ソリダオン   作:真将

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36.一歩の意志

 「二手に別れる?」

 

 リーガルは分かれ道で立ち止まった単于からの発言に、怪訝そうな表情で返す。

 

 「ああ。あまり、時間をかけるのは良くない。どちらかが外れにせよ、全滅は避けられる」

 

 自分達が懐へ迫っている事は、敵も解っているハズだ。リーを無事に抜けて進んでいると悟られている以上、無駄に時間をかけると王女(ウィオラ)の安否が危機に晒されるかもしれない。

 最善の手として、この道で別れると提案したのである。

 

 「王女を救出した時点で、もう片方は脇目を触れずに坑道から脱出だ。いいな?」

 「もし、【黒龍王】とウィオラ姫が同じ場所に居た場合は?」

 「その時は、生き残った方が戻り、今後の対策をとる。ここまで踏み込んだ事は大きな収穫だ。今まではコイツに皆止められてたらしいからな」

 「コイツじゃないよ! リーだよ!」

 

 頬を膨らませてリーは怒る。単于が居なければ彼女を越える事すら出来なかっただろう。そもそも、リーが聞いている時点で作戦が筒抜けなのだが、その内容を彼女は理解していないので特に気にしていなかった。

 

 「クラリス。お前は、リーガルと共に左の道を行け」

 「はい」

 「リー、お前はオレと右の道だ」

 「えー! リーは、おねえちゃんとがいい!」

 

 クラリスに懐いているリーは彼女の腰にしがみついて離れようとしない。

 

 「リーちゃん。後で授業してあげるから。今は彼の言う事を聞いてね」

 「え! わーい! じゃあ、おにーちゃんといくー!」

 

 あっさり、クラリスから離れた。この辺りの扱いも教師をやっているだけあって、手慣れたものである。

 

 「気をつけろ。『黒龍族』と出会ったら、無理はせずに引け」

 「はい」

 「老上(ラオシャン)殿は大丈夫ですか?」

 

 リーガルは、単于の方を懸念する。リーを連れて行くとは言え、彼は単独のようなものだ。『空のエーテル』で戦わずに敵を抑えることが出来ると言っても、それが効いたのは未熟な個体だったリーだからである。

 エーテルの扱いに長けた成熟固体が居た場合は、その様には行かないだろう。

 

 「正直な事を言うと、お前達が居るとやり辛い」

 

 自分が本気を出した際、場所が閉鎖空間であれば味方ごと巻き添えとなる可能性が高いのだ。特に、リーガルの『土の魔法剣』は敵の“絶域”の中である為、使用が制限されており、空間そのものに作用する『風のエーテル』の方が現状は有効に機能するのである。

 

 「どっちにせよ、“当り”を引かない様に祈るんだな」

 「当り?」

 

 と、単于は右の通路へ歩き、リーがその後に続く。

 

 「【黒龍王】に当らないように、だ」

 

 

 

 

 

 「グライド、オイラには責任がある。先代から【黒龍王】を引継ぎ、一族を率いていく上で、必要な事は自ずと感じているよ」

 

 坑道の奥地にて、【黒龍王】は顎に手を当てながら配下の一人であるグライドと、エーテルを使い通信していた。

 

 『よく解るわ。私も先代――ライザーハン殿下には1000年以上仕えたもの』

 

 グライドは『黒龍族』の中でも長らく王族に仕える配下の血筋の『黒龍』である。故に、立場を継いだ現【黒龍王】の事は産まれた時から知っていた。

 

 「『魔族殲滅宣言』。オイラは皆を護るために、この地にいる。今回の件を三代目【勇者】に受諾してもらい、『人の大陸』に居る同族全てを連れて帰る」

 『はい、私も同意見です。もはや『人の大陸』には『黒龍族』の居場所はありません。なら、【霊峰】にて一族全員で迎え撃つ。理にかなった判断です』

 「古い仕来りの所為で、【霊峰】から迫害を受けた者も、全て故郷へ連れて帰るよ。ソレを『人間』が拒んだら、国を灰にしてでも奪還する」

 

 今回の『アウローラ』の王女――ウィオラ・サンタリアンの誘拐は、三代目【勇者】へこちらの力を見せつける事と、現れなかった場合に『姫を見捨てた【勇者】』と世界に認識される事で、その威厳を少しでも落す為でもあった。

 

 『最後までお付き合いします。今の『王』は貴方なのですから』

 「ああ。それと、“絶域”の一部に異変を感じた。王女さんの様子と、ついでにリーも見て来てくれ。あいつ興味本位で着いてきちゃったから、出来れば保護して」

 『困った妹君ですね』

 「【黒龍王】って言ってくれるだけ、状況の分別は出来てるけどな」

 

 

 

 

 

 「単于さん。もし【黒龍王】と戦っても勝機はあるんですか?」

 

 アリスは余計な事を言わない様に、単于に釘を刺されていた為、リーガルの居る場では口を閉じていた。そして、今は彼がいない為フードから身を出して疑問を投げかけたのである。

 

 「! わー! かわいいお人形さーん!」

 

 単于のフードから顔を出したアリスを見てリーは当然の様に反応した。そのまま単于をよじ登ろうとする。

 

 「……ほれ」

 

 それを鬱陶しいと感じた単于はアリスの服の襟首を掴むと、リーへ差し出す。

 

 「え? ええっ!? 単于さ――」

 「わーい! おにいちゃんありがとう!」

 

 ギュっと自身を抱きしめるリーに困惑しながらも、アリスは差し出した単于に助けを請う。

 

 「役に立ってるぞ。アリス」

 「えー! それって本気で言ってます!?」

 「ああ。それと、さっきの質問の答えは、勝機ゼロ、だ」

 

 『伝説の剣』が手元にあるなら何とかなるかもしれないが、所持していない今では勝機は無きに等しい。

 【黒龍王】はただの『黒龍族』とは、桁違いの能力を持つと言われている。

 

 まずは、その鱗にいくらエーテルで強化しても刃を通すことはまず不可能。『精霊王の加護』を全身の表層に受けている為、物理的に硬いレベルを通り越えているのだ。剣でマグマを斬ろうとするものである。

 

 次に、内包するエーテルが桁違いなのである。ただの『火のエーテル』が、万物を溶解させる灼熱であったり、『水のエーテル』が単なる水滴を操るだけに留まらず、雨雲を作り、止まない雨を降らせたりと……加えて、それだけやっても一切息切れしない程のエーテルを内包している。

 

 人の使う“魔法”に比べて、起こる現象がまさに“災害”なのだ。神と比喩されるのも納得がいくレベルとなっている。

 

 「別に張り合うつもりはないんだけどな。昔、【黒龍王】と対面した時に本能で解ったよ。コイツに手を出すと間違いなく『人間』という種は滅ぶってな」

 

 かつては『伝説の剣』を持っていた。持っていても本気でそう思ったのである。

 

 「だが、『竜古族』は『人間』と争うのでもなく、干渉しないのでもなく、人の中で生きる事を選んだ。オレ達も見習わなきゃって、初めて他人に感心した種族でもある」

 

 単于も敬意を払うのは、自身の家族と一族の身内だけだと思っていた。しかし、広い世界を知って、他人からも学ぶべき事があると初めて感じたのである。

 

 「そーだよー! リーたちはね! ずっとおべんきょうする、いちぞくなのだ!」

 

 えっへん、とアリスを抱えたまま誇らしげに横を歩くリーに、やれやれとため息を吐くと、手ごろな高さに在った彼女(リー)の頭をガシガシと撫でた。

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