ソリダオン   作:真将

38 / 45
35.裏側の情勢

 “二代目【勇者】――撐犁孤塗単于(とうりことぜんう)は、【魔王】討伐後、『匈奴』へ入り行方不明。調査部隊は『匈奴』を進行する事が困難であり、捜索は不可能に近い。”

 

 『アウローラ』より、その報告を受けて、それ以上の調査は不可能である事から、二代目は死亡したと判断していた。

 

 無論、各国は秘密裏に密偵を派遣して『アウローラ』全体をくまなく捜し、『匈奴』へも侵入を試みた。

 しかし、予想以上に過酷な『匈奴』の環境は……進めば決して戻る事の出来ない土地であった為、どの国も断念。『魔族』でさえ、先の見えない雪原を進むのは自殺でしかないと判断したのである。

 その事から、『アウローラ』の報告は確定であると、各国認識していた。

 いたのだが――

 

 「撐犁孤塗単于(とうりことぜんう)殿が、再び世界へ歩み出しました」

 

 その言葉は、円卓に座る各国の代表達へ正確な情報として入って来た。同時に、絶対的に無視できない言葉でもあったのだ。

 

 「い、今……なんと? サンタリアン女王――」

 

 何とか搾り出すような声を出せたのは、十六夜空ただ一人である。他は、まるで余命を告げられた様に無言で驚き、押し黙っている。

 

 「あら、失礼。ただの宰相であった(わたくし)には少しばかり息苦しい雰囲気だったもので――」

 

 ホホホッと口元に手を当てて敵意なく微笑む。

 

 「クラングル殿は忙しい中であっても、民からの支持は厚いのですね。先代の頃から知っておりますが、見習いたいと思います」

 「ハ、ハハ。どうも――」

 

 ちょっと、ちょっと……

 空は困惑していた。何事もなく話を進め出したアリエースを誰も追求しようとしないからだ。

 

 「ロード殿も……僅か7年で、『世界会議』に召集されるほどの統治はお見事です。『魔の大陸』の技術は、『アウローラ』でもよく見かけます。貴方の国あっての事でしょうね」

 「御謙遜を。私など、貴方の国に比べれば、まだまだ未熟も良いところです」

 

 え? ちょっと……『グランジア』?

 

 「(わたくし)の方は、久しぶりに二代目【勇者】――撐犁孤塗単于(とうりことぜんう)殿とお会いしまして。元気そうでしたよ」

 

 まるで孫を自慢する様に、アリエースは満足そうに微笑む。重要過ぎる情報を日常会話の様に切り出した様子は、マイペースな彼女らしい。らしいのだが――

 

 「ただ、今言うべき事だと思ったので、僭越ながら喋らせてもらいました」

 「ほ、本当?」

 

 アリエースと他国とのやり取りに多くの違和感を覚えたが、空がようやく口にできた言葉は、それだけだった。

 

 「本当です。裏を取るかは……皆さんに、お任せします」

 

 確かに……言わなければならない事だが……

 

 空はフランシスを見る。彼は、無表情でアリエースの言葉を聞いていたが、内心は尋常もなく揺さぶられていた。

 

 【勇者】とは、『人の大陸』の“指針となる存在”である。

 その歩みは、生き様は、全ての『人間』の希望であり、過の伝説が歩く先は【魔王】を倒す為の軌跡であるのだ。

 故に、三代目【勇者】を祭り上げる『ラクリアール』は今回の【魔王】討伐を機に、先導国として、『魔族殲滅宣言』を『人の大陸』に浸透させるつもりだった。

 

 だが、そこに二代目【勇者】が現れた。

 

 『人の大陸』はどちらを支持するだろうか?

 

 【魔王】を倒した“二代目”と、【魔王】を倒す予定の“三代目”……

 

 明確な指針(ゆうしゃ)が居なかったからこそ、今までは『魔族殲滅宣言』が無理やりにでも機能していた。しかし、今後は――

 

 「――素晴らしいではないですか。世界を救った【勇者】殿は、再び世界を救う為に動き出したのですね」

 

 フランシスは笑みを浮かべて、アリエースへ語り返す。

 

 「これで『人の大陸』は安泰と言うものです。人類の未来の為に、今こそ手を取り合い、共に(・・)【魔王】を討伐しましょう!」

 

 当然そうなる。何も懸念は無かった『ラクリアール』だが、ここに来て不測の事態――二代目【勇者】の生存が明らかにされたのだ。協力する事こそが『人の大陸』の為になると、建て前を取るのは予測できたことである。

 

 なんで、黙っておかなかったのよ? 二代目【勇者】の生存は、全ておいて状況をひっくり返す切り札。それなのに……それを宣言すると言う事は、手札を全て晒すに等しい行為じゃない!

 

 と、空はアリエースへ視線を送るが、ソレも察している彼女は特に気にしていない様子だった。何を考えているのか、まったく読めない。

 

 「いいえ。皆さんも知っていると思いますが、撐犁孤塗単于(とうりことぜんう)殿は自身の道しか歩まれません。(わたくし)程度には、彼の行動を制御する事は不可能です」

 

 確かに、二代目【勇者】が大きく世界に支援を求めた時は、【魔王】による『魔族』の軍勢が押し寄せると言う情報からの対抗戦力を揃える時だけだった。

 その時は『レジェンディア』では間に合わず、近隣諸国による連合軍による戦闘が展開されたのである。

 

 今、二代目がどこに居るのかは『アウローラ』は把握しているハズだ。そうでなければ、こういった場ではっきりと発言は出来ない。

 

 「…………」

 

 空は迷っていた。たった今『ラクリアール』は、危険であると判断したのだが……『アウローラ』もそれなりの切り札を用意していた。

 どっちが最良なのか……どっちに就けば――

 

 「良いと思いますよ。二代目には好きにさせましょう」

 

 その『アウローラ』に『グランジア』の管理領地長であるロードは、彼女の言葉に疑うことなく賛同する。

 『スタリス』は元より、三代目【勇者】の先駆けには否定的だったため、自然と『アウローラ』へ賛同する形となっていた。

 

 つまり、彼らの決断は……二代目【勇者】を支持し、勢いづく『ラクリアール』を牽制すると言う事だ。

 

 確かに、『魔族』と関わりのある他国では『魔族殲滅宣言』は自国の国力を落す事態になりかねない。

 だが……三代目に比べて、二代目は大きく出遅れている。その上、所在も定かでない事や、『ラクリアール』からの圧力や暗殺の可能性も防がなくてはならない。

 そして、祭り上げられる事が嫌いな二代目を、“生きている”と世界に公表しても『魔族殲滅宣言』の停止は即座には行われないだろう。

 『ラクリアール』は必ず二代目【勇者】に対して何らかの手段を講じるだろう。無論、多くの刺客も送り込まれるに違いない。

 

 対して自由に移動し、ほとんど現状報告をしない二代目【勇者】――単于を的確に支援するのは難しい。せめて昔の仲間である、【賢者(ハザード)】や【猛槍(グランファス)】が居るのなら、間接的にも手は出し辛いのだが……

 

 それまでは、独自に切り抜けてもらうしかない。敵となる“存在(モノ)”からの襲撃を――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。