辺りに撒く。

 

 「さて、ハザードちゃん。仕事をしよう。『スタリス』のクラングル国王を本国まで護衛するよ」

 「はーい」

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